YouTube の利用者は動画を通じて今、何をしているのか。そして、マーケターは YouTube 広告で高い成果をあげるために、どんな準備や考え方が必要か。
この記事では、2022 年に開催する YouTube の広告賞「YouTube Works Awards Japan 2022」の審査員を務めるマーケターやクリエイターが、イベント「宣伝会議サミット2021」のなかで「YouTube のこれから」をテーマに議論した内容をお届けします。
登壇者は、株式会社博報堂の嶋浩一郎氏(執行役員)、ワンメディア株式会社の明石ガクト氏(代表取締役)、株式会社LIFULL の川嵜鋼平氏(CCO:チーフクリエイティブオフィサー)、株式会社サイバーエージェントの羽片一人氏(インターネット広告事業本部統括)、株式会社SHIBUYA109 エンタテイメントの長田麻衣氏(SHIBUYA109 lab. 所長)。
審査員の YouTube の見方には通ずるところも多く、効果の高い YouTube マーケティングや広告作りには、意識しておくべき共通の世界観があるようにも思える議論になりました。
YouTube は「世界中のみんなが参加している大会」
YouTube 登場以来、「映像の時代から動画の時代に変わるイノベーションが起きた」と明石氏は話します。
映像の時代を象徴する放送は、収録したものを編集所で編集し映像化して電波に乗せて視聴者に届けるという、個人にはできないものでした。つまり「映像表現は従来、参加者が限定されていたため、新しい表現が生まれるペースが遅かったが、YouTube で一気に加速した」(明石氏)のです。
一方、現在の動画の時代では、スマートフォンが 1 台あれば、動画を撮影、編集し、YouTube を通じて自分の言葉で世界に配信できます。それは子供でもお年寄りでも、都会でも田舎でもできる。「世界中でみんなが参加している大会」(明石氏)なのです。
大がかりなテレビ CM も手掛けてきた嶋氏は、「YouTube によって、作り込んでいない身近なコンテンツでも視聴者に受けることが分かった。表現の幅が大きく広がり、映像制作の可能性が拡大した」と話します。
毎月 200 人もの Z 世代にインタビューし、若者の実態に詳しい長田氏は、「YouTube は 若者の情報収集の中心になりつつある」と感じるそうです。たとえばある高校生は、横浜駅から横浜アリーナまでの行き方を、地図アプリではなく YouTube で調べていたそう。
SNS が情報収集の中心だった Z 世代にとっては 1 ワードでの検索が普通。そのため複数ワードによる検索など、検索エンジンのように使える YouTube が逆にとても便利なツールに映っているようです。YouTube はあらゆる事柄を動画で検索、発見できるプラットフォームでもあるのです。
これからのブランドは「カリフォルニアロール」になるべき
そんな YouTube の面白さとは何か。明石氏は「模倣性」をキーワードに挙げます。「YouTube 動画の企画は、みんなが同じことをやっているのが面白い」。
たとえば、外出前の身支度や化粧を動画で公開する「GRWM」(Get Ready With Me)は、さまざまな人が同じテーマで動画をアップしています。
「同じコンテンツの型を別の人が作ることで違いが出て、差分を楽しめる。『これなら自分も参加できるかも』とも思え、実際に参加することもできる。発信された情報を一方的に受け取るのではなく、自分も主役になれるのが YouTube」(明石氏)
模倣から一歩進んだところに、文化が生まれます。嶋氏は「これからのブランドは “ カリフォルニアロール ” になったほうがいい」と話します。
カリフォルニアロールは、アボカドなどが入った巻寿司で、諸説ありますが米国発祥とされています。寿司が世界に広がる際に、日本の寿司では考えられないような具材や海苔の巻き方でしたが、「それも寿司だ」と認めることで、寿司文化が広がり、豊かになりました。
「カリフォルニアロールは日本の寿司を模倣しているが、そこに受け手のクリエイティビティが乗っている。受け手のクリエイティビティを巻き込むことで、誤読や誤配も含めて、カルチャーが世界に広がる」(嶋氏)
密封パックの「ジップロック」の使い方も、典型的な事例の 1 つです。「ジップロックを開発した人は、まさかお風呂でスマートフォンを見るために使われるなんて想像していなかったはず。模倣は、作り手の想像を超えた進化が生まれる可能性を秘めている」(嶋氏)
違いを見つけるマーケティングから、同じを見つけるマーケティングへ
YouTube に広告を出稿する時のポイントはなんでしょうか? 「YouTube は使い方も利用者次第であるため、消費者の新しい動きを、企業側は捉えないといけない」と、羽片氏は話します。
「プラットフォームにマッチしたコミュニケ-ションをしないといけないので、 YouTube をマーケティングに使うなら、“ YouTube の住人 ” になっておくべき。そして広告も、コンテンツに変えていかなければならない。消費者が楽しめるコンテンツをきっちり作った方が効果が高い。動画広告は15秒じゃないと見てもらえないという通説が広告業界にあると思いますが、実は15秒じゃないといけないこともないのが YouTube です」(羽片氏)
一方、嶋氏は YouTube 広告を、「人様のパーティでスピーチするようなもの」とたとえます。「YouTube 全体の世界観を理解した上で自分が今何を発信すれば良いかを考えることが大切」なのです。
動画の時代のマーケティングは、「違いを見つけるマーケティングから、同じを見つけるマーケティング」に変化しており、「昔の広告は、人と違うことをして、市場における優位性を語った方が “ モテた ” が、今は、社会における優位性を語る時代です」とも話します(嶋氏)
