YouTube を活用した国内向けのキャンペーンから 7 部門で部門賞を選び、その中から最も優れたキャンペーンをグランプリとして選出する「YouTube Works Awards Japan 2022」。グランプリと各部門賞の詳細、受賞作品はこちらの記事で紹介しました。
今年の審査は、広告主や広告クリエイター、テレビプロデューサー、YouTube クリエイターなど 12 名が務めました。審査員長は株式会社博報堂の嶋浩一郎氏(執行役員)と、YouTube クリエイター「Fischer's」リーダーのシルクロード氏です。
この記事では、これからの YouTube 広告が果たすべき役割について、各審査員がどのような展望や期待を持っているのか、また 7 部門の受賞作品が YouTube をどう活用したのかをまとめました。
世代や世界を超え、人と人をつなぐプラットフォームになっている
まずは、視聴者にとって YouTube の存在がどう変化していると感じるか、各審査員に話を聞きました。
株式会社電通の尾上永晃氏(プランナー/クリエイティブディレクター)は次のように話します。
「YouTube に参入する人が増え、誰でも発信していいんだという空気が広がることで、コミュニケーションの場が生まれ、そのコミュニティで会話をしたり、一員であることの帰属意識が醸成されていたりすると感じるからです」
株式会社リクルートの萩原幸也氏(クリエイティブ ディレクター)も「自分の息子が YouTube でさまざまな動画を見ていて、そこで得た知識を自分に話してくる」と述べ、いろいろな世界と人をつないでくれる存在になっていると言います。
また Z 世代の動向に詳しい株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの長田麻衣氏(SHIBUYA109 lab.所長)は、Z 世代にとっての YouTube が「情報収集の場」になっていると指摘します。
「たとえば旅行の前に、自分に必要な情報を調べるツールとしても使われるようになっているので、Z 世代にとっては便利な機能が集まる場として、認識されているのではないでしょうか」
YouTube ユーザーが大事にする「場」を、一緒に大事にする
また、これからの YouTube 活用のポイントを審査員たちはどう考えているのでしょうか。株式会社テレビ東京の工藤里紗氏(プロデューサー)は「今の子供世代にとっては、“ YouTube=テレビ ”。今はテレビで YouTube を視聴することが当たり前」とした上で、次のように話します。
「How to からエンターテイメントまでが YouTube の中で可能になっています。そこで活用の際に大事にしたいのは、作り込んだコンテンツの配信によって、視聴者のリアクションが生まれる点と、ライブ配信によるライブ感、この両方をうまく活用できる魅力をうまく生かすことです」
長田氏は「YouTube というプラットフォームは、ユーザーとのコミュニケーションの接点となっている」と述べ、「そのユーザーが楽しんで大事にしている世界に飛び込み、一緒に大事にする場としていくことが、企業の YouTube 活用には必要になっていく」との考えを示しました。
さらに株式会社LIFULL の川嵜鋼平氏(執行役員、チーフクリエイティブオフィサー)は、企業が YouTube を活用する際に大事にすべきことについて、次のようにまとめました。
「YouTube は、今の社会そのものを映していくメディアです。ブランドとして発信すべきは、人々の安心感や喜び、そういうウェルビーイングを感じられるような質の高いコンテンツを発信していくことだと、個人的には考えています」
表現の切り口、新たな手法が次の体験につながっている
では、そんな YouTube を今回のアワードで部門賞を受賞した 7 作品はどのように活用したのでしょうか。その秘けつを審査員のコメントから見てみましょう。
「Best Innovation 部門」を受賞したのは『VOICE PROJECT 投票はあなたの声』でした。今回のグランプリにも選ばれています。
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SHIBUYA109エンタテイメントの長田氏はこれまで声を上げにくかった俳優やアーティストが中心となって「若者の投票率低下」という社会課題の解決に寄与した点について、以下のように述べました。
「同じ思いを持った人たちが有志で集まって、動画にして配信するという新しい見せ方で挑み、結果、課題解決につながる結果を出したことがすばらしいと感じました」
また LIFULL の川嵜氏も同作品について「YouTube を起点にした今後の広告のあり方を変えていく」とした上で、次のようにコメントします。
「通常の広告は、クライアント、代理店、クリエイターがいて、その間に受発注の関係がありますが、この作品はそれを超えて、“ 人対人対人 ” で共創していくという考え方で作られています。本当に既成概念を変えたアプローチになっています」
続いて、「Best Sales Lift」部門は、眞露株式会社の『恋スル!チャミスル』が受賞しました。
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株式会社資生堂の山本尚美氏(チーフクリエイティブオフィサー)は、単なる広告ではなく「1 つ 1 つのクリエイティブの中に、韓国ドラマを研究しつくして、インサイトをしっかり掴んで、短い時間の中に組み込んだ点と、SNS のトリガーになるような仕掛けが随所にちりばめられていた点」を評価し、次のように話しました。
