2020 年、人々は会うことや移動が制限されたことで対面でのコミュニケーションが減り、ネット上につながりを求める人が増えました。
そんな中 YouTube ではどういった動画が見られるようになったのでしょうか。先日公開した「YouTube カルチャー & トレンドレポート 2021」の発表を基に、「リアルタイム性」「インフォーマル感」「没入体験」という日本の 3 つのトレンドを紹介します。
音楽ライブからチャレンジ企画まで、感動を共有する......「リアルタイム性」
まずポイントになるのは「リアルタイム性」です。
コロナ禍で多くのイベントや音楽ライブが中止になり、代わりとなる発信の場としてオンラインが注目されました。イベントやコンサートをライブ配信で楽しむ人も急増し、2021 年 5 月の調査では、日本で 64% の人が過去 12 カ月の間にライブ配信を視聴しました(*1)。
たとえばアーティストのまふまふ氏は、2020 年 5 月に東京ドームでの無観客ライブを YouTube で世界に配信し、最高で 18 万人以上の同時視聴者数を記録しました。現在、動画の視聴回数は 300 万回を超えています(*2)。ライブ配信を通じて、実際の会場には入りきらない数の観客がリアルタイムにイベントに参加できたのです。
また、韓国のアーティスト BTS のチャンネルでは、世界中のファンたちを 1 つの場所に集め、リリースの発表の瞬間を共有する仕掛けを作り出しました。新曲「Butter」のリリース発表直前に公開したライブ配信です。1 時間以上にわたってバターが溶けていく音を配信するというもので、ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:聞いたり見たりすることで感じる心地良いもの)な内容が話題になりました。
視聴者との一体感を生み出したと言えば、ライブ配信でのチャレンジ企画にも注目が集まりました。たとえば 48 時間ウォーキングマシンを 6 人のメンバーが交代で歩き続けた東海オンエアの配信は、達成の瞬間にたくさんの視聴者と感動を分かち合いました。一見突飛な挑戦に思えますが、どんな挑戦であっても視聴者はクリエイターを応援し、最後に達成感をリアルタイムに共有することで、視聴者とクリエイターは一体感を得られます。こうした価値は、コロナ禍に再発見されたライブ配信の魅力の 1 つです。
素を見せる……「インフォーマル感」
過剰な演出のない、フィルターの少ない「素」を見せることが、YouTube で自然な表現になりつつあります。
THE FIRST TAKE は一発撮りというユニークなフォーマットで、チャンネル登録者数は 450 万人以上(*3)、チャンネル総視聴回数は 10 億回を超えました(*4)。
視聴者は、アーティストが緊張しながら一発撮りに挑んだり、歌い終えた後に表情が緩んだりする「素」の姿に、親近感を覚えているようです。
こうした「素」の表現が一般的になる中で、自分で動画を撮影し、発信する人も増えています。2021 年 5 月時点で、日本では 47% の人が過去 12 カ月の間に動画をオンライン上に投稿しました(*5)。日常的にビデオ会議などを経験したことも理由の 1 つでしょう。
近年では、多くの芸能人も YouTube に参加して動画を配信するようになりました。
タレントの指原莉乃氏は、すっぴんの状態から 30 分にもおよぶセルフメイク術を公開。780 万回以上再生されています(記事執筆時点)。
また動画を通じて、お互いのプライベートな空間を公開、共有することに抵抗がなくなった私たちは、お互いの人生や生活についてより深く知るようになりました。
車椅子で生活しているかしわせチャンネルのかしわせ氏は、「夫が障害者になった妻の壮絶な1日ルーティーン」と題した動画を公開し、家族がどのように生活をサポートしているかを公開。クリエイターのありのままを見せた表現で、たくさんの視聴者の心を掴みました。
フィルターの少ない「素」の表現は、喜びや痛みなど人間の感情が素直に伝わります。インフォーマルな動画は、メッセージを伝えたり自己表現したりするときに、最もパワフルな手段の 1 つになるのです。
風景や音、世界に浸る……「没入体験」
動画は、好きな世界に深く浸れる、没入体験をも作り出します。