たとえばシャンプーの CM なら、「昔は洗浄力が高いことをアピールしていたが、今は『女性の髪型の自由を応援するブランドです』『女性の自由な生き方を応援します』など、“ 社会におけるブランドのあり方 ” をアピールする形に変わってきている」というのです。
川嵜氏も「(特に YouTube では)私たちはこうだと宣言しても、誰も見てくれません。周りからどう見られたいかと考えること、視聴者がブランドを作っていくという観点を持ってものづくりしていかないと、結局キャンペーンしても失敗すると思うんですよね」と話しました。
また、かつての「マーケティング 2.0」の時代は、商品の優位性をめぐって同業者と “ 競争 ” する時代でしたが、今は、同じ志の異業種と手を結ぶ、“ 共創 ” の時代でもあります。
そんな時代に YouTube はジャストフィットすると嶋氏は言います。「YouTube クリエイターのみなさんは、趣味嗜好が近い仲間を集めていて、“ 同じ好き ” を見つけにくる。YouTube という場が持っている、一緒に仲間を作る空気は、共創時代のマーケティングの大きな可能性を秘めています」
さらに、川嵜氏は効果的な YouTube 広告を作るコツとして「ブリーフを作りこみすぎない」ことが大事だと話します。マーケターは、どんな価値をどんなターゲットにどう届ける……など細かく設定しがちですが、「YouTube は視聴者が作る場」であるとした上で、クリエイターの美意識や感情を盛り込むことで再生回数やいいねも増えると指摘します。そのためある程度の方向性を定めながら、クライアントとクリエイターという関係ではなく、パートナーとしての「ゆるいつながり」で作っていくのが大事だと指摘します。
こうした制作プロセスの中で、陥りやすい落とし穴がビジネスの目的を見失うことだと羽片氏は指摘します。「認知を取りたい」という目的から始まっても「いやでも動画を見たら検索もしてもらいたいな」「結局サイトに来訪してほしいんだよね」という風に目的がぶれてしまうこともしばしばだと言います。「YouTube は目的に応じた広告メニューがちゃんとあって、そのビジネスオブジェクティブを満たす手法がかなり細かく、丁寧に整っています。以前は認知を取りたいなら YouTube ということで始めるお客さんが多数でしたが、今はいろんな目的を達成できる。最初の目的を間違えてしまうとうまくいかないため、特に意識してほしいポイントです」
企業は「参加させてもらう」立場、「発明」より「発見」を重視すべき
広告業界では、「他がやっていない新しいことをしましょう」「見たことのないものを作りましょう」といったことが言われがちですが、 YouTube 広告は、そういった “ 発明 ” よりも、すでに YouTube に存在しているものから、その企業にマッチした文脈を探っていく「“ 発見 ” が大事」だと、明石氏も力を込めます。
「YouTube にどういうコミュニティがあり、何が起きているかをよく知り、自社ブランドにマッチしたコミュニティやコミュニケーションを発見することは、新しいことを始めるよりも大事。新しいことを提案してきたスタッフには、『同じようなレファレンスが YouTube に 3 つなければ誰も求めていないということ』だと話している」
YouTube は利用者が作るコミュニティなので、「トップダウンが通用しない」場でもあります。企業が一方的にメッセージを届けるのではなく、ターゲットとするコミュニティの「キーオピニオンリーダー」(KOL)を探して巻き込み、コミュニティの声を拾い上げることが大事だと、明石氏は話します。
そうした YouTube の中でどういうコミュニケーションが行われているのかを知ったうえで、自身のブランドのコミュニケーションの型を発見してほしいと述べました。
「YouTube Works Awards 2022」作品を募集中
今回、議論に参加した面々が審査員を務める「YouTube Works Awards 2022」は、すでに応募を受け付けています。
日本では 2 回目の開催。「Best Innovation」「Best Sales Lift」「Best Target Reach」「Creative Effectiveness」「Force for Good」「Performance for Action」「YouTube Creator Collaboration」の 7 部門で審査し、各部門賞からグランプリを 1 作品決めます。
応募資格は 2021 年 1 月 1 日〜 2021 年 12 月 31 日 に YouTube にて広告出稿を行ったキャンペーン、またはYouTubeクリエイターとコラボレーションしたキャンペーン。募集はすでにスタートしており、締め切りは 2022 年 1 月 31 日。公式サイトから応募フォームに必要事項を記入の上、ご応募ください。
羽片氏は「応募作品が実際にビジネスや売り上げにつながっているか、また、YouTubeらしさがあるかに注目したい。テレビや新聞ではなく、YouTube じゃなければできなかった、という広告を見たい」と話します。
コロナ禍があり、デジタル化が進み、サステナブルな世の中を求める中、本当に重要なことは何だろうとみんなが考えた時代。そんな時代の中で、ブランドがどうあるべきかを考えた作品や、YouTube を使ってクリエイティブジャンプを起こした作品を期待したい。未来の広告のヒントになる作品を評価したい──審査員長の嶋氏はこのように締めくくりました。たくさんの応募をお待ちしています。
5 人による議論は、動画で全編視聴できます。
2021/12/13 20:19 記事を更新。初出時、わかりにくい表現があったため、文章を適宜修正しました。
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