「実際に審査員の中にも、動画接触後に韓国料理を食べに行こうとか、次の体験につながっていくことを実感しました。その意味では新しいコンテンツのあり方を見た気がします」
ワンメディア株式会社の明石ガクト氏(代表取締役 CEO)も、「(韓国ドラマを)好きな人がチャミスルというプロダクトに着地するために、どういうストーリーがいいか」を綿密に設計している点を高く評価しました。
「Best Target Reach」部門を受賞したのは、人気ゲームとコラボして、就活生に効率的にアピールした東京海上日動火災保険株式会社の『モンハン保険』です。
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株式会社サイバーエージェントの羽片一人氏(インターネット広告事業本部統括)は「実際に社員が働いている絵やコミュニケーションをとる絵というのは、学生にとってはすごくわかりやすいし、リクルーティングの課題解決に非常に効果的だったと思う」と評価しています。
生活者のインサイトへの深い理解がビジネスへの貢献を生んだ
「Creative Effectiveness」部門では、大塚製薬株式会社の『カロリーメイト Web movie「夏がはじまる。」』が受賞。
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株式会社ADKクリエイティブ・ワンの三井明子氏(Copywriter / Creative Director)は、「部活をする中高生というオーディエンスのインサイトを上手く捉え、それを表現につなげているところが非常に良かった」「オリジナルソングが秀逸で、16人のアーティストの作画がものすごい熱量として伝わってきた」と言います。
「Force for Good」部門は、日本赤十字社の『「不安が見えなくなるメガネ」9月防災減災キャンペーン』が受賞しました。
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審査員長のシルクロード氏は、「YouTube の視聴者をよく理解して作っている」とした上で、次のように述べました。
「動画の冒頭、仕事がうまくいかないというようなメンタルの話で始まって、そこに謎のメガネをぶら下げた人が出てきて、その色眼鏡をかけると……、という話の展開なので、防災というテーマを自然に受け入れられました。あれが、最初に洪水がどういうもので、といったよくある教育コンテンツ的な見せ方になると、たぶん伝えたいことが視聴者には入ってこないのではないでしょうか」
LIFULL の川嵜氏も、動画の冒頭からの一連の見せ方について「入り口をすごく広げて、共感性がある形のストーリーになっていて、最後しっかり見た人の意識を変えるというところまで落とし込んでいる」と評価しました。
ブランドとクリエイターのコラボにより視聴者を「見たことのない景色」に連れていく
「Performance for Action」部門の受賞作は、株式会社リクルートの『【ホットペッパービューティー】~ナダルとオカンの押し問答~』でした。
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成果を出せた要因として、ADKクリエイティブ・ワンの三井氏は、「男性向けに絞りきって伝えているところが、配信先を精緻に設計できる YouTube の特性を生かしていた」と振り返ります。
またリクルートの萩原氏は、「得られた成果が動画によるものといえるか、そして成果はビジネスに対しての貢献といえるかが議論のポイントだった」とした上で、次のように述べました。
「ホットペッパービューティーという女性向けイメージが強いサービスを『男性も使っていいんだ』と理解してもらえる内容になった点や、サービスの画面を映したことで、視聴後のCall to action の部分も考慮されていた点が、評価されたのだと思います」
なお、本部門では、リクルートの萩原氏以外の審査員の投票結果をもとに、同社の作品を選出しています。
「YouTube Creator Collaboration」部門は、日清食品株式会社の『夏はカレーメシ カレーメシ×ホロライブ コラボ動画』が受賞しました。
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ワンメディアの明石氏は、大手ヴァーチャルクリエイター事務所であるホロライブに所属する 3 人をアンバサダーに起用したことについて、次のように話しました。
「企業とクリエイターのコラボというのは、視聴者が今まで見たことがない景色に連れていかれる感じになるのが成功だと思うが、それを美しい形で、全力でバットを振り抜いたのがカレーメシ」
また、テレビ東京の工藤氏は、「ネットの中で応援していた自分の推しの VTuber が、他のメディアに出ていくストーリーを共に目撃する仕掛けが画期的」とコメント。
さらにシルクロード氏は、YouTube 動画を地上波番組の CM 枠でそのまま放送し、同時に YouTube で “ 見守り生配信 ” を実施した仕掛けについて、次のように総括しました。
「僕がすごいなと思ったのはやはり同時視聴で、見守り配信の視聴数が 5 万を超えるあたりに、リアルタイムで動いてくれる視聴者の力を再確認しました」
審査員が考える YouTube の役割や期待、各部門の受賞作品に対するコメントは動画でもまとめています。