YouTube 広告は進化し続けています。視聴者数は伸び続け、広告フォーマットも年々多様化しており、リーチ以外にも活用の幅が広がっています。
Google が実施した広告主へのアンケート(*1)によると、YouTube 広告に求める効果の 1 位はターゲットリーチですが、次いで、売上貢献や態度変容といった「マーケティング目標への投資対効果」が挙げられています。
2021 年 5 月に受賞作品を発表した「YouTube Works Awards 2021」でも、実にさまざまな事例が見られました。ブランドや商品の認知、イメージ向上といった認知に関するもの、あるいは態度変容や Web サイトへの訪問など顧客の行動につながったもの、さらには売上拡大や購入意向といったより直接的なビジネスゴールにつながったもの。各社が設定したマーケティング目標に応じて活用し、結果を残しています。
グランプリと各部門賞の受賞作品はこちらの記事をご覧ください。
今回は、上の記事で触れていないファイナリスト作品の中から、幅広いマーケティング目的で YouTube 広告を活用した 3 社の事例を取り上げます。
*記事中で紹介している動画は予告なく非公開になることがあります。あらかじめご了承ください。
メディア特性に応じた使い分け——王道のテレビ CM 表現と、らしさに振り切った YouTube 広告:三菱電機「三菱ルームエアコン 霧ヶ峰」
まず紹介するのは、三菱電機株式会社が実施した「三菱ルームエアコン 霧ヶ峰」の 2020 年冬商戦向けのキャンペーンです。ブランディングと購買意向の向上を目的としていました。
従来は MF2 層(35 ~ 49 歳の男女)を一括りに捉えて広告を配信していましたが、ここでは情報を届けたい層を緻密に設計。これまで一括りに捉えていた購買検討層を、購買関心度別に細分化しました。
クリエイティブを制作する際には、テレビ CM と YouTube 広告の役割を考え、伝える内容を大きく変更しました。
テレビ CM ではブランディングを目的として、霧ヶ峰の利便性を強調。詳しい機能説明は省き、王道の表現で「快適で清潔なエアコン」だと訴求しました。
それに対して YouTube 広告では、購買意欲の向上を目的として、タレントを起用した YouTube クリエイター風の動画に仕立てました。YouTube らしい表現に振り切ってインパクトを狙うと同時に、機能を説明する複数のパターンの長尺動画を用意し、わかりやすく表現したのです。
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YouTube 広告は用途に応じてフォーマットを使い分けました。
購買潜在層向けのリーチ獲得には 6 秒のバンパー広告、購買関心層向けに完全視聴数の獲得には「TrueView インストリーム広告」、購買検討層向けにサイトへの誘導を促すためには「Trueview アクション広告」と 3 種類で展開。そのほか各種 SNS での広告配信など多様な広告メニューを実施しました。
PDCA を回しながら、キャンペーン実施期間中もタイムリーに予算配分を見直したこともあり、まずエアコンの購入検討層のスペシャルサイトへの誘導は、目標の 109%、購入潜在層へのリーチは同 101% を達成しました。
メディアごとの特性を理解したプランニングがこうした結果につながったと言えます。
とりわけ YouTube では、メッセージを届けたい相手を細分化し、それぞれに適切な広告メニューとクリエイティブを展開したことで、投資利益率(ROI)を高めることができたのです。
テレビ CM と同時訴求、認知拡大→購入までを YouTube で一気通貫:マウスコンピューター
パソコンメーカーである株式会社マウスコンピューターは、これまでブランド認知を高めるために「マウス」というワードを記憶に残すコミュニケーションを展開してきました。しかし社名は覚えられても、パソコンメーカーとしての認知に伸び悩むという課題を抱えていました。
そこで、最大の強みである「国内でパソコンを生産しているメーカー」という点の訴求を強化。それゆえに「安心、安全」を兼ね備えているブランドであると伝えることで、ブランド認知と検討候補率の向上を目指したキャンペーンを実施しました。
テレビ CM と YouTube で同時に広告を展開することで、両方での重複接触を狙うと同時に、認知から購入までの一貫した役割を YouTube に担わせ、キャンペーンの垂直立ち上げを狙いました。
テレビ CM は 15 秒、30 秒の 2 種類。マウスの店頭で疑問をぶつける顧客役をマツコデラックス氏、それに理路整然と答える店員役をホラン千秋氏が演じる内容です。2 人の掛け合いの中で、特に「国内でパソコンを生産しているメーカー」であること、それゆえに「安心、安全」を兼ね備えていることを強調した内容になっています。
それに対して YouTube 広告では、ブランド認知だけでなく、興味喚起や購入意向の向上までを一気通貫で担いました。バンパー広告や TrueView インストリーム広告では、テレビCM 同様に安心安全の国産ブランドであることを訴求し、テレビ CM との重複接触や補完による認知獲得を狙いました。また TrueView アクション広告では、商品の特徴や「24 時間 365 日フルサポート」といった、各視聴者のニーズに合わせてメッセージを細分化した動画を複数パターン配信。マウスコンピューターや製品に対する理解を深めてもらうことで、購買意欲の向上や検討候補率の向上を目指したのです。
