昨今の経済情勢を受けて、これまで以上に広告投資への説明責任が求められるようになりました。YouTube 広告にも、多くの広告主やマーケターから、費用対効果などパフォーマンスに対する効率性の高さを期待する声が寄せられています。
この記事では、YouTube の広告賞 「YouTube Works Awards Japan 2023」ファイナリストの中から、惜しくも受賞は逃したものの、YouTube の特性を生かしてそれぞれの企業のマーケティング目標を達成した 4 社のキャンペーンを紹介します。
売り上げやターゲットリーチといったマーケティング目標に対して、各社が効果を上げることに成功したポイントを見ていきましょう。
目的に合わせた広告フォーマット使い分けで ROI 向上に寄与「楽天トラベル」
まず紹介するのは、楽天グループ株式会社のキャンペーンです。旅行予約サイト「楽天トラベル」において、広告の目的に応じて複数の広告フォーマットを使い分けることで、効率的に売り上げを伸ばし、高い投資対効果(ROI)を記録しました。
コロナ禍で需要が大きく沈みこんだ旅行業界ですが、行動制限が緩和されつつあった 2022 年 5 月、楽天トラベルでは「旅行の楽しさ」を打ち出すキャンペーンを実施。旅行の楽しさを思い出してもらうこと、そして業界を元気づけることを目指しました。その上で、国内の宿泊市場におけるシェア拡大とブランドの純粋想起、ROI を KPI に据えました。
楽天トラベルでは、家族旅行や友人との旅行、温泉旅行など、旅行形態や目的を問わず支持を集めるサービスを目指しているため、今回のキャンペーンでもあえて対象は限定しませんでした。ブランドカラーやブランドソングなど共通のフォーマットは維持しつつも、友情旅行や記念日旅行、秋旅行など動画ごとに異なる旅行シーンを描き、潜在顧客との接点を広げました。
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クリエイティブについては、YouTube Works Awards Japan 2023 の審査でも「冒頭 5 秒で『楽天トラベルで〇〇旅行』という印象をうまくインプットしている」「スキップできる YouTube 広告では、嫌な気持ちにならない表現やテンポが大切。ついつい見てしまう」など、基本を押さえて効果的な広告に仕上げた点が高い評価を受けました。
今回のキャンペーンは、テレビ CM や SNS など各メディアの特性を生かした設計でしたが、特に YouTube 広告に対しては、老若男女問わない幅広いリーチ力を期待しました。PC やスマホはもちろん、テレビ画面への配信(YouTube コネクテッドテレビ広告)まで、テレビを視聴する層へも視聴しない層へも、広くかつ効率的に届けられると考えたのです。
また同社の過去のテストから、一度でも楽天トラベルのサイトに訪問するとその後の予約につながりやすいことがわかっていたため、サイト誘導に最適化した YouTube 広告の動画アクション キャンペーンを採用。また同じく過去の結果から、6 秒のバンパー広告との組み合わせが予約のリマインド効果を高めることがわかっていたため、これも合わせて配信しました。
その結果、KPI に置いていた ROI はキャンペーン全体で 165.3% と高い数値を記録しました。またインテージの調査によると、施策の前後で純粋想起は 19% 増加。さらに宿泊予約の売り上げ(宿泊流通)は、新型コロナウイルス拡大前の 2019 年と比べて12.9% 増でした。
初代「トーマス」世代に効率的にターゲットリーチ、企画力が光ったソニー・クリエイティブプロダクツ
続いて紹介するのは、株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツのキャンペーンです。アニメ「きかんしゃトーマス」のリニューアルに合わせて、子供をもつ親世代に対して効率的にターゲットリーチを獲得しました。
子供向けのアニメのため、キャンペーンの対象はその親世代になります。その中でも特に、かつて自分もアニメを見ていた人が多いであろう 20 代 〜 30 代に向けて設計。SNS での話題醸成と、キャンペーン後も継続的にコンテンツを配信していく公式 YouTube チャンネルへの登録を KPI に置きました。
親世代の共感を生むために、クリエイティブには初代アニメのアセットを活用。当時放送していた実際の物語の進行に合わせて、ビジネスパーソンたちが演じるドラマを制作しました。
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アワードの審査でも「シンプルだが企画とクリエイティブが対象とマッチ」「既存の映像にアテレコするのではなく、セリフそのままに画をずらすというアプローチが秀逸」と、企画力を評価する声が多く上がりました。
ドラマは全 3 話を 3 週にわたって配信。単発ではなくシリーズで展開することで、チャンネル登録を促す狙いがありました。また SNS での話題の火付け役として YouTube の TrueView リーチ広告を採用し、動画のリンクを付けた SNS 投稿で、初速の最大化を図ったのです。