外出自粛が長引く中で視聴者が増えたジャンルの 1 つが、川の流れ、波の音など、自然の音や映像です。
テレビ画面で YouTube を楽しむ人も増えていますが、自然の映像を大きなスクリーンで楽しむことで、自宅にいながらも自然の中にいるような安らぎが得られます。
没入体験を提供するコンテンツは、実際に訪れることができない場所と精神的なつながりを持てたり、あるいはリラックスして仕事や勉強に集中できる環境を整えるといった目的にも役立ちます。
また参加するプレイヤーごとに異なる視点の動画が生まれるゲームコンテンツでは、1 つのコンテンツをより多角的に深く楽しめる没入体験を作り出しました。
2019 年にリリースされた FPSバトルロイヤルゲーム「Apex Legends」は 2020 年以降、オンラインプラットフォームでさまざまな大会が開催されました。多くの場合、視聴者は自分が好きなクリエイターの視点から、大会を観戦できます。
Apex Legends はチームを組んで戦うため、大会当日だけでなく、練習期間にも、視聴者はライブ配信や動画でクリエイターたちのコラボレーションを楽しむことができました。1 つのコンテンツについて、その過程で変化するクリエイター同士の関係性やチームの進化などを複数の視点から追いかけることで、視聴者はよりコンテンツの世界に没入していきます。
その結果、Apex Legends に関連する動画の 2020 年の平均視聴回数は、前年リリース以降と比べて 350% 増加したのです(*6)。
グローバルトレンド……変貌するクリエイター像
この 1 年は、日本に限らず世界中で大きな変化がありました。続いて世界のトレンドの変化を追いかけてみましょう。
まず注目すべきは、クリエイターの年齢層の拡大です。特に高年齢層のクリエイターが増え、“祖父母の安心感”を求める若年層からも人気を集めています。
たとえば、新型コロナウイルス感染症の影響で失業したティト・チャーリー氏が投稿した料理動画は、2 カ月で 50 万人近いファンを集めました。インドでは 70 歳のクリエイターによる、現地の料理レシピを教える動画も人気です。日本でも 90 歳のゲーマーのプレイ動画が注目を集めました。
コンテンツを通じて“つながる”ことも重要です。米国に住む 56 歳のクリエイターが、ひげのそり方など「パパが息子に教えること」を優しく教えてくれる動画シリーズは、1 週間で 40 万人のファンを獲得。彼は「コロナのせいもあり、人々は孤立していて、つながりを求めているのではないか」と話します。
対面で人とつながる機会が制限された中で、「つながり」は2021 年のトレンドの 1 つでした。視聴者はツールや新たな交流の場を活用して、クリエイターやアーティスト、さらには視聴者同士で対話し、かつてないほど多様な方法で体験を共有しようとしました。
たとえば英国に住む「The Body Coach TV」のジョー・ウィック氏は、英国でロックダウンが実施されると、家族でできる体育のレッスンをライブ配信し始めました。一緒に視聴するだけでなく一緒に活動できる動画を提供したのです。同様の動きは日本を含め、世界中で起きています。
このような体験の共有を通して、視聴者はつながりを広げ、さらには自分たちで新たなコンテンツを作るようになりました。有名なコンテンツを基にした二次創作も大きな流れ。その最たる例が「Among Us」です。プレーヤー同士が協力して進めるシンプルな犯人当てゲームは、 2020 年 9 月だけで視聴回数が 40 億回を記録。そのうち、2 億 3,000 万回は、ゲームのキャラクターから着想を得たストーリー仕立てのアニメーション動画や自作の音楽など、視聴者が制作したコンテンツでした。
「リアルタイム性」「インフォーマル感」「没入体験」という日本のトレンドに加え、グローバルでのトレンドをまとめました。1 年以上にわたっていつもと異なる日常を過ごしてきた私たち。この変化を通じて、より多くの体験を動画に託して、共感したり、誰かとつながったり、お互いを理解したりするようになりました。今回紹介した「YouTube カルチャー & トレンドレポート 2021」が、YouTube 動画が今後どのように視聴されるかを考えるヒントになればうれしいです。