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同時に店頭への導線を作るため、交通広告(OOH)やタクシー広告も活用。店頭でもマツコデラックス氏の原寸大 POP を置くなど、統一された世界観のもと、キャンペーンを展開しました。
当初、パソコンメーカーとしてのブランド認知を引き上げることを KPIに設定していましたが、キャンペーンを通じて 7.9% 上昇。サイト回遊のコンバージョン率(CVR)は前年比 +3.6%、製品購入の顧客獲得単価(CPA)も前年比で 41% 改善するなど、同社の過去の施策の中でも最高の実績を上げることができました。
同社の事例は、クリエイティブ面でもメディア面でも、テレビ CM と YouTube のすみ分け、作り分けを強く意識した模範的な事例です。尺に合わせたメッセージ、メッセージに合わせた尺と、どちらの側面からも手段と目的が明確になっていることが、この結果につながったと言えそうです。
中小企業の TrueView アクション活用——口コミに対応してクリエイティブ修正、注文殺到で月商 14% 拡大:株式会社イケウチ
「池内自動車」のブランドで、関東1都3県で自動車の板金塗装業を営む中小企業の株式会社イケウチは、これまで検索広告とディスプレイ広告を中心に、新規顧客を獲得してきました。しかし近年は競合が増え、CV の母数、効率ともに頭打ちの状態が続いていました。
検索広告やディスプレイ広告は、効率的な獲得に強みがある一方で、効率のみを重視した広告運用を続けていると、新規顧客の開拓が行き詰まり、結果として獲得効率も下がってしまうケースは珍しくありません。
そこで同社では、こうした課題をうまく乗り越えるための新たな集客施策として YouTube 広告を活用することに。これまでリーチできていなかった顕在層への訴求と、サイト流入後に CV しなかった、取りこぼしている顧客層の獲得を目的として、月額 100 万円ほどを目安に、スキップ可能な TrueView アクションを使ったキャンペーンを始めました。
自動車の板金塗装は高額というイメージがありますが、同社は価格の透明性と安さが強み。「安く早く修理したい」という顧客に効率よくメッセージを届けるべく、まず価格面を訴求する動画を制作、展開しました。
価格を全面に押し出した動画は、狙い通りの成果を出すことができていましたが、時間が経つと徐々に成果が下がり、口コミなどで「安かろう悪かろう」という評判が出てきました。そのため、実際の修理工程や修理作業シーンを加え、安すぎることへの不安感を払拭できるクリエイティブを新たに制作し、価格と品質の 2 軸で訴求しました。
動画はこちら
動画は YouTube でも人気の「Before/After系コンテンツ」を広告に落とし込んだ内容。必要としてる人に、必要とされている情報を、人気のフォーマットに乗せて展開しました。
修理風景の撮影と編集は外部の代理店に依頼。これらのクリエイティブを 60 万円程度の運用から開始し、その後、予算を増額。効果を見ながら 150 万円を超える費用を毎月投下し、動画広告からの獲得強化を行いました。
キャンペーンを始めた当初は、KPI を「料金ページの確認」にする予定でしたが、実際に配信してみると、修理見積もり申し込みの CV が獲得できていることがわかったため、CV までを担う施策として運用しました。
料金ページ流入までの単価は、検索広告の 10 分の 1 が目標で、それを維持できていました。見積り申し込みの CPA は、当初は検索広告の 3 倍程度を想定していましたが、開始後、想定より安く獲得できることがわかったため、検索広告と同程度を目標に運用。最も効率の良い時期には、検索広告を上回る成約単価を記録することもあり、好調に推移しました。顧客へのアンケートでも「YouTube を見た」という回答が増加しました。
キャンペーンの実施前後で、月商は約 14% 拡大。現場で修理する人員が不足し、依頼を断らざるを得ないほどの問い合わせを獲得できました。今後はすべての依頼に応えられるよう、人材採用に向けた動画広告の展開や、イケウチのブランドを高める施策についても、YouTube を活用していく方針とのことです。
共通するポイントは 3 つ
紹介した 3 社はいずれもそれぞれ独自の施策でマーケティング目標を達成しましたが、いずれのキャンペーンにも共通するポイントが次の 3 つです。
- 明確な課題に基づいて、メッセージを届ける相手を絞り込み、ターゲットリーチを確保するメディアプランニングを実施したこと
- 視聴者像や目的に合わせて、クリエイティブをカスタマイズしたこと
- マーケティング目的に合った広告フォーマットを利用したこと
ぜひこれらの視点を参考にしてみてください。
Contributor:
Creative Works Creative Director 関 龍太郎 / ビデオプロダクトリード 久野 修