マーケティングの観点からビジネスに寄与した優れた YouTube 広告を表彰する 「YouTube Works Awards」。日本で2回目となる「YouTube Works Awards Japan 2022」では、2021 年に YouTube を活用したキャンペーンから応募を受け付け、7 つの部門でノミネート。各部門賞を選出し、その中で最も優れた広告をグランプリとして表彰します。
この記事では、 グランプリと各部門賞に輝いた 7 作品を紹介します。
YouTube の使い方や今までにない制作プロセスで「広告のあり方」の可能性を示した『VOICE PROJECT』:グランプリ、Best Innovation 部門
YouTube Works Awards Japan 2022のグランプリに輝いたのは、Best Innovation 部門で部門賞に輝いた『VOICE PROJECT 投票はあなたの声』です。
Best Innovation 部門は、既存の概念にとらわれず YouTube を使った革新的な取り組みを表彰する部門です。同作品については「制作プロセス、タレントの位置付けなどまったく新しい作り方を実現した」「YouTube だからこそできた作品」など審査で高い評価を集め、グランプリにも選ばれました。
『VOICE PROJECT』は、投票権を得て間もない 18 歳~ 20 歳を中心とした若者層に対して、2021 年の衆議院議員総選挙を前に、投票の大切さを伝えて行動を喚起することを目的としたキャンペーン。政党や企業に関わりのない市民による自主制作の企画です。
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総務省の統計(*1)によると近年の日本の投票率は、衆議院と参議院選挙ともにおよそ 50% 前後で推移しており、特に 20 代を中心に投票率が低くなっています(*2)。
投票をしていない若者の多くは選挙は「自分とは関係ない」「1 票では何も変わらない」と感じているとの仮説に基づき、「自分自身の問題だ」と感じてもらうことが投票を促すと考え、企画を検討。若者に影響力のある俳優やミュージシャン総勢 14 人に投票についてインタビューし、生の声をシンプルに届けると共に、 「どんな政党や政治的意見にも寄ることなく、純粋に投票を呼びかける」映像を制作しました。
さらに、「共感したらこの動画に #わたしも投票します をつけて SNS でシェアしてください」とのメッセージも投げかけました。
この作品は、市民による自主制作プロジェクトのため、動画のみのコミュニケーションで、広告配信はしていません。SNS などで自然に拡散し、70 万回以上の再生数と 2,680 件以上のコメントが寄せられました。またキー局 22 番組以上、地方局 29 番組以上に取り上げられ、15 紙以上の新聞で広く報道され、国外でも注目を集めました。 前回の国政選挙と比べて 10 代の投票率が上がったことを見ても、これらの取り組みが一定の効果を上げたと言えるかもしれません。
今回の審査では、動画単体で、「『若者が選挙に行かない』といった空気を変えた」「YouTube というメディアの特性をうまく活用して、1 人のアイデアが多くの人たちの賛同を巻き込み、大きなコミュニティに育っていくプロセスを作れていた」と高く評価されました。
たとえば冒頭 5 秒の「これは広告でも、政府の放送でもなく。僕たちが僕たちの意思で作った映像です」という表現や、出演者が言葉を噛んだところをあえてそのまま使う演出、上から目線ではない言い方が、視聴者にリアリティを感じさせ、自分ごとであることを効果的に伝える役割を担っています。タレントとしての表現ではなく、リアルな個人の意見の発露になったことで多くの共感が生まれました。
いち市民が声を上げ、見ている 1 人ひとりに語りかけるという、この YouTube の距離感がキャンペーンのテーマと合致している点も、評価を集めたポイントでした。
“ ファンの視点 ” で動画配信、前年比売上 60% 増、韓国焼酎『恋スル!チャミスル』:Best Sales Lift 部門
Best Sales Lift 部門は、YouTube 広告を活用して売上拡大につなげたキャンペーンを表彰する部門です。
受賞作品は、眞露株式会社の『恋スル!チャミスル』に決まりました。
