YouTube 広告というと、これまで認知獲得を目的として使われることが多いイメージだったかもしれませんが、近年は売上や販売シェアの獲得、店舗への来店促進など、認知の先に大きく貢献するケースが増えてきています。
YouTube ユーザーの 60% は YouTube には予期せぬ発見があったとし、71% は YouTube の影響でもともと買う予定のなかったものを買ったことがあると回答。53% が、YouTube 広告を見ると商品やサービスを購入する可能性が高くなると答えている(*1)ことからも、YouTube が購買の起点となっていることがうかがえます。
今回は、YouTube を活用してビジネスを成功に導いたキャンペーンを表彰する広告賞「YouTube Works Awards Japan 2022」の応募作品の中で、特に売上拡大に貢献した広告を対象とする「Best Sales Lift 部門」で部門賞を受賞した作品とファイナリスト 5 作品を紹介します。
ファンの視点で動画制作、韓国焼酎「チャミスル」は前年比売上 60% 増を達成
Best Sales Lift 部門で部門賞を受賞したのは、眞露株式会社の『恋スル!チャミスル』です。
同社が販売する韓国焼酎のチャミスルは、韓国では「国民酒」と言われるほどのブランドですが、日本では特定のシーンでのみ飲まれる “ イベント酒 ” でした。そこで、日本でも日常的に選ばれるお酒を目指してプロモーションをしてきました。
過去には、テレビ CM 素材を YouTube 広告で配信するといった施策を通じて、 2020 年からの約 2 年間で認知度が 18% から 50% に上昇。店頭への配荷、販売数ともに急成長しました。
今回は認知獲得の次の段階として「『好意的』認知の獲得とそれに伴うシェアや拡散」「購買意向の向上」を目的に、韓流やエンタメファンの 20 代 ~ 30 代に向けてキャンペーンを展開しました。
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クリエイティブは、韓国ドラマファンの視点で作ったドラマ企画『恋スル!チャミスル』です。チャミスルと相性が良く、日本でも流行している韓国ドラマのあるあるネタをちりばめた企画です。
あるあるネタといっても、韓国ドラマのファンは、ドラマをお笑いコンテンツとしてみているわけではありません。そのため本当にコンテンツにハマっている人が作るものでないと、強い共感や仲間意識を得られないと考えました。そこで、愛するコンテンツだからこそ共感できる “ あるある ” を発見するために、さまざまな韓国ドラマを隅々まで視聴。ファンの視点で企画を考え、ユーザーの好きなものを広告にすることで、人に話したくなるような広告を目指しました。
YouTube を施策の中心に据えたのは、動画尺の自由度が高く、音声ありでの視聴が期待できるなどの理由からです。その他 SNS などでの広告展開も、すべて YouTube に流入するように設計しました。
韓流やエンタメに関心がある層のボリュームや割合を事前にリサーチし、デモグラフィックやフリークエンシーなども細かく設定。効率的に最大限のリーチが獲得できるようにしました。
4 分弱のフルバージョン動画の再生回数は 347 万回で、SNS を含めた全動画再生数は 1,000 万回を超えました。視聴者のアクションものべ 6.8 万回といずれも KPI を大幅に超えました。そしてその結果、同社の定番商品にもかかわらず、月の売上は対前年比で 60% 増と急成長。SNS 上でもプロモーション前後での購買意向の投稿が 1.3 倍増加するなど、売上に大きく貢献するキャンペーンとなりました。
ROI 1.8倍、来店 1.7 倍、トヨタ「アクア」は制作費を抑えつつ想定より大きな成果
続いて、「Best Sales Lift」部門のファイナリスト 5 作品を紹介します。部門賞は逃しましたがいずれも注目の作品です。
まず取り上げるのはトヨタ自動車株式会社です。同社のコンパクトカー「アクア」は 2021 年 7 月にフルモデルチェンジを遂げました。すでに一定の認知を獲得しているアクアですが、一方で新型で進化した「走りの良さ」が十分に伝えられておらず、受注台数の増加も命題でした。
「YouTube 広告に、より購買に近い役割を持たせられるのではないか」。そうした仮説から、動画視聴後の検索、サイト訪問、来店までのアクション効率を可視化し、受注台数への実質的な貢献度を評価するという、動画広告では社内で前例がない取り組みを実施することになりました。
