PC やスマートフォンで見ていた動画コンテンツをテレビ画面でも視聴するという新しい潮流が、世界的に広がっています。
“テレビで動画視聴”の先進国である米国の例を見てみましょう。調査会社の eMarketer が、2021 年には 1 億 600 万を超える世帯が動画コンテンツを視聴し、ケーブルテレビや衛星放送などの従来のテレビサービスに課金する世帯の数を上回ると予測しています。インターネットに接続されたテレビ(コネクテッドテレビ)を持つ世帯は 83% に上るなど、多くの世帯で主流の視聴行動となりつつあります(*1)。
この流れは、日本にも着実に浸透しています。サイバーコミュニケーションズの調査(*2)によると、2020 年 6 月時点で、テレビで動画コンテンツを試聴している人は 23% と前年 12 月の調査時から増加。テレビ端末をインターネットに接続している人も 50.7% と半年で 9 ポイント以上増加しています。
2021 年 3 月時点では日本で月間 2,000 万人以上がテレビ画面で YouTube を視聴。このうちログインユーザーの 20 % 以上は、ほぼテレビ画面のみの視聴で、視聴時間の 90% 以上を占めます(*3)。10 万人以上の登録者がいる YouTube チャンネルは日本に 4,500 以上(*4)。視聴するタイミングやコンテンツの選択肢が多いことは、従来のテレビの見方とは異なる、YouTube ならではの特性です。
なお Nielsen が、モバイル端末でも視聴できるコンテンツを、あえてテレビで視聴する理由を調査(*5)したところ、「大画面のほうが迫力がある」「手間を掛けずに見られる」「楽な姿勢で見られる」「他のことをしながらついでに見られる」「他の人と一緒に見られる」といった動機が上位を占めました。リラックスした姿勢で楽しめるテレビは「ながら視聴」にも向いているため、モバイルや PC よりも視聴時間が 60% 長くなる傾向にありました(*6)。
「家族で一緒に」「家事をしながら」テレビで広がる YouTube の利用シーン
テレビ画面での YouTube 視聴は、動画の楽しみ方も拡張しています。
65% 以上がリビングで視聴し、半数以上が家族やパートナー、友人と一緒に視聴する(*7)など視聴態度が変化。従来の YouTube を視聴する 5 つの動機に加え、以下のようなテレビならではの楽しみ方が利用者へのインタビュー調査(*8)から浮かび上がりました。
「好きなことに包まれる・より没頭できる」
行きたい旅先の YouTube 動画をテレビ画面に映すと、高画質でよりリアルに体感できます。大音量で好きなアーティストの映像に没入できたり、応援しているスポーツチームのダイジェストを臨場感ある画面で見返したりといった楽しみ方も可能です。さらには好きなキャラクターの動画を壁紙や BGM 感覚で流しっぱなしにしたりなど「好き」の追求の幅と深さがより広がります。
(*9)
「学びの時間を充実させる」
リビングのテレビで YouTube を流せば、家事をしながら語学動画を見るなど、ながら学習もできます。フィットネス動画などは、モバイル端末よりも動きなどを真似しやすいようです。
(*8)
「一緒に楽しめる」
テレビ画面なら、家族そろって同じ動画を見れます。自分が好きなコンテンツを家族に教えたり、一緒に見て笑ったり、子どもに動画を見せたり……など、日常生活にYouTube が溶け込む形が見て取れました。
(*8)
以上のように、普段から見ているテレビに YouTube を映すことで、動画がより日常的になり、その視聴方法や視聴動機もより多様になっているのです。
テレビ画面での YouTube 視聴に関する動向はこちらの動画でも紹介しています。
広告主に新たなチャンス——「生活者との新しいつながり」構築へ
Comscore(*10)によると、米国ではコネクテッドテレビ で視聴されているストリーミングサービスの 8 割以上は、YouTube をはじめ Netflix、Amazon Prime Video、Hulu、Disney+ の 5 つの主要配信サービスで、広告枠を販売しているのは YouTube ともう 1 つだけです。YouTube はリーチと総再生時間 1 位で、広告に対応しているストリーミング総再生時間の 41% を占めています。
すでにモバイルや PC 上で YouTube に広告を配信している企業であれば、配信先としてテレビ画面も追加し、コネクテッドテレビ広告の効果を試してみるのも良いかもしれません。次は、コネクテッドテレビ広告で、リーチ効率やブランド指標の向上を達成した 3 社の事例を紹介します。
テレビ画面への配信で新機能の認知を広げた「スマートニュース」
スマートニュース株式会社は、ニュースアプリ「SmartNews」を通じて、ニュースのほか、天気やクーポンといった、生活に必要なさまざまな情報を提供しており、日々機能を拡充しています。
同社はこれまで、テレビ CM を主軸としたキャンペーンと並行して、デジタルマーケティングにも注力しており、YouTube 広告への投資も増やしています。2021 年 2 月、いまや国民の 2 人に 1 人とも言われる「花粉症に悩む人」向けに、地域別や時間別で花粉の飛沫量がわかる「花粉レーダー」という新機能の提供を開始(*11)。これの認知向上を目的に YouTube で広告キャンペーンを実施しました。
外出自粛によるテレビ画面での視聴増をきっかけに、広告配信のあり方を捉え直した同社では、テレビ画面での YouTube 広告の効果を検証すべく、通常実施していた「モバイル/タブレットのみでの配信」に加えて「テレビ画面のみでの配信」を追加し、効果を検証しました。
その結果、後者の寄与によってユニークリーチは全体で 134% 増加、インプレッション単価(CPM)は全体で 23% 減少と、キャンペーン全体でのリーチ投資対効果が向上したのです。
