インターネットに接続した「コネクテッドテレビ(CTV)」の普及により、テレビ画面で YouTube を視聴する人が増えています。それに伴い、CTV 上に YouTube 広告を配信する「YouTube コネクテッドテレビ広告(YouTube CTV 広告)」の出稿も増えました。
YouTube CTV 広告は、PC やスマートフォン向けの YouTube 広告や、テレビ CM とは何が異なり、どういう特徴を持っているのでしょうか。今回は「共視聴(誰かと一緒に見る)」「視聴時間の長さ」「親和性」という 3 つの視点から、CTV 広告の特徴を活かして成果を上げた事例を紹介します。
大きな画面で親子で “ 共視聴 ” 子育て世帯に訴求した「丸亀製麺」
テレビ画面で YouTube を見る場合、スマートフォンやタブレットと比べて、リビングなどで誰かと一緒に見る “ 共視聴 ” が多い傾向にあります。
Google と TalkShoppe の調査(*1)でも、YouTube をテレビ画面で視聴している日本のユーザーの 50% 以上が、家族や友人と一緒に視聴すると回答しています。つまり YouTube CTV 広告は、デバイスを所有する本人だけでなくその家族や友人に対してよりリーチしやすい手段だと言えるでしょう。
こうした特徴を活かしたのが株式会社丸亀製麺です。同社では、小さな子供がいる世帯に対してより訴求を強めていきたい意向がありました。ステイホームに伴う宅食需要の高まりもあり、子供向けの新商品「丸亀こどもうどん弁当」を発売。子供向けの商品であることに加え、店内での飲食を前提としてきた印象を変え、「テイクアウトして家で食べる」という想起を高める必要性がありました。
そこで活用したのが YouTube CTV 広告です。子供がいる家庭へ訴求しやすい点に加えて、同社の過去の実績から、CTV が他デバイスよりも視聴完了率が高いことがわかっており、新商品を理解してもらう上で効果的だと考えました。また、他社ツールで複数媒体の来店効果を横断的に検証した結果、Yoube CTV 広告で高い来店寄与度を確認できたことも、配信の決め手になりました。
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動画では、商品理解と来店を同時に促しました。まず冒頭で、株式会社丸亀製麺と株式会社TOKIO をのれんに並べて一緒に商品を開発したことを伝え、中盤では大胆なシズルカット(うどん、唐揚げのアップ)と子供たちの食事シーンでおいしさを訴求。最後に「明日、新登場!」という 1 日限定のクリエイティブで訴えることで「明日、店舗に行きたい」という行動喚起を図っています。
YouTube CTV 広告による来店効果を分析した結果、想定していた子育て世帯に対して訴求できており、夏の時期を支える商品になりました。また、キャンペーン後には同社として初めて「マザーズセレクション大賞2021」(一般社団法人日本マザーズ協会主催)を受賞しました。もちろんこれは広告だけではなく、商品開発を含めた成果ですが、ビジネスマンが手軽に食べるといった従来の企業イメージから、家族向けの商品があるというイメージへの転換がうまくいったと言えるでしょう。
「コーセー」は視聴時間が長いからこその表現で、多くの商品価値を訴求
コネクテッドテレビでの YouTube 視聴は、他デバイスと比べて視聴時間が長いのが特徴です。2021 年 3 月の調査(*2)では、日本の YouTube 視聴者は、スマートフォンやデスクトップ PC と比べて、テレビでは視聴時間が平均 60% 長いとの結果も出ています。
またテレビ CM は、広告の長さによって出稿料金が変動しますが、YouTube の TrueView インストリーム広告は広告視聴単価制のため、同程度に広告が見られれば、15 秒や 30 秒といった動画の長さでは出稿料金に差が出ません。そのため、広告主にとっては長尺の広告を制作、出稿しやすいのも特徴の 1 つです。
こうした特徴を押さえた広告戦略を打ち出したのが株式会社コーセーです。夏場前の定番商品であるエスプリークの「ひんやりタッチ BB&CCスプレー」の広告キャンペーンで YouTube CTV広告を採用しました。
2021 年の本キャンペーンでは、テレビ CM を使わず、短尺動画や SNS で広く認知の拡大を図りながら、YouTube CTV 広告では 30 秒という長尺のクリエイティブで、認知だけではなく興味関心や比較検討まで後押しできる広告を目指しました。
従来は性年代までのセグメント配信が中心でしたが、CTV 視聴の検証の 1 つとして新たに、興味関心に基づいた「アフィニティセグメント」を活用。20 代〜 30 代女性、美容関心層などに向けて広告を配信しました。
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同社は今回、YouTube 広告の予算の 20% 以上を CTV に配分しました。テレビ CM を出稿しない代わりに、その分のリーチ規模を確保しながら、30 秒のきれいなクリエイティブを大きな画面と音声ありの環境で見てもらうために、YouTube CTV 広告をより重視したのです。
