動画広告におけるクリエイティブは、非常に重要な要素の 1 つです。キャンペーンの投資対効果(ROI)への貢献度の約半分を占める(*)とのデータもあります。
その YouTube 広告のクリエイティブには広告効果を高めるための手法があります。これまでにも、効果的なクリエイティブを作るための ABCD フレームワークや、広告から次のアクションに導くクリエイティブのポイントなどを紹介してきました。
これらは主にモバイル画面への配信を意識したものでしたが、同様の手法は配信面を変えても通用するのでしょうか。
近年増加している視聴方法として、テレビ画面があります。2021 年 3 月時点で月間 2,000 万人以上がテレビ画面で YouTube を視聴するなど、テレビでオンラインコンテンツを楽しむ人が増えたことで、テレビ画面での YouTube 広告(YouTube コネクテッドテレビ広告)も、視聴者とつながる重要なチャネルになりました。
コネクテッドテレビ向けの広告の場合、テレビ CM 向けの素材をそのまま流用しても一定の効果が期待できることは以前の記事で紹介した通りです。新たに素材を制作する必要がないため、比較的簡単にコネクテッドテレビという配信面を活用でき、テレビ CM とは異なるセグメントにリーチできるのが魅力です。
今回はそこから一歩進んで、さらに効果的なクリエイティブを模索。株式会社ベネッセコーポレーションによる「チャレンジ1ねんせい」(新 1 年生向けの進研ゼミ小学講座)のキャンペーン結果を基に、前述の ABCD フレームワークを適用したクリエイティブの効果を検証しました。
4 種類のクリエイティブで効果を検証
ベネッセでは、テレビ CM 素材のほか、それをベースに ABCD フレームワークを適用したり、独自の工夫を加えたりした 3 つの、計 4 つのクリエイティブを実験的に配信しました。
ABCD フレームワークとは、Attention、Branding、Connection、Direction の頭文字をとったものです。
- Attention:視聴者の関心を引き込む
- Branding:視聴者にブランドを認知してもらう
- Connection:ブランドストーリーと視聴者の感情を結びつける
- Direction:ブランドが望むアクションを視聴者に対して明確に提示する
配信した以下の素材 2 〜 4 では、これらの要素をクリエイティブに反映しました。
またクリエイティブによる効果の違いを検証するため、期間や予算、広告フォーマット、対象セグメント設定といったその他の要素はすべてそろえました。配信した 4 パターンは次の通りです。なお、各素材の制作にあたっては、実験の意図を反映できるように、Google のクリエイティブ専門チームである「Creative Works チーム」がアドバイスをしました。
- 素材 1:テレビ CM とまったく同じ素材を流用
素材 1 をコントロール素材として素材 2 〜 4 にABCDフレームワークを適用
- 素材 2:右上にロゴを表示、字幕を大きくして画面の明度を上げるなど視認性を強化
- 素材 3:逆 L 字型のバナーを追加してDirection(アクション提示)を強化
- 素材 4:冒頭にオファーを追加して Attentionを強化
素材 1 の動画はこちら
素材 2 の動画はこちら、右上にロゴを表示、字幕を大きくして画面の明度を上げている
素材 3 の動画はこちら
素材 4 の動画はこちら
配信にあたっては、各素材に接触する利用者が重複しないよう、 YouTube 広告の「動画テスト(ビデオ エクスペリメント)」機能を活用。これは YouTube 広告で 素材の AB テストをするためのツールで、異なるクリエイティブを、同じ配信設定で、広告の重複接触がないようグループを自動で構築できます。この機能を使って 各素材ごとに 4 つのグループに分割し、重複接触しないように設定することで、比較の検証を可能にしました。
ABCD フレームワークでコネクテッドテレビでもブランド認知効果が向上
「Google ブランド効果測定」を活用し、テレビ CM の素材 1 を基準として素材 2 〜 4 の「ブランド認知」の結果を比較しました。
コネクテッドテレビへの配信においてもっとも高いアップリフトを記録したのは、ABCD フレームワークで視認性を最適化した素材 2 でした。