また、「モバイル/タブレットのみでの配信」と「テレビ画面のみでの配信」における視聴者の重複は 1% 未満でした。つまりテレビ画面への配信によって増分リーチを多く獲得できたことを意味します。デバイス間の重複率は配信金額が大きいほど高まる傾向にあるため、この結果はあくまで一例ですが、モバイルやタブレットへの配信では届かなかった視聴者にリーチできたと言えるのではないでしょうか(*12)。
この結果を受け、スマートニュースの梶井大樹氏(マーケティング部 グロースマーケティングチーム マーケティングストラテジスト)は「デジタル領域での認知広告において、リーチ単価を効率化するためにコネクテッドテレビ配信に着目しました。実施した結果、事前に設定したいくつかの指標で効果的な結果を得ることができたと思います。運用型広告ということもあり、今後もさらなる効率化を図れると期待しています。また課題として、スマートフォンに対する配信と比べて効果を可視化できる項目が限られているため、他施策と比較評価しづらいところがあります。しかしながら、米国でのコネクテッドテレビへの広告出稿費用の伸長を考えるとポテンシャルがある領域のため引き続き、配信手法や評価方法を研究していく予定です」とコメントしています。
Google Chromebookキャンペーンで、テレビ画面を加えた配信は製品の「比較検討」が 159% 増に
Google 社内で製品やサービスの広告プランニングなどを担当する Media Lab チームは、広告がブランドマーケティングに与える影響を測るブランドリフト調査を定期的に実施しています。この調査は、YouTube 内でアンケートを実施し、YouTube 広告の接触者と非接触者の間で、広告想起、ブランド認知、比較検討、購入意向、好意度などの項目にどのような違いがあったかを分析する調査です。
2021 年 2 月から 4 月に国内で実施した Chromebook のキャンペーンでは、期間、予算、ターゲティング、フリークエンシーといった条件を同じにして、「モバイル/タブレット/PC にテレビ画面を加えた配信」と、「モバイル/タブレット/PC のみでの配信」でブランドリフトの結果を比較。製品購入の「比較検討」の項目において、テレビ画面を加えた配信ではテレビ画面なしの配信よりも 159% 高く、1 ブランドリフトあたりのコストが 61% 低いという結果でした。テレビ画面への配信が効果的、効率的にブランド指標の向上に貢献し得ることを示しています。
製品関心層の検討意向を喚起させた「パナソニック」
YouTube 上で利用できるブランドの効果測定ツールには、前述の「ブランドリフト調査」の他に、「サーチリフト調査」があります。どちらも YouTube 広告の接触者と非接触者の間で増減率を比較、分析する手法ですが、アンケートを実施するブランドリフト調査に対し、サーチリフト調査は自然検索の行動を解析します。これを活用して、コネクテッドテレビ広告の有用性を確認したのがパナソニック株式会社です。
同社は 2020 年 10 月に発売したヘアードライヤー「ナノケア」 EH-NA0E の広告キャンペーンにおいて、美容やドライヤーに関心がある層の検討意向を高めるため、テレビ画面への YouTube 広告配信を活用。「テレビ画面のみの配信」と、テレビ画面以外の「モバイル/タブレット/PC のみでの配信」を同期間、同金額で実施し、効果を検証しました。
その結果、広告接触者は非接触者と比べて「ナノケア」「ナノケア ドライヤー」「パナソニック ナノケア」といったブランドキーワードの検索数が大きく増加していました。「テレビ画面のみの配信」では 180% 増、「テレビ画面以外への配信」は 109% 増とコネクテッドテレビ広告への接触が製品関心層の検討意向の向上に寄与したと言えます。
この結果を受け、パナソニックの山本智子氏(コンシューマー マーケティングジャパン本部 コミュニケーション部 主務)は「コロナで YouTube の視聴が増えていたので、YouTube 広告を強化していたのですが、テレビ画面での視聴がここまでブランドキーワード検索に寄与するとは思っていませんでした。さらに『テレビ画面のみ配信』は、テレビ CM のクオリティも伝えられるので今後も積極的に活用していきたいと思います」とコメントしています。
YouTube をテレビに映すことで、視聴者は家族で一緒に動画を見たり、ながら見したり、より映像に没入したりと、視聴態度がさまざまな広がりを見せています。それに伴い、クリエイターやアーティストもそうした変化に合わせた動画を制作する動きが広がっています。広告主にとってもこの流れは、新しい顧客にリーチできるチャンスとなるはずです。
2021 年以降さらにテレビ画面での視聴が拡大していけば、YouTube 広告の活用の幅も広がります。例えばクロスデバイス、クロスメディアの配信アプローチにおいて、コネクテッドテレビ広告はさらに存在感を増していくでしょう。新しい配信面としてこれまでとは異なる視聴者にリーチできることはもちろん、認知のみならず比較検討を促すなど活用シーンも広がりそうです。
コネクテッドテレビ広告は、これからの動画広告のスタンダードとなる可能性があります。広告運用の第一歩としては、動画広告キャンペーンにおいて YouTube のテレビ画面への配信設定をオンにしてみてはいかがでしょうか。
*2021/07/09 22:00 本文の表現を一部変更しました。
Contributor:
コンシューマー&マーケットインサイト・マーケティング リサーチ マネージャー 朴 ヨンテ / コンシューマー&マーケットインサイト・マーケティングリサーチマネージャー ミン グエン / アカウントマネージャー 安達 純