クリエイティブでは、「一品五役」「ひんやり気持ちいい」「13 時間化粧持ち」という 3 つの USP(Unique Selling Point、機能価値)が盛り込まれています。認知を目的としたテレビCM や、SNS 広告などの短尺広告の場合、機能価値を絞って伝えることも多いのですが、YouTube CTV 広告では長尺の広告フォーマットを選択し、比較検討してもらえるように 3 つすべての USP を伝えたのです。
視聴者に「自分ごと化」してもらえるようなトーン & マナーも意識しました。出演者も、普段テレビ番組などでは見せないような表情やしぐさで、「暑いとメイクする気にならないですよね」などと画面越しに語りかける演出で、視聴者の共感を引き出しています。
キャンペーン当時はコロナ禍で外出機会が減少し、化粧品の訴求が厳しい環境下でしたが、ブランドリフト調査では認知のアップリフトが確認できました。また YouTube CTV 広告はキャンペーン全体で 68 万回以上再生され、完全視聴率や完全視聴単価などの目標も上回り、同社として満足のいく結果となりました。
視聴者やコンテンツとの親和性を意識、NTTソルマーレ「コミックシーモア」
YouTube CTV 広告の効果を最大限に引き出すためには、YouTube というプラットフォームの特性をよく理解することが重要です。YouTube の利用者やコンテンツと親和性が高い商材では、より高い広告効果が期待できます。
電子書籍サービス「コミックシーモア」を運営するエヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社(NTTソルマーレ)は、YouTube にはエンターテインメントに関心の高い層が多く、漫画とも親和性が高いのではないかと仮説を立て、ブランディング施策を展開しました。
競争が激化する電子コミック業界でサービスの利用者数を増やすには、「コンバージョン」や「購入」だけではなく、より上流の「認知」や「利用意向」を高める施策を通じて、潜在顧客層へアプローチすることが重要でした。
すでに PC やモバイル、タブレットへの YouTube 広告やテレビ CM を配信していましたが、YouTube でのブランディング施策を強化すべく、CTV への配信を決定。CTV 単独でのキャンペーンを実施し、効果を検証しました。
今回の取り組みでは、通常よりも YouTube 広告の予算を増やし、CTV とそれ以外のデバイス(PC/モバイル/タブレット)におよそ半分ずつ予算を配分しました。このように CTVに大きく予算を配分できたのは、同社が過去「ブランドリフト調査」を通じて、YouTube CTV 広告による認知度や好感度の顕著なアップリフトを確認できていたためです。
また今回は、テレビCM、YouTube 広告ともにほとんど同じクリエイティブを配信しました。しかしその中でも、YouTube CTV 広告が「漫画好き」などさらに親和性の高いセグメントに絞った配信ができる点に期待し、クリエイティブの制作段階から CTV への配信を強く意識していたのです。
たとえば、大画面で好きなコンテンツを見ている途中に流れる広告であることを意識して、「見ていて楽しい広告」になるよう、ドラマ調のクリエイティブを制作。出演者の会話を通じ、サービスの機能を訴求する演出にしています。広告のスキップが可能になる 5 秒付近で、出演タレントが「何か言いたそう」にしている点など、広告を見続けてもらうための細かな演出も工夫しました。
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電子コミック業界では多数のプレイヤーが参入しており、他社との差別化がいっそう求められています。今回の広告では、冒頭と終わりで、ブランド名よりも USP である「マンガ愛#1」「作品数業界最大級」を強調するなど、差別化する上でも効果的な訴求ができていると言えるでしょう。
結果的に Google の「ブランドリフト調査」「サーチリフト調査」、第三者の調査結果のいずれにおいても、YouTube CTV 広告は「利用意向」と「検索」の結果がすべての年代において向上。特に 30 代〜 40 代の利用意向は顕著に向上していました。
テレビ画面であり、デジタル広告でもある。コネクテッドテレビ広告の特徴を捉えた活用方法とは
今回取り上げた 3 社のクリエイティブはいずれも、調査会社 IPSOS が実施した視聴者クリエイティブ評価調査(*3)でも、上位に選出されています。各社とも、CTV の特徴を捉えた広告戦略で、それぞれのマーケティング目標を達成しました。
テレビとデジタルの両方の特性を持つ CTV ですが、今回紹介した特徴以外にも、アイデア次第で活用先は広がります。たとえば海外のユーザーにリーチしたい場合、テレビ CM であればその国ごとにバイイングしなければならなかったところを、 YouTube CTV 広告なら、日本の代理店や広告主自身でも全世界に出稿できます。
Contributor:
シニア アカウント ストラテジスト 青木 一剛 / インダストリーマネージャー 貫井路子 / インダストリーマネージャー 山岸恭輔