2020 年は新型コロナウイルス感染症の影響で外出自粛になり、それを機に動画配信サービスの利用者が増加し、日本で 18 〜 64 歳の YouTube 月間利用者数は 6,500 万人を超えました(*1)。このことは、動画コンテンツはもちろん、広告動画も多くの利用者に届いているとも言えます。
そんな中、世界各国で開催されている広告賞「YouTube Works Awards」が日本初の開催となりました。グランプリと各部門賞の詳細、受賞作品はこちらの記事をご覧ください。
YouTube Works Awards Japan 2021 はマーケティング目的や活用法ごとに高い成果を獲得した YouTube 広告を表彰するアワードです。審査員長に澤本嘉光氏(株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)と HIKAKIN 氏( YouTube クリエイター)を迎え、各界をリードするクリエイターやマーケターを含む全 19 人が審査員を務めました。この中には YouTube 広告を実際に利用したことのあるマーケターも含まれます。
今回の記事では、こうした実際に利用した経験を持つ 3 人の審査員、
・楽天グループ株式会社 河野奈保氏(常務執行役員 CMO)
・ゼスプリインターナショナルジャパン株式会社 猪股可奈子氏(APAC マーケティング本部長)
・サントリースピリッツ株式会社 鈴木あき子氏(執行役員 RTD・LS 事業部長)
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と澤本審査委員長の声を中心に、今後の YouTube 広告について探っていきます。
マーケター審査員が評価した YouTube 広告
YouTube Works Awards Japan 2021 の審査では「YouTube ならではの効果的な広告の使い方」が度々話題に挙がりました。
サイト訪問や売り上げの増加など、実際の行動につながる広告を表彰する Performance for Action 部門賞を受賞した『この世界は、青春みたいだ。』に対して、同部門の代表審査員を務めた楽天グループ株式会社(楽天)の河野氏はこう話します。
「おそらく YouTube 広告を使ってマーケティング全体の戦略を考えていたと思われるほど、動画の力を信じた作品であると感じました。昔オンラインゲームをやっていた人にとっては共感するポイントが多く、ターゲットの興味を喚起する映像を設計することで口コミが広がり、視聴者に刺さったのだと思います」
楽天グループ株式会社の河野奈保氏(常務執行役員 CMO)
Breakthrough Advertiser 部門の代表審査員を務めたゼスプリインターナショナルジャパン株式会社(ゼスプリ)の猪股氏は、同部門を受賞したカネテツに関して、こんなコメントを寄せました。
「地方から全国に進出していく中で、商品とブランドを 6 秒という短尺で印象的に伝えることに成功しています。YouTube のバンパー広告(視聴完了までスキップできない動画広告)の使い方が秀逸でした」
ゼスプリインターナショナルジャパン株式会社の猪股可奈子氏(APAC マーケティング本部長)
複数のメディアを活用したケースを表彰する Media Orchestration 部門受賞の『トヨタイムズ』については、同部門の代表審査員を務めたサントリースピリッツ株式会社の鈴木氏が以下のように評価しました。
「この作品は YouTube はもちろんのこと、テレビやグラフィック広告、広報戦略といったことをすべて有機的に結びつけています。企業自ら企画し、編集して発信できるメディアを作りたかったのだと想像しています。それは大変な労力で、かつ何年も継続しているという点でも、尊敬すべき作品だと感じます」
サントリースピリッツ株式会社の鈴木あき子氏(執行役員 RTD・LS 事業部長)
こうしてみると、視聴者からの共感を得る企画をつくることや、短尺の広告を効果的に使うこと、そして他媒体を巻き込んだりすることは、YouTube 広告にとって重要な手法の 1 つとも言えそうです。
受賞作品では『股間戦士エムズーン』(株式会社池田模範堂)のように予算が比較的少ない作品やカネテツのように全国展開していない企業が高い評価を獲得しました。これらはマーケティング目的に合わせて YouTube の広告フォーマットを活用し、さらにターゲットインサイトをとらえたクリエイティブで、低予算であっても届けたい人にリーチして効果のある広告を作り上げています。
“YouTube ならでは”の広告設計が必要
YouTube 広告と一口にいっても、120 秒を超える長尺のメッセージが配信可能な TrueView インストリーム広告や、 6 秒のバンパー広告などがあります。長さの自由度が高いため、広告制作側は企業やブランドの置かれた状況や伝えたいメッセージによって、表現方法を選択できます。
しかし、自由度が高いことは「何が最適なのか迷う」という要素にもなります。
「YouTube 広告の短い尺で、商品名を繰り返したり、印象づけることを目的としたインパクト重視のケースもあります。しかし、長い尺でしっかりとストーリーを伝え、ターゲットの共感を生むことが重要な商品もあります。ユーザーの心の中や脳内に占めるブランドやサービスの認知シェアを取る必要があるサービスなどはそれにあたります。扱う商品やサービスによって何を重視するかは、しっかりと設計すべきです」(楽天・河野氏)
“YouTube ならでは”の視点も重要です。「今回の受賞作品の数々を見ていると YouTube をテレビなど他メディアのサブとして考えるのではなく、YouTube 用の演出をしっかりと考えて作られていると感じました」(同氏)
広告主は、YouTube の広告の特性をどう生かすかがポイントになります。例えば 6 秒の尺にするのか、120 秒などの長尺にするのか、またはコメント欄を使って視聴者とどういうコミュニケーションをするのかどうかなど、YouTube ならではの広告をいかに作っていくかが重要です。
YouTube 広告は「ソーシャルとの相性がいい」「コアのターゲットにリーチできた」
YouTube 広告をどのように活用しようかと悩むマーケターは多いと思います。ゼスプリ・猪股氏に成果事例を聞きました。
「YouTube 広告は、特定のターゲットに対し、より広く、そして深い認知を獲得するために使用します。また、ソーシャルとの相性がいいため、設計時に話題を作るためのタッチポイントとして考えることが多いです。
2020 年は、コロナ禍でユーザーと Web メディアの接触率が上がったこともあり、デジタル投資を予定よりも増額しました。結果として、YouTube 広告経由でコアのターゲットにリーチできて、当社のある広告では 60 秒の尺でありながら完全視聴率の KPI に対して 237% も高く達成するに至りました」
YouTube 広告には数値以外の効果もあります。「視聴者からポジティブなコメントがたくさんありました。当社が YouTube 広告を配信した当時は、最初の緊急事態宣言下でした。誰もが不安を抱えていた中、“CM に癒された”“涙が出る”といった声がどんどん積みあがっていくことは、ブランドとして非常にうれしく、自分たちがどう社会に貢献していけるのかを再認識するいい機会になりました。これも YouTube 広告ならではの、視聴者とのインタラクションのおかげだと感じています」(同氏)
未来の YouTube 広告作品は?
