Google と KANTAR の共同調査(*1)によると、ある 4 つの要素を含む広告では短期的な売上リフトが 30%、長期的なブランド貢献度は 17% も向上することが判明しています。
その 4 つの要素とは、Google が効果的な広告クリエイティブに求められる内容をまとめた「ABCDフレームワーク」です。ABCD は以下 4 つの要素の頭文字を取っています。
- Attention:没入型のストーリーで注目を集め、視聴者の関心を引き込む
- Branding:早い段階で、頻繁に、そして十分にブランドを認知してもらう
- Connection:ブランドストーリーと視聴者の感情を結びつける
- Direction:ブランドが望むアクションを視聴者に対して明確に提示して行動を促す
つまり、ABCD フレームワークを押さえることで、単に広告効果が高まるだけではなく、その先の売上やさらには長期的なブランド価値の向上も期待できるのです。この記事では、そんな ABCD フレームワークを活用して成功した 3 社の事例を紹介します。
テレビ CM 素材を YouTube 広告用に編集、逆 L 字型バナーなど:RIZAP
RIZAP株式会社が運営する、店舗型のゴルフ個別指導レッスンサービス「RIZAP GOLF」は、従来のテレビ CM に加え、YouTube 広告に挑戦したいという意向がありました。
テレビ CM は一定の効果があったものの、単価が高くPDCA を回しにくい点が課題でした。そこで低予算からでも配信でき、短期間で PDCA を回せる YouTube 広告に目を付けたのです。またテレビ CM を出稿した際に、デジタル広告のコンバージョンにも貢献があったことから、YouTube 広告でもテレビ CM と同じ素材で効果が出せると考えたのです。
そこで同社では、テレビ CM の素材をもとに一部編集を加えた YouTube 広告を配信。ユーザーに行動を促すなどの成果を得ました。
続くキャンペーンでは ABCD フレームワークを用いてさらにブラッシュアップ。既存のテレビ CM 素材をベースに編集しつつ、これまでの広告で効果の高かったクリエイティブを動画冒頭に採用し、また逆 L 字型バナーも追加しました。なお L 字型バナーを効果的に使用するには、メインの動画の内容と重複しないように留意することが重要です。 RIZAP のように、ブランドロゴや価格情報などバナー部分に含める情報をシンプルに見せるのもよい方法でしょう。
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ABCD フレームワークの観点では、それぞれ以下のような工夫が見て取れます。
その結果、コンバージョン率は ABCD フレームワーク適用以前と比べて 101% 増、広告想起率は 12.3% 増、また顧客獲得単価は 27.6% 改善しました。
これまで、RIZAP 社内では「デジタル広告=顧客の獲得」という固定観念がありましたが、広告代理店とのワークショップを通じて、「ABCDフレークワーク」体験しながら理解を深めることで、デジタル広告が獲得以外にも寄与できるといった認識へと変わっていきました。そうしたマインドチェンジも今回の成果につながっています。
特有の Tips 動画を広告制作に活用:アドビ
コロナ禍でおうち時間が増える中、SNS や YouTube で自分らしいクリエイティブな投稿をしたいという需要が拡大しました。そこでアドビ株式会社では、同社の「Adobe Premiere Pro」がそうした動画制作用のスタンダードなアプリであるという認知を強化し、新規顧客を獲得するためにキャンペーンを展開しました。
従来 Premiere Pro に対しては「映画の編集で使うプロ向けのソフト」「一般ユーザーには難しい」といったイメージがあったため、それを払拭することが重要でした。
Premiere Pro の魅力の 1 つである「検索して、豊富な Tips 動画を見れば何でもできちゃう」を軸にコミュニケーションを設計。まずはフィットネスやペット、音楽など、動画編集に感度の高いファンコミュニティのソーシャルビデオクリエイターを複数起用し、編集の Tips をまとめた動画を、キャンペーンのランディングページ(LP)で公開しました。
さらには、その Tips 動画を見ながらタレントが動画編集に挑戦する動画コンテンツ(すでに公開を終了しています)を LP で公開。それを短尺に再編集して YouTube 広告やテレビ CM でも配信し、LP への遷移を促しました。
「ABCDフレークワーク」の観点では、以下のような工夫を凝らしました。
これらを意識したクリエイティブによって、Google の「ブランドリフト調査」では、好意度が 6.7% 増、「サーチリフト調査」では製品関連キーワードの検索が 20% 増加。またアプリのダウンロード単価も 17% 増加しました。
有効なインサイトをバナーで検証、それを軸に動画広告を制作:カネボウ
低迷するコロナ禍のメイク市場の中、株式会社カネボウ化粧品は堅調な目元アイテムのコミュニケーション強化に取り組みました。
同社の化粧品ブランド「media」の「リキッドアイブロウAA」は、こすれに強く消えにくいという特徴から、女性の「眉の量が少ない・薄い」といった悩みを解消する商品です。
眉尻が薄い状態で、眉頭の部分が目立ってしまう “ まろ眉 ” を解消する「まろ眉の救世主=リキッドアイブロウ」をテーマに、ニーズを自分ごと化してもらえる広告を 30 代後半以上の女性向けに展開しました。
まずはお悩みに応じて 8 パターンのバナーを制作しディスプレイ広告などで配信。その結果、「子供と触れ合う」「ランニング」という 2 つのシーンで特にまろ眉の悩みを持つ人が多いことが明らかになりました。そこでその 2 つを訴求軸として「まろ眉させないメイク術」を制作し、TrueView インストリーム広告で配信したのです。
なお、広告の配信設計にあたっては「Googleトレンド」を用いて生活者の動向を把握。「眉毛 落ちる」などの検索数の推移から、5 月以降に悩みが増え始め、7 月から 8 月にかけてそのピークが来ていることが確認できたため、その需要期に合わせて広告を配信しました。
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動画制作においては ABCD フレームワークの各ポイントが盛り込まれています。
これらの工夫により、前回ディスプレイ広告を配信した際と比べて、購入を検討している人と実際に購入した人の割合が増加しました。インテージの調査によると、「商品を見たことがある」「特徴を知っている」と回答した人のうち、購入を検討している人の割合は前回と比べて 8.5% 増加。同様に購入を検討している人のうち実際に商品を購入した人の割合も 4.1% 増加しました。
さて、紹介した 3 社の事例は、いずれも ABCD フレームワークを満たして結果を出しています。YouTube 広告のクリエイティブを制作する際には、意識しておきたいポイントです。
また、ABCDフレークワークで社内のデジタル広告に対する認識を変えることができた RIZAP は特徴的でした。単なるクリエイティブの制作に止まらない ABCD フレークワークの効果にも注目です。
Contributor:古瀬達哉 インダストリーマネージャー / 河野洋平 株式会社電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター部門長補佐 / 山崎英生 株式会社電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター 事業部長
2022/10/14 20:21 記事を更新。初出時に記載がなかった Contributor を追記しました。