眞露が販売する韓国焼酎の「チャミスル」は、韓国では国民酒と言われるほどのブランド。日本でも同様に日常で選ばれるお酒を目指したのが今回の取り組みです。
韓流、エンタメファンの 20 代 ~ 30 代男女に向けて「好意的認知の獲得と購買意向の向上」を目的に、「韓国ドラマのあるあるネタ」を散りばめたドラマ企画「恋スル!チャミスル」を展開しました。
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フルバージョン動画の再生回数は 347 万回で、SNS を含めた全動画再生数は 1,000 万回超。その結果、月の売上は対前年比で 60% 増と急成長するなど、売上に大きく貢献するキャンペーンとなりました。
審査で評価されたのは「話したくなる、話題にしたくなるエピソードがちりばめられており、SNS などでの口コミにつながる仕組みが丁寧に設計されている」点です。
そのために、話題化を狙って制作したこの企画で眞露が大切にしたのは、「愛するコンテンツだからこそ共感できる “ あるあるの笑い ” を発見すること」でした。さまざまな韓国ドラマコンテンツを視聴し、本当に韓国ドラマにハマるファンの視点に立って企画されています。
審査ではそうした点も「韓流ドラマを研究し尽くし、愛を持ってコピー、アングル、ストーリーを魅力的に生き生きと表現し、購買意欲を喚起した」と評価を得ました。
ゲーム実況で保険会社のイメージ変えた、東京海上日動火災保険『モンハン保険』:Best Target Reach 部門
Best Target Reach 部門は、YouTube で的確なオーディエンスにメッセージを届け、ビジネス成果につなげたキャンペーンを表彰する部門です。
受賞したのは、東京海上日動火災保険株式会社の『モンハン保険』です。人気ゲームとのコラボを通じて、就活生に対して効果的なアピールに成功しました。
同社では「(就活生に対して)自社に興味を持ってもらう後押し」になるようなコンテンツとして企画を考えました。
そのために単なる情報発信ではなく、就活生が見たいトピックとの掛け合わせとして、 YouTube の「ゲーム実況」コミュニティの盛り上がりに着目。そのカルチャーに入り込むコミュニケーションを目指しました。
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具体的には、カプコンの RPG「モンスターハンターライズ」とコラボするゲーム動画を制作。同社の社員がゲームをプレイし、ゲーム世界の住人が直面するトラブルやリスクの回避方法やどうサポートするべきかなど、保険のプロとしての視点からゲームを進める様子を描きました。
訴求したいオーディエンス層とクリエイティブの親和性は審査でも高く評価を集めました。
また実際の社員がゲームを見ながら商品開発をするという新しいアプローチに対しては、「就活生にとって重要な『その会社で働く社員の人柄』が伝わるコンテンツで、保険会社のイメージも変えた」との声も上がりました。
このほか動画を作るだけではなく、その後の盛り上がりについても工夫がありました。同社では、今のゲーム実況のコミュニティが動画単体で完結せず、配信者が SNS を使って告知や会話をする「コミュニケーションの型」があると捉え、カプコンにも SNS での告知の協力を依頼。こうした取り組みにより、まずはゲームが好きな層を起点にコンテンツの盛り上がりを生みました。
結果的に動画の再生回数は 3 本で 180 万回以上、3 分という長尺にも関わらず再生完了率は 16.8% を記録し、コンテンツの内容をしっかり視聴してもらうことに成功しました。
「熱い応援」が伝わり 800 万再生、2 次創作を呼んだカロリーメイト『夏がはじまる。』:Creative Effectiveness 部門
Creative Effectiveness 部門は、YouTube の特性を活かしたクリエイティブで生活者のインサイトを捉えたキャンペーンを表彰する部門です。
大塚製薬株式会社の『カロリーメイト Web movie「夏がはじまる。」』が受賞しました。
同社のカロリーメイトブランドではこれまで、夏は部活、冬は受験をテーマにコミュニケーションを展開してきました。しかし 2020 年以降、新型コロナウイルス感染症の影響でインターハイや甲子園などの夏の大会が次々と中止に。そして 2021 年の夏、制限はあるものの夏の各種大会が 2 年ぶりに開催されることを受けて企画したのが今回のキャンペーンです。