その結果、チャンネル登録者数は 2 万人以上の増加(18.3 万人 → 20.8 万人)。公開から 12 日間での視聴回数は、チャンネル平均比 2,100% でした。YouTube のアナリティクスでは、視聴者の約 70% が 20 代後半 〜 30 代と、届けたい層に効率よくリーチできていたことがわかります。
2 人暮らしのインサイトを捉えて完全視聴率 36%、ブランド好意度 23.5 ポイント増の「クックパー」
続いて紹介するのは旭化成ホームプロダクツ株式会社です。「2 人暮らし」のインサイトを捉えたクリエイティブと設計でブランドリフト向上に成功しました。
クッキングシートやフライパン用ホイルを展開する同社の「クックパー」ブランドではこれまで、「焦げない」「後片付けがラク」など、主に機能面のメリットを訴求してきました。しかし近年はプライベートブランド商品の参入などで競争も増しており、好意度を高めてブランドとしての地位を確立する必要があったのです。
広告を届けたいのは「(自分を含めた)誰かのために毎日料理をしている人」です。ブランド好意度の向上と指名での商品購入を最終的なゴールとして、YouTube 広告では、認知と特設サイトへの誘導を目標としました。
2 人以上で暮らしている 300 人を対象にした事前調査によると、料理をする人は「大切な人に毎日料理をつくることが愛である」と思っている一方で、「毎日の料理に疲れを感じている」人が多いことがわかりました。その結果から「#疲れない愛ってよくないですか」をテーマにクリエイティブを企画したのです。
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デジタル広告施策の中心に YouTube 広告を選んだのは、コストあたりのリーチ効率の高さに期待したためです。認知を目的とした TrueView インストリーム広告に加えて、動画だけでは伝えきれないメッセージを届けるために、特設サイトへの誘導を促す動画アクション キャンペーンも活用しました。
アワードの審査でも、「インサイトを丁寧に聞き込み、クリエイティブに反映している」「認知と理解という施策ごとの広告フォーマットの使い分けが優れている」と、キャンペーン設計を評価する声が聞かれました。
結果的に、TrueView インストリーム広告の完全視聴率は 36.4% と高い数値を記録。また事後調査によると、広告接触者のブランド好意度は非接触者と比べて 23.5 ポイント、利用意向度は 23.4 ポイント増加。「使うと料理が楽になると思う」との回答も 15.9 ポイント増加しました。
コネクテッドテレビの特徴に合わせた斬新なクリエイティブ、募金サイトへの遷移を促す
最後に紹介するのは、日本赤十字社のキャンペーンです。コネクテッドテレビの特性を活かした斬新なクリエイティブで、動画からのサイト遷移を促しました。
混乱する世界情勢を背景に、日本赤十字社では必要な国々へ食糧支援などを展開していました。しかし同社が毎年 12 月に実施している募金キャンペーン「NHK海外たすけあい」の認知や関心は 50 代以上が中心で、幅広い世代への認知拡大が課題でした。
そこで、今後の募金活動の対象として中心となるであろう 30 代 〜 40 代における質の高い認知を獲得すると同時に、興味を持ってくれた人をランディングページ(LP)へ誘導してさらなる理解を促そうとしました。
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予算は YouTube コネクテッドテレビ広告に集中的に投資しました。通常の広告では、LP への遷移などその後の行動までは移しにくい人たちに向けて、「二次元コード」を広告のど真ん中に大胆に配置したクリエイティブを制作。思わずスマホをテレビ画面にかざして LP へアクセスしたくなる、テレビ画面ならではの新しい映像体験を目指しました。
テレビ CM という選択肢もありましたが、大規模な予算が必要なテレビ CMよりも、限られた予算でも対象を絞って効率的に認知を高めやすい YouTube コネクテッドテレビ広告を採用したのです。
その結果、再生回数は約 350 万回。LP への遷移数は想定の 213% を達成しました。
広告の完全視聴率も高く、アワードの審査でも「最後まで見せるクリエイティビティがある」「大画面かつ動画尺にとらわれないという YouTube コネクテッドテレビ広告の特性を生かし、動画の最後までメッセージを埋もれさせない仕掛けが新しい」との声が上がりました。
以上、それぞれのマーケティング目標に対して効率的に成果を上げた 4 社のキャンペーンを見てきました。
YouTube Works Awards Japan 2023 のファイナリスト 49 作品は、以下の PDF に掲載しています。今回取り上げた 4 社以外にも、成果を挙げた作品について、背景にある課題や、YouTube 広告を活用した狙い、それを生かしたコミュニケーション戦略など詳細をまとめたので、広告の設計やクリエイティブ制作に活用してみてください。
また YouTube Works Awards Japan 2023 のダイジェストや各部門の受賞作については動画でもまとめています。