今回は、直接効果、間接効果を含めた来店数(Google アナリティクスの「来店コンバージョン」で計測)を投資利益率(ROI)から逆算し、KPI に設定。動画視聴後のコンバージョンなどの間接効果を可視化できる YouTube 広告のみを活用しました。
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広告フォーマットは、視聴数や購入意向の獲得が期待できる「TrueView インストリーム広告」と、検索貢献およびサイト誘導が期待できる「動画アクション キャンペーン」の 2 種類を使い分け。視聴環境や広告フォーマット別に 24 パターンのクリエイティブを用意し、より購買に寄与するパターンを検証し、PDCA で効果の最大化を図りました。
中間報告の時点で、ROI は想定の 1.8 倍の数値を記録。来店数も、想定の 1.7 倍を獲得しました。
想定以上の結果が出たのは、間接効果の高さによるものです。キャンペーン期間内の検索経由のコンバージョンのうち、29.8% が動画視聴後のものでした。これは自動車業界の平均や、同社の過去最高の実績値(17%)を大きく更新しました。またメインの動画では、購入意向も業界平均の 2 倍以上となる 3.78% のリフトを達成しました。
「YouTube 急上昇ランク」入り、『ジムビームコーラで俺のターン!!!』
コロナ禍で外食を控える傾向が続く中、サントリースピリッツ株式会社では、輸入ウイスキー「ジムビーム」の美味しさを体感してもらう機会が減少していることが課題でした。
そこで同社は、「家飲み」を通じて、生活者とジムビームとの接点をさらに拡大しようと考えました。
従来、落ち着きや癒やしを求める傾向が強かった家飲みですが、在宅勤務などの増加もあり、時間に応じて気持ちを切り替えて楽しく過ごすことが、生活者にとってより重要になってきていると考えた同社は、今回のキャンペーン『ジムビームコーラで俺のターン!!!』を企画。ジムビームのコーラ割りが解放感や高揚感を高めるための相棒に適していることを、家飲みのスタイルと共に提案しました。
家飲みをもっと充実させたいという潜在欲求がある 20 代~ 30 代男性に向けて、認知獲得と、販売店への集客、購買促進を目指しました。過去のジムビームの Web 動画の平均再生回数が 200 万回だったため、今回も同じ再生回数を KPI に設定しました。
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動画では「俺のターン」というワードを「好き勝手に自由時間を楽しむための合言葉 」として定義。「ジムビームコーラで俺のターン!」と叫びながら、家飲みを楽しんでいる人々の姿を描きました。人々の共感を呼べるよう、具体的な生活シーンでの解放感を描きつつ、飲用シーンでは商品のシズル感を魅力的に伝え、人々が「真似したくなる楽しみ方のフォーマット」として展開することで、話題化と購買促進を図りました。
動画は YouTube 急上昇ランキングに 20 時間以上掲載されるなど話題を集め、幅広いリーチを獲得。累計再生回数も 552 万回を記録しました。その結果、店頭への集客、購買喚起にも成功。SNS 上でも動画内のセリフを用いて同商品を楽しむ投稿や、動画をきっかけに商品を購入する人も見られたほか、動画を公開した週の同社ウイスキーカテゴリ製品の新規購入者数は、前年同週比で 427% を達成しました。
購入意向は平均値を超過、コカ・コーラ「やかんの麦茶」
2021年、「やかんの麦茶」で麦茶市場に参入した日本コカ・コーラ株式会社。子供向けの印象が強かった麦茶に対して、「カラダを気にする大人こそ麦茶を飲むべき」と、20 代 ~ 30 代に向けて商品を展開しています。
今回のキャンペーンは、商品の認知と親しみやすさを向上させることが目的です。キャンペーン全体の KPI はブランド認知 40%、YouTube のみでは 400万のリーチと購入意向 8.51% を KPI に設定しました。
水出し麦茶を飲み慣れているであろう 20 代 ~30 代に向け、やかんで煮出したような味わいの「ひと手間かけた麦茶」の価値を再認識してもらえるクリエイティブを企画。YouTube のほか、テレビ CM や SNS、屋外広告などで展開しました。
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テレビ CM は、古民家風カフェ「やかんの麦茶屋」を描いたものです。それに対して YouTube 広告は、テレビ CM で描いた「やかんの麦茶屋」の世界に入り込んで一息つく、縦型 1 人称視点の没入度の高い映像体験を追求。仕事の合間の息抜きに見るメディアと位置づけ、ブランドを深く理解してもらい、購買喚起を目指しました。