最終審査にはファイナリストの 40 作品が残りました。審査会で「今回の 40 作品だけでもこれほど違う使い方があるのか、こんなふうに効果的にビジネスにつなげられるのかと、たくさんの学びがあった」といった感想が出るほど、広告表現の多様化が進んでいます。
さらに今後の YouTube Works Awards Japan では、どのような作品のエントリーが期待されるのでしょうか。
サントリースピリッツ・鈴木氏からは「いい作品というのは一言で表現できないほど難しいものです。どんなターゲットで、どんな目的かによって、いい広告作品というのは異なりますので、そのときそのときに適した作品が作られることを期待しています」と、広告の本質に触れるような意見が出ました。
ゼスプリ・猪股氏は「消費者起点の思考と、多くの“生の反応”が取れることを活用した作品が出てくるといいですね」とコメント。すぐに視聴者の反応がわかる YouTube 広告ならではの作品に期待を寄せます。
楽天・河野氏は「今回の審査会を経て、コロナなど社会情勢を色濃く映し出すことが視聴者からの共感を得るのに不可欠と感じました。今後も今の世の中やユーザーの心境を反映した作品が出てきたらいいなと思います」と、YouTube が社会を映すマスメディアとしての一面を備えつつあることを示唆しました。
スマホからテレビへ――澤本審査委員長「今後の制作手法は画面サイズによって変わる」
マスメディア化が進む YouTube の大きな流れは、スマ―トフォンだけではなくテレビなどの大きな画面で視聴されることも多くなってきていることです。2020 年は、テレビ画面での YouTube 視聴が前年比で 2 倍以上増加(*2)し、2021 年 3 月には、テレビ画面での YouTube 視聴が 2,000 万人を越えています(*3)。
審査委員長の澤本氏が注目したのもテレビでの YouTube の視聴です。特に画面サイズが重要だと言います。
審査員長の滝本嘉光氏(株式会社電通エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)、YouTube Works Awards Japan 2021 のセレモニーでの様子
「視聴方法の変化は非常に重要で、広告の見せ方にも大きく関係してきます。スマホ画面とテレビ画面では大きさが異なることから、最適なアングルや構図も変わります。例えばスマホは画面が小さいので『寄せ』で撮るのが重要でした。出演者の顔や商品が画面に大きく映るようにする方がインパクトもあるし、広告効果も高いと多くの CM プランナーや広告クリエイターは考えてきました。しかしそれをテレビ画面で見ると『しんどい』と思う視聴者も多いはず。画面が広いテレビは『引き』で撮ることも効果的です」
画面の大きさによって視聴者に伝わる印象が異なるのであれば、画面の大きさに応じて映像の構成や表現を練り直す必要が出てきます。
例えば「見ながら踊る」ことが前提のダンス動画はどうでしょうか。スマ―トフォンでは画面が小さくて見ながら踊るのは難しいかもしれません。YouTube をお茶の間のテレビに映して見る人が増えてきていることを考えると、そのダンス動画に配信される広告はテレビの画面サイズに最適なものであることも検討すべきです。
コンテンツ自体の再検討も必要と言えるでしょう。「スマホは基本、1 人で見るものでしたが、テレビに映して家族で視聴することも増えました。そうなると YouTube で流す広告においても、制作するときには、これは子供も含め、家族で一緒に見られる内容だろうか?という配慮も必要です」(澤本氏)
つまり、たとえ同じ広告キャンペーンであっても、視聴者が YouTube 広告を視聴するデバイスも環境もさまざまなので、高い広告効果を獲得するためにはテレビ向けとスマホ向けの広告をそれぞれ用意することも必要になってくるでしょう。
時代に応じて YouTube 広告も変わっていかなければいけない
今後、YouTube の機能はますます充実していきます。テレビでの広告視聴時にスマホに動画広告の内容を転送し、よりその後のアクションにつなげやすくする機能や、スマホ視聴により特化した縦型動画、そして動画からのショッピング機能の強化などがあります。
YouTube 広告も、視聴者やクリエイター、広告主のニーズに合わせて進化していきます。さまざまなデバイスで見られる可能性を踏まえて広告を作ることが重要になってきます。
「当然 YouTube 内での動画表現や広告表現も変わってきますし、変えていかなければいけません。このような変化に置いていかれてしまう人も出てくるかもしれませんが、チャレンジを求める人にはチャンスでもありますね」(澤本氏)
最後に澤本氏はこう話しました。「将来、例えば 2030 年から過去の YouTube を振り返ると『スマホでしか見られていなかったのか』と言われたり『まだこの表現方法しかなかったのか』と驚かれたりするかもしれませんね」