世界各国で開催している広告賞「YouTube Works Awards」は、さまざまなマーケティング目標を達成し、高い成果を獲得した広告を表彰するアワードです。日本で 2 度目の開催となる「 YouTube Works Awards Japan 2022」では各界をリードするクリエイターやマーケターなど 12 名が審査員を務め、6 月にグランプリと各部門賞の受賞作品を発表しました。
今回は同アワードの審査員で、YouTube 広告を実際に利用する広告主でもある、日本マクドナルド株式会社のズナイデン房子氏(取締役 上席執行役員 CMO)と、株式会社資生堂 チーフクリエイティブオフィサーで、資生堂クリエイティブ株式会社 代表取締役社長の山本尚美氏の 2 人へのインタビューから、YouTube 広告の活用のヒントや今後について探っていきます。
「YouTube はマーケター冥利に尽きるツール」自由度の高さをうまく活用するには
YouTube 広告を使うメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。日本マクドナルドのズナイデン氏は「自由度の高さ」を挙げます。
「YouTube 広告の魅力は、まず動画尺に制限がないことです。短いものも長いものも自由に作ることができます。そしてエッジの効いたメッセージを、自分たちが届けたいお客さまに絞って届けることができます。戦略から実行まで自由度高く取り組むことができるという点では、マーケター冥利に尽きるコミュニケーションツールの 1 つだといえるでしょう」
一方で自由度が高いということは、何でもできる反面、適切な選択肢を選ばなければ十分な効果を発揮できないこともあります。自由度の高さをうまく活用するヒントを資生堂の山本氏に聞きました。
「まず、さまざまなプラットフォームの中から YouTube を選んだとして、どのようなコミュニティにどのようなコンテンツをどのような形で届けるのかという選択を間違えると、ブランドの価値を損なうことにもなりかねません。この選択を間違えないためには、クリエイターやマーケター自身が、届けたい視聴者のいるコミュニティの住人になる必要があると思っています。そのコミュニティを意識しないままなんとなくお茶の間に届けようとデジタル広告を使うと、効果を発揮できないと思います」
YouTube 広告を最大限活用するには、メッセージを届けたいコミュニティを深く理解した上で、適切なコンテンツを適切な方法で配信することが重要なポイントなのです。
企業からのワンウェイメッセージが届かない時代に意識していること
YouTube 広告を作る際、広告主はどのような点を意識して制作しているのでしょうか。まず山本氏は、現在を「企業からのワンウェイ(一方通行の)メッセージが届かない時代」と認識した上で、生活者に寄り添うことの重要性を指摘しました。
「ずいぶん前からですが、インタラクティブ(双方向)なプラットフォームの普及に伴い、企業からのワンウェイメッセージは届かなくなったと感じています。コピーライターの仕事も、自分の感性でキャッチコピーを作るという方法から、生活者が SNS などで実際に使っている言葉をつないでいくような方法に変化しつつあります」
実際に、資生堂では生活者の使う言葉に合わせて、会社として使う言葉のボキャブラリーを変更したといいます。
「過去の話にはなりますが、実際に資生堂でも生活者に合わせて、会社で使う言葉をガラッと入れ替えたことがあります。当時は辞書などを参考に『メーキャップ』という言葉を用いていましたが、インターネットで検索されている言葉は『メイクアップ』や『メイク』なので、こちらに合わせました。また、たとえ文法的に正確ではなくても生活者自身の生きた言葉を使ったほうがキャッチーになることもあります。そういう言葉に違和感を持つ世代もいるかもしれませんが、生活者に寄り添うからこそ生まれるアイデアやクリエイションがあるのではないかと思っています」
ズナイデン氏は一方、「変化する価値観と変化しない価値観の見極め」を意識していると話します。
「新型コロナウイルスの流行があったことで、私たちの価値観もお客さまの価値観も、大きく変化したと思います。でもその中には、以前からあった『変化しない価値観』がコロナで浮き彫りになっただけ、というものもあると感じています。たとえば、今は “ コロナだからこそ ” という文脈でリアルで会うことの尊さが強調されることがありますが、それ以前の広告にもリアルで会うことの大切さを伝えたものはたくさんあるんですね。このような変化しない価値観と、変化する価値観を理解した上で広告を作っていかないと、お客さまには響かないのかなと思います」
生活者の心を動かす広告を制作するには、トレンドや価値観の変化を敏感に捉えてアプローチしていくことと、普遍的な価値観に訴求することのバランスを意識的に取っていく必要があるといえるでしょう。
YouTube の可能性と今後、ニーズに合わせた進化を期待
YouTube はユーザーとクリエイター、広告主のニーズに合わせて進化しています。2021 年 7 月には、スマートフォンでショート動画の撮影から編集、投稿までができる「YouTube ショート」を公開しました。今後もニーズや時代の変化に合わせて、さまざまな機能を追加していく予定です。
そんな YouTube の可能性とそこから生まれるこれからの広告作品について、広告主の立場として、そしてユーザーとして期待することを聞きました。
まず山本氏は、YouTube の中のコンテンツが増えることで新たに質的な変化の可能性があると話します。
「今後ますますコンテンツの数が増えて、あらゆるジャンルのものを網羅していくと思います。そうなると視聴者にとって広告とコンテンツの境目が曖昧になっていくのかもしれません。その中で広告クリエイターに求められるのは『広告ではない何か』を作っていくことだと思います。これまでの広告は、『見たいコンテンツを邪魔するもの』と思われがちでしたが、多様な広告が出てくることで広告ではない何かが生まれる可能性が高まり、結果として生活者に届くというような形になるといいですね」
さらに山本氏、ズナイデン氏ともに、社会情勢を反映したメッセージや作品の到来を予見しています。
「社会的なメッセージを帯びた広告が出てくるかもしれないですね。コロナ禍でも医療従事者に改めて感謝を示そうという動きがありましたよね。現在の社会情勢に関連したムーブメントが起こるのではないでしょうか。『平和』や『愛』といったハッピーなものや、人間の根源的な欲求に根ざしたコンテンツが増えるかもしれません」(山本氏)
「今は先行きが不透明な時代で、不安を抱えている人も多いと思います。そんな中でお客さまがホッとできるようなメッセージを伝える力が、YouTube の作品には備わっていると思います」(ズナイデン氏)
またズナイデン氏は今後期待する動きとして、コラボレーションの活発化を挙げました。
「今後増えそうなものとしては、今回 YouTube Works Awards Japan 2022 で部門賞を受賞した大塚製薬のカロリーメイトや日清食品のカレーメシのような、アーティストとコラボすることで、表現の完成度を上げていくような作品ですね。協業、共創することで、コミュニティの中の人たちも盛り上がることができます。コラボレーションがいろいろな方向に進んで、素敵な作品が出てくることを期待しています。また、音楽やビジュアルだけではない、誰も思いつかなかったような自由な発想による作品も見てみたいですね。そして YouTube にはプラットフォームとしても期待しています。たとえば、気分が落ち込んだときに、好きな音楽を聴いて元気を取り戻せることがあるように、YouTube を見た誰かが元気になる。そんな作品が集まる場であってほしいです」