その結果、購入意向は 21% と同社内の過去実績の平均を上回り、近年で一番の実績でした。リーチ数は目標の 2 倍以上となる 940 万を達成し、製品認知も 58% と KPI を 10 ポイント以上上回りました。その結果、販売本数は 5,000 万本を 2 カ月間で達成。これは過去 3 年間で発売した同社の新製品で最速でした。
コロナ禍での逆境から売上 V 字回復を達成した「マウントレーニア」
リモートワークが拡大したコロナ禍において、森永乳業株式会社では、オフィスで働く人に向けて展開していた基幹商品「マウントレーニア」の販売に苦戦が予想されていました。
自粛続きで人々は大きなストレスを抱えていると考えた同社では、「人は、ストレスを溜めるほど、無意識にかわいさや癒やしを求める」と気づき、「人々を本気で癒やす広告」を企画しました。
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広告では、コロナ禍で休園した全国 10 カ所の動物園とコラボ。飼育員たちが撮影した「動物たちに癒やされる動画」を提供してもらい、その素材をもとに広告を作ると同時に、主力の「カフェラッテ」も、すべて動物をモチーフにした「深い癒やしパッケージ」に変更しました。
コロナ禍で、メディアの接触時間が増加していることを受け、自宅にいる人々に届きやすいメディアとして YouTube 広告を選択。リモートワークのビジネスパーソンはもちろん、コロナ禍で家事の負担が増えた主婦も新規顧客に定めました。
外出できない人々へ癒やしを届けるために新聞広告や、一方で、通勤せざるをえない層へ向けストレスを癒やすため、かわいい赤ちゃん動物の写真で電車の車両を囲んだ「トレインジャック」も展開。SNS などでも動画を投稿したところ、オーガニックで推定 2,000 万人に情報を届けることができました。
これらの結果、「カフェラッテ」の売上は最大で前年比 114% に V 字回復。競合商品や市場平均を大きく上回りました。KPI だった広告態度変容率も、同社の通常を上回る25% 以上を記録しました。
「ベーコンポテトパイ」が品切れになった、日本マクドナルド「大人の放課後」キャンペーン
日本マクドナルド株式会社の「ベーコンポテトパイ」は、1990 年に初登場して以来の定番商品です。大手コンビニなどが類似商品を発売している環境下で、マクドナルドから離れてしまった顧客をいかに取り戻すかが最大の問題でした。
そこで企画したのが、「昔にベーコンポテトパイを家族や友人と一緒に食べた懐かしい記憶があるが、食生活の制約などでマクドナルドから遠ざかってしまった」という 30 代 ~40 代向けの広告です。
YouTube を通じて同世代間で盛り上がれる話題を作るべく、長編動画を制作し、懐かしい想い出とともに「あの味を、もう一度食べたい」という気持ちを醸成させることを目指しました。
現在動画は非公開です
動画では、30 代~ 40 代の青春時代を再現しました。友人との会話での言葉遣いや、当時流行っていた洋服のブランド、ゲームなどを細かく再現し、BGM には当時のヒット曲を起用。エモーショナルな気持ちを掻き立てられる世界観を表現しました。
YouTube の長尺動画を起点に、テレビ CM や SNS、店内放送、商品パッケージなどのメディアを融合。動画で起用した複数の名曲を全国約 2,900 店舗でも放送することで、YouTube 広告への導線を作りました。
結果、ローンチ前の時点で、SNS メンション数が前年比 177% に増加。売上目標や総販売数は前年の実績を大幅に超え、過去最大の販売食数を記録しました。販売終了予定日よりも約 2 週間も前に品切れになるほどの大反響でした。
また、目標としていた普段マクドナルドに来店しない人の購入も、予想をはるかに上回りました。
以上、Best Sales Lift 部門でファイナリストに選ばれた 6 作品を紹介しました。
今回のファイナリストはいずれも実店舗で販売している商品を扱った作品です。このうち 5 つが飲食カテゴリであることを考えると、YouTube 広告が生活者の日常の購買行動に対して好意的な影響を与えられることが見て取れます。YouTube と言えばこれまで、オンラインだけで完結するキャンペーンの印象があったかもしれませんが、実際にはこうして生活者に実店舗への来店を促す効果があります。こうした流れは飲食店に限らず今後も波及していくと考えられ、O2O の施策として広く活用されていくのではないでしょうか。
Best Sales Lift 部門のファイナリスト 6 作品の紹介と、受賞作品に対する審査員のコメントは動画でも紹介しています。
動画はこちら