テレビ画面でオンラインコンテンツを視聴する人が、大きく増加しています。
YouTube もその 1 つで、これまでのスマートフォンや PC のほかに、最近ではリビングのテレビで見る利用者も増えています。日本では、2021 年 3 月時点で月間 2,000 万人以上がテレビ画面で YouTube を視聴しています(*1)。
そうした流れを捉え、従来メインだったテレビ CM に加えて、 テレビ画面で視聴する YouTube へのデジタル広告配信でリーチや広告想起を効果的に獲得したのが、積水ハウス株式会社です。
なお、テレビで YouTube を視聴する場合、端末(受像機)そのものがインターネットを利用できるスマート TV や、テレビ単体でネットに接続できなくても そうしたテレビに接続する Chromecast やゲーム機のような外付けのネットデバイスを利用することになります。今回の記事ではこうしたネット接続できるテレビの視聴環境を「コネクテッド TV(CTV)」、そして CTV で見る 広告を「コネクテッドテレビ広告(CTV 広告)」と呼びます。
テレビ CM とまったく同じクリエイティブを CTV で配信
2021 年 7 月、積水ハウスは耐震性、免震性をテーマにした技術広告を、テレビ CM と YouTube で配信。YouTube ではテレビ CM の素材を流用し、まったく同じクリエイティブで配信しました。
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スマートフォンや PC、テレビはそれぞれ画面サイズと視聴環境が大きく異なります。従って、どうしても動画のクリエイティブに差が出てくるのです。例えば、スマートフォンでは気にならない低解像度の動画は大画面のテレビには不向きである一方、テレビに適した雄大な風景の動画などは小さい画面のスマートフォンでは迫力不足だったりするわけです。
そんな中、CTV 広告は地上波テレビで使った広告クリエイティブでもブランドリフトなどの効果が出やすく、すぐに流用できるのがメリット。作り込みを大きく変えずとも地上波テレビで使ったクリエイティブをそのまま試してみることが可能です。
そのクリエイティブを使って CTV 広告をメインとした YouTube 広告施策の実施を決めた背景には、3 つの目的がありました。
1:地上波テレビを見ない層へのリーチ
まずは、地上波テレビを視聴しない層へのリーチです。NHK放送文化研究所の調査(*2)によると、2015 年から 2020 年の間に「平日にテレビを 1 日 15 分以上見る」人は 85% から 79% に減少しています。50 代以下の全年齢で減少しており、若年層ではその傾向がより顕著です。
こうした流れを受けて、「家族を持ち、家を建てたい」と思い始める 30 代を中心に訴求を図りたい積水ハウスでは、YouTube 広告に活路を求めました。
Google が提供する「クロスメディア ユニークリーチ レポート」(インテージの i-SSP パネルを使って、テレビ CM と YouTube 広告のユニークリーチ数を算出できる)のレポート 1,000 件以上を分析したところ、YouTube 広告による 18 歳以上へのリーチの 40% 以上は、テレビ CM で接触していない増加分(インクリメンタルリーチ)でした(*3)。つまり、YouTube 広告なら地上波テレビを見ない層へもリーチが期待できるのです。
2:関心層への訴求
またテレビ CM は、大勢の視聴者に向けて一気に情報を届けられるメリットがある一方で、デジタル広告ほど精緻な絞り込みは難しいです。
もちろんテレビ CM でも、ターゲット視聴率(TRP*4)を使うことで、年齢や性別、地域などのデモグラフィック情報に基づいた設定は可能です。しかし、まだまだ世帯視聴率ベース(GRP)でのプランニングが主流であり、また個人の興味関心に基づいた細かな配信設定もできません。
積水ハウスでは今回、家の購入に関心のある「25 歳〜 34 歳」「35 歳〜 44 歳」に向けて YouTube CTV 広告を配信。さらに 100 以上あるアフィニティセグメント(興味関心に基づいたセグメント)の中から、「不動産への関心度」の高いグループに広告を配信することで、広告効果アップを狙いました。この点は「テレビ画面 でもデモグラフィックデータや興味関心に合わせてセグメントを絞った配信ができる」CTV 広告の大きな特徴とも言えます。
3:広告効果の精緻な分析
YouTube 広告の場合、リーチやブランドリフトといった広告効果をテレビ CM よりもより細かく把握、分析できます。
積水ハウスではこれまで、広告エンゲージメントの主な指標として広告視聴率(広告料金が発生する動画広告の視聴割合)を設定していました。今回はそれに加え、広告の接触者と非接触者それぞれのアンケート回答の差分を可視化できる「ブランド リフト調査」を活用。同調査の設問の 1 つである「広告想起率」がどれだけ向上したかを KPI にすることで、より正確な効果をキャンペーンごとに把握できました。この広告想起の効果は特に CTV に期待した点で、デバイス特性が生きるのではないかという仮説もありました。