中高生たちに何かを発信するのではなく、そこに立つ彼ら彼女らの思いや葛藤をありのまま強く描くことが背中を押すことになると考えた同社では、2 年越しの大会に向けた生徒たちの「熱量が爆発する」瞬間を 2 分の動画で描きました。
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学生たちがアクセスしやすいメディアとして YouTube に全予算を配分しました。
登校前や自主練、部活中に聴きたくなるような、“ 広告より Music Video ” になることを目指してクリエイティブを制作。学生が自分のモチベーションを高めるために使いたくなるクオリティを目指しました
動画は、夏のインターハイの開催が決定した後すぐに公開。大きな反響を呼び、露出件数は 263 件と前年の同シリーズ(100 件)を大幅に超えました。
またこの動画を公開後、YouTube をはじめとする各メディアの動画再生回数は計 800 万回以上に上り、20 万のいいねと、2 万 5,000 件のコメントを獲得。さらに楽曲の「歌ってみた」「弾いてみた」や、部活生が部活プレイ動画をつないだ YouTube 動画などの 2 次創作が大量に後出しました。
審査ではこうした点を受けて「『本当のファン』が生まれている」と評価しました。
また「長期のブランド戦略を毎年進化させつづけているからこそできる表現だ」と、これまでのカロリーメイドブランドの積み重ねを評価する声もありました。
“ 防災 ” を丁寧に伝えた、日本赤十字『不安が見えなくなるメガネ』:Force for Good部門
Force for Good 部門は、収益やビジネスインパクトを超え、 YouTube で自社のブランドパーパスを表現し、社会的意義のあるコミュニケーションを展開したキャンペーンを表彰する部門です。
日本赤十字社の『赤十字「不安が見えなくなるメガネ」9月防災減災キャンペーン』が受賞しました。
本作は防災の日もある 9 月に、防災意識を高め、自然災害への備えを促すキャンペーンとして企画しました。国民全員に向けたキャンペーンですが、東日本大震災から 10 年を迎えたタイミングということもあり、今回は特に災害時に逃げ遅れてしまう可能性を意識したものになっています。
同社では自然災害時に逃げ遅れてしまう人の特徴的な心の働きとして、危険が迫っていても自分だけは大丈夫だと思ってしまう「正常性バイアス」と、みんな逃げていないから大丈夫だと思ってしまう「同調性バイアス」の 2 つを想定。3 分以上の長尺動画を通じてこの 2 つのバイアスと、その対処法を丁寧に訴求しようとしました。
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動画では、「色眼鏡がかかり、危険を正しく見ることができない」心理状態を寓話化。 正常性バイアスは「不安が見えなくなるレンズ」 、同調性バイアスは「みんなと一緒レンズ」とし、 この 2 つのレンズが入った「不安が見えなくなるメガネ」をかけた主人公が登場する物語仕立ての動画を制作しました。こうした心理が災害時の逃げ遅れの原因になることを理解し、さらにはその対処法を知ってもらおうとしたのです。
今回は動画をきちんと視聴し、理解してもらうことが重要でしたが、3 分以上の長尺動画にもかかわらず、完全視聴は 32 万回再生を記録。同社では「人々の役に立つ動画の場合、 最後まで見てもらえる可能性が上がることが確認できた」と振り返ります。
本作は、日本赤十字社というブランドだからこそ扱うことができる「日本国民の防災意識を高める」という難しい社会課題に対して、誠実に向き合い、視聴した人の意識や行動を変えたキャンペーンとして、審査では評価の声が上がりました。
またそのメッセージと共に、「防災という、ともすいれば説教臭くなるテーマに対して、共感性の高い導入から、最後まで一気に引き込んでいく質の高いアニメーションとストーリーテリング」が高い評価を得ました。
あえて「使えません」を連呼、ブランドの誤解を解き、新規層の予約につなげた「ホットペッパービューティー」:Performance for Action 部門
Performance for Action 部門は、動画を見た人の意思決定を後押しして行動を促すことに成功したキャンペーンを表彰する部門です。