ABCD フレームワークの「字幕を大きく表示する」「画面の明度を上げる」など小さなモバイル画面での視聴を意識した手法は、結果として、テレビ画面における動画の視認性を上げることにつながります。それが 4K テレビなどより高画質な画面での視聴体験が増えている中で、効果的に機能しているのかもしれません。
同じく素材 2 の冒頭に特典のオファーを加えた素材 4 でも、コネクテッドテレビでアップリフトが見られました。
素材 4 は、冒頭に期間限定で追加の教材がもらえるという特典のオファーを 3 秒程度表示しています。モバイル画面ではよく見られる手法でも、テレビ画面ではこれが目新しく映り、結果としてブランド認知の向上に寄与したのではないでしょうか。
認知を目的としたキャンペーンでは、まずは素材 2 のようにテレビ CM に ABCD フレームワークの考え方を反映させることで、効果を高められるでしょう。
一方で素材 3 については、今回の検証で有意なアップリフトは見られませんでした。しかし「逆 L 字バナー」にまったく効果がなかったというわけではありません。
今回のキャンペーンではデバイス間の結果を比較するために、コネクテッドテレビに加えて PC、モバイル、タブレットにも配信をしていましたが、素材 3 は全デバイス統合の結果では最も高いアップリフトを記録していたのです。
このことからも、バナーの追加といった、モバイルや PC で特に効果のある表現方法を採用するようなケースでは、コネクテッドテレビでも効果を高めるための工夫が必要かもしれません。たとえば「バナーのテキストを差し替える」「逆 L 字型以外のバナーを設置する」などどんな工夫が有効なのかは、今後の検証での課題です。
“ コネクテッドテレビならでは ” の広告探求へ
今回検証を実施したベネッセの村井志帆氏(デジタルマーケティング部)は次のように話します。
「今回、今までトライアルできずにいたコネクテッドテレビへの配信ならびにクリエイティブについて検証できたことで、当社としても一歩知見の積み上げができたと考えています。
コネクテッドテレビはモバイルと視聴態度が異なることから、ブランド認知や利用意向の向上に効果が期待できること、さらなる拡大可能性のある配信面であることが確認できました。
クリエイティブの検証では、ABCD フレームワークに最適化することで、どのデバイスでもさらなる効果が出せること、またデバイスごとに効果的なクリエイティブが異なることがわかりました。今後は今回可能性を見出せたモバイルとテレビそれぞれでの最適化や、検索行動まで引き上げるためのクリエイティブの改善を進め、より効果を出しつつ、お客さまにとってわかりやすい広告配信を実施していきたいと考えています」
テレビ画面における最適な広告クリエイティブは、テレビ CM の制作現場で長年研究されてきました。しかし同じテレビというデバイスであっても、YouTube の場合、地上波テレビとは違い、好きなコンテンツを好きな時間に視聴でき、視聴態度も異なるため、最適な広告表現も異なる可能性があります。
冒頭でも紹介した通り、コネクテッドテレビではテレビ CM 素材の流用でも一定の広告効果が期待できますが、今回の検証を通じて、主にモバイル向けだった ABCD フレームワークによって、コネクテッドテレビでも認知効果が向上すると分かったことは、大きな成果でした。
とはいえ、効果的なクリエイティブについてはまだまだ仮説段階のものが多く、さらに購入につながる行動を促すためにどんな工夫が有効なのか、セグメントを絞ったクリエイティブはコネクテッドテレビでどう機能するのか、複数の異なる素材を順に配信するストーリーテリングの手法は有効なのか……「テレビ画面」というデバイスの特性と、「動画サービス」が持つ広告の特性、両方をふまえたさらなる検証が今後も必要だと考えています。
生活者の行動様式は絶え間なく変化しており、クリエイティブのトレンドも移り変わっていきます。コネクテッドテレビの台頭もその 1 つです。こうした変化に伴い、これまで有効だったクリエイティブに新しい工夫を加えることで、さらに可能性が広がることもあるかもしれません。だからこそ、実験を繰り返すことが何よりも重要です。創造的なアイデアと仮説を持って、効果的なクリエイティブを探求していきましょう。
Contributor:
広告営業本部 インダストリーマネージャー 多湖 俊一郎/Global Creative Works プログラムマネージャー Jenny Cheung/Creative Works クリエイティブストラテジスト 長谷川 圭介