デジタル特性を生かした効率的なターゲットリーチ、広告想起率も大きく向上
まず 1 つ目の目的であった、テレビを視聴しない層へのリーチについて結果を見てみます。25 歳〜 44 歳へのターゲットリーチを見ると、テレビ CM と YouTube CTV 広告の重複分はわずか 0.8% と、テレビを視聴しない層へ着実にリーチできていました。また広告の総リーチのうち 25 歳〜 44 歳へのターゲットリーチの含有率は、テレビ CM より YouTube CTV 広告が 3.2 倍。リーチ単価でも、テレビ CM の 6.7 円と比較して YouTube CTV 広告は 4.8 円と 28% ほど安く、効率的にリーチできていることがわかります。
また重複が少ないという事実は、同じ「テレビ画面」という配信面、同じクリエイティブであっても、デジタル特性を生かした CTV 広告がより届けたい層に効率的にリーチできていることを意味しています。
コネクテッドテレビ広告とテレビ CM のターゲットリーチ
次に、関心層への訴求による広告想起の効果についても検証しました。
YouTube CTV 広告では、不動産への関心が高い年齢別のグループすべてで、広告接触者の広告想起率が非接触者より高くなりました。CTV を含まない、積水ハウスの過去の YouTube 広告のキャンペーンにおける相対リフト値の平均と比較して 1.8 倍と、大画面での YouTube CTV 広告の効果を示す結果と言えるかもしれません。
また今回、高い効果が見られた「不動産関心層」について、代理店である電通デジタルの「Affinity Visualizer」で、他の広告配信の結果も含めてさらに詳細に分析しました。「Affinity Visualizer」は、Google が広告代理店向けに提供している「Ads Data Hub(ADH)」(利用者のプライバシーが保護された環境下で、企業が保有するデータと Google 広告接触データを統合して計測、分析するクラウドベースのソリューション)を用いて、広告配信結果を分析できるツールです。
その結果、事前には想定していなかった「ペット愛好家」「フィットネス好き」といったアフィニティの反応率が高く、配信拡大の余地があることがわかりました。広告で伝えたいと考えていた「部屋の広さと耐震性の両立」と、それらのアフィニティを掛け合わせて配信することで、より効果・効率的な訴求が可能になり、ブランドリフトの向上につながる可能性があるのです。
こうした分析ができれば、たとえば広告で「広い家でペットも人も気持ちよく過ごせるシーン」を描くことがより効果的かもしれない、といったように、今後のクリエイティブ制作のアイデアにも活かせます。データから、潜在顧客のイメージを具体化できることも、デジタル広告の大きなメリットの 1 つと言えるでしょう。
CTV は「デジタルの特性を生かして PDCA を回せるテレビ」
このように、積水ハウスが想定していた 3 つの目的それぞれに、YouTube CTV 広告が寄与できることが確認できました。
特にブランドリフトの効果は同社として大きな期待を持っています。今後は YouTube で入札単価を調整して CTV 広告に重み付けをする、あるいは CTV 広告用の予算を確保した上で、ブランドリフト調査の結果を確認しながら広告配信を強化していく方針を掲げています。
デモグラフィックや興味関心に基づいた生活者接点の構築が可能で、ブランドリフトの効果やアフィニティの設定をデータに基づいて振り返り、スピード感をもって PDCA を回せる YouTube CTV 広告は「デジタルの特性を生かした広告活用ができるテレビ広告」と言えるかもしれません。
今回の取り組みを受けて、積水ハウスの伊藤剛氏(コミュニケーションデザイン部主任)はこう振り返ります。
「皆さまが口ずさむことができるレベルにまで積水ハウスの歌は浸透していますが、それは過去続けてきたテレビ CM の成果です。そのような状況ですが、近年の若年層のテレビ離れによるコミュニケーション接点の減少は、当社でも課題となっています。その解決策の 1 つとして今回コネクテッドテレビの検証を実施し、いい効果を確認することができました。今後ボリュームが増えてくる接点だと思うので、強化も視野に入れてプランニングに活かしていきます」
さて、今回取り上げた積水ハウスでは、テレビ CM と同じ素材を使っても CTV 広告 の効果が出せることを確認しました。
では、より CTV に適したクリエイティブの場合はどうでしょうか。
すでに他の記事でも紹介しているように、モバイル向けの YouTube 広告では、ABCD フレームワークや、アクションにつながる広告のポイントなどのクリエイティブのコツがあります。YouTube CTV 広告の場合にも、こうしたポイントを押さえることで広告効果をさらに高めることはできるのでしょうか。引き続き検証していきます。
Contributor:
電通 関西支社 ソリューション・デザイン局 鍵谷武宏 / 電通デジタル ダイレクトアカウントプランニング部門 菊池卓也 / 電通 関西支社 第3ビジネスプロデュース局 菅なな子