受賞作は、株式会社リクルートの『【ホットペッパービューティー】~ナダルとオカンの押し問答~』です。
目的は「ホットペッパービューティー」をまだ利用したことがない人にアプローチすること。そのために「ホットペッパービューティーは女性だけが使うもの」「美容室だけが載っている」という誤解を解消することが重要でした。
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未利用者の思い込みである「ホットペッパービューティーは使えない」という誤解を、あえて動画内で採用することで、自分ごと化してもらえるような設計にしています。
「〇〇ができる」「〇〇が利用できる」を訴求する従来の広告のあり方ではなく、「(男性は)使えません」を連呼することで、広告接触者に振り向いてもらうきっかけを作っています。
その結果、「ホットペッパービューティーは美容室だけでなくてリラクゼーションサロンの検索・予約もできる」というイメージの認識リフト(リフト率 24.6%)を達成。新規サロンの予約増加率は、リラク篇で 9.1%、美容室篇の動画では 2.2% を記録しました。
ブランドへの誤解を解くという課題を直球で打ち返した本作品は、審査員からも「面白い」「わかりやすい」といった評価が集まりました。また「リズムよく言葉を重ねて、YouTube 動画として馴染みやすい」ことや「スマホのサービス画面をしっかり見せ、そこからアクションにつながりやすい形を作っている」といった表現上の工夫も高評価のポイントになりました。
日清とホロライブのコラボで SNS の「世界トレンド 1 位」に:YouTube Creator Collaboration 部門
YouTube Creator Collaboration 部門は、YouTube で動画を投稿するクリエイターと企業やブランドがコラボレーションし、高いマーケティング効果を獲得した広告を表彰する部門です。
日清食品株式会社の『夏はカレーメシ カレーメシ×ホロライブ コラボ動画』が受賞しました。
同社はここ数年、若年層の認知拡大と喫食率向上のため、サブカルチャーとのコラボレーションを推進してきました。その中でカレーメシブランドは、2020 年度には YouTube チャンネルの総登録者数が 5,000 万人を超えるヴァーチャルクリエイター事務所「ホロライブ」とコラボを開始。2021 年の本キャンペーンでも、ホロライブ所属のヴァーチャルクリエイター 3 人をアンバサダーに起用しました。
ホロライブのファン層におけるソーシャルシェアの獲得とそれに伴う喫食率の向上を目的とし、起用したアンバサダー 3 人を超えてホロライブのファン全体の興味を喚起する、地上波テレビ番組との連動企画を実施。
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人気テレビ番組の CM 枠で 60 秒のコラボ CM を放送すると同時に、YouTube では “ 見守り生配信 ” を開催。YouTube 向けの広告を地上波のテレビでそのまま流すことで、映像インパクトと、普段通りのヴァーチャルクリエイターを地上波のテレビで見れることによるファンの熱量獲得を図りました。
その結果、CM を配信したタイミングで、ハッシュタグ「#カレーメシSUMMER」が SNS の世界トレンド 1 位を獲得。放送終了後に YouTube で公開した動画は 170 万再生を記録し、見守り配信の同時接続数は約 5 万と、どちらも KPI を大きく上回る成果をあげました。
審査員からも「視聴者たちがずっと応援してきたホロライブのクリエイターが、地上波CMに進出するという『祭り』をみんながとことん楽しみ抜いたこと」が結果につながったとのコメントがありました。
「YouTube は広告主である企業のものでも、動画を投稿するクリエイターのものでもなく、そこにいる視聴者のための場所だ」という前提に立った表現が、審査でも高評価を得ました。
以上、グランプリと部門賞を受賞した 7 作品を紹介しました。
YouTube Works Awards Japan 2022 のダイジェスト、および各部門のファイナリスト作品や審査員のコメントは動画でもまとめています。みなさまのマーケティング課題の解決、そして効果的な動画広告制作のヒントになることを願っています。