YouTube の広告賞「YouTube Works Awards Japan」は、YouTube を通じて高い広告効果を獲得し、ビジネス目標の達成を後押ししたキャンペーンを表彰します。4 年目となる今回は、各界をリードするクリエイターやマーケターなど 12 人の審査員が最終審査を担当。全 7 部門の受賞作品を発表しました。
今回は、同アワードの審査員長である株式会社TBWA HAKUHODO の細田高広氏(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)にインタビュー。YouTube 広告を制作する上でのポイントや、今後の動画広告に求められることなどを聞きました。
「YouTube ならではの表現を模索した」と審査員長
アワードの審査を終えた直後の細田氏は、次のように振り返ります。
「テクノロジーが進化し、広告主やマーケターにとって便利になる一方、コミュニケーションの取り方によっては生活者から嫌われてしまうリスクも高まっています。YouTube は企業にとって広告媒体ではありますが、もともとは、生活者にとってのエンターテインメントの場です。その原点を確認しながら、見ている人を楽しませることでビジネスを伸ばした YouTube らしい作品を評価しようという議論になりました」
そんな中でグランプリを受賞したのは、一般社団法人ABJ の『ありがとう、君の漫画愛。』です。アーティストの Vaundy 氏と数々の人気漫画によるコラボレーションによって、海賊版を読まない、正規版読者に対して感謝を伝えています。
「『Don't(〜しないで)』のコミュニケーションになりがちな従来のマナー広告とは異なり、数々の名作漫画のキャラクターを起用して『ありがとう』を伝える手法が印象的でした。広がりの設計にもアイデアがあります。いくらファンでも違法サイトに対しての反対意見を投稿してもらうのは難しい。けれど「#今日も海賊版を読みませんでした」であれば、ただ正しく漫画を読むだけで言えてしまう。発言のハードルを下げることで、海賊版に抵抗する空気をつくることに成功しました」(細田氏)
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その他、惜しくも選外となったものの印象に残った作品として、細田氏は株式会社カプコンの『バイオ名作劇場〜ふしぎの村のレオン〜』を挙げました。人気ゲームタイトルである『バイオハザード』のリメイクにあたって、往年のファンが喜ぶ要素を散りばめつつ、日本アニメーションの制作協力を得て、「世界名作劇場」風な動画に仕立てました。
「ゲームの内容に一部に残酷なシーンもあるため、子供なども見るテレビ CM として流すのは難しいコンテンツかもしれません。しかし YouTube なら、届けたい視聴者をより限定できます。そういう意味で、YouTube ならではの作品だと感じました。また世界中にファンがいるゲームタイトルなので、YouTube のボーダーレスな特性にも合っています。実際、世界各国からコメントが投稿されていました。今までのメディアではできなかった、国境を越える広がりを作り出した成功例だと思います」
「エンタメ化」と「テック化」が進む広告業界
続いて、現在の広告業界について話は移ります。バイオハザードの例もあり、コンテンツが広告化していく時代に細田氏は「『広告業界』というものの境界があいまいになっている」とした上で、大きく 2 つの潮流があると指摘します。
1 つは「エンタメ化」です。
「最近、あらゆる企業やブランドが、どんどんコンテンツ企業化しています。たとえば昨年、映画『バービー』が世界中でヒットしましたが、あれは(米国の玩具メーカーである)Mattel の商品をコンテンツ化したわけですよね。同社は次に、『ホットウィール』という玩具でも映画化を予定しています。お金を払ってでも見たいという、ある意味で最強の広告フォーマットですよね」
そしてそれを後押しするのが「テック化」だと言います。
「つい数年前まではビッグデータによるパーソナライズが盛り上がっていました。そして現在は生成 AI などが進化し、広告クリエイティブの制作まで任せられるようになってきました。制作から配信まで、1,000 人に対して 1,000 種類のメッセージを届けるような、テクノロジーによる個別化が進んでいます」
ROI などビジネス貢献へのプレッシャーに、広告はどう向き合うべきか
昨今の経済情勢などを受け、多くの企業では広告に対する説明責任が高まり、投資対効果(ROI)へのプレッシャーも増しているでしょう。そんな中、どうしてもテクノロジーによる最適化、効率化のみに傾倒してしまうこともあるかもしれません。
エンタメ化を追求しながら、同時に ROI などビジネス貢献を高めていくには、どのような考え方が必要なのでしょうか。
「ROI を考えるときに多くの人は、つい分母を小さくする、つまり投資額を減らすことばかり考えがちです。これはまさにテック化による効率化で、これ自体は素晴らしいことです。しかし ROI は割り算だということを思い出せば、分子を大きくすることに目を向けるという発想も大切ではないでしょうか。より広い市場で受け入れられるビッグコンテンツを作るというのは、もちろん大きな投資になりますが、その分大きなリターンが見込めます。そこに対する想像力はもっとあっていいのではないかと感じます」
さらに細田氏は、この 2 つの潮流を同時に満たすことができる媒体として、YouTube に可能性を感じていると話します。
「YouTube は、AI などによる効率化と、そもそものエンタメの場であるという性質の両方を持っています。効率よくパーソナライズすると同時に、みんなで楽しめるエンタメ性も追求するといった、2 つの要素の掛け算に優れた広告のヒントがありそうです」
これからの動画広告は「スキ」or「スキップ」
エンタメ化とテック化という 2 つの潮流がある今の広告業界。今後はどのように移り変わっていくのでしょうか。
今年のアワードでは、ショート動画を対象とした「Best Shorts Ads 部門」を新設しましたが、細田氏も直近の変化として、YouTube ショートの広告活用に注目していると話します。
「国内で YouTube ショートのベータ版が公開されてから 3 年足らずです。従来の広告フォーマットと比べて、縦型のショート動画は、まだ成功の公式がありません。エンタメ性を交えながら、短い時間で多くの人の気持ちを動かす作品が今後どんどん登場し、新しい型が生まれていくのだろうと思います」
次に、今後 5 年 〜 10 年での広告業界の展望を聞くと、細田氏は「スキップ問題にどう対応するか」が鍵になると話します。
「おそらくこの先数年で、YouTube の動画はテレビデバイスで視聴される一番のコンテンツになっていくだろうと考えています。そのときに直面するのが広告スキップのお茶の間化です。そもそもスキップボタンのある YouTube がわかりやすいだけで、本質的にはテレビ CM の時にトイレに行ったり、交通広告(OOH)を無視してスマホに熱中したりするのも同じで、見たくない広告は見飛ばせるわけですよね。これからの広告は『スキ』と思われるものと、『スキップ』されるものにキッパリと二極化していくと考えています」
では、スキップされないために何が必要なのか。細田氏に聞きました。
「一部では、KPI を追求し過ぎるあまり、誤解を招くような広告手法などさまざまな問題も生まれています。もちろんビジネス成果への貢献は重要ですが、その為にも『人の気持ちを動かし』て『ビジネスを動かす』という 2 段構えの KPI 思考が当たり前になってほしいと思っています。
極端な話、1 回きりの関係であれば、広告はコンバージョンにさえつながればいいのかもしれません。しかしブランドは、顧客と継続的な関係性を築いていくことが非常に大切ですよね。1 回嫌な広告体験があったら、次はその企業の広告をクリックしないでしょう。広告を繰り返しのゲームとして、長期的に捉える視点が求められていると感じます」
YouTube Works Awards Japan 2024 の審査を経て、細田氏は、新たな動画広告の「芽」をたくさん発見したといいます。まだまだ発展途上で大きな可能性を秘めている YouTube のビジネス活用がどのように進化していくか、注目です。
YouTube Works Awards Japan 2024 のファイナリスト 50 作品は、以下の PDF に掲載しています。
ファイナリスト 50 作品の PDF はこちらから