マーケティング目的ごとに大きな成果を獲得した YouTube 広告を表彰する「YouTube Works Awards Japan 2021」。日本初開催となった今回は、2020 年に配信された YouTube 広告作品を対象に 7 部門で表彰し、その中からグランプリを選出しました。
今回グランプリを受賞したのは、ナイキジャパンの『Nike Japan - 動かしつづける。自分を。未来を。The Future Isn't Waiting』でした。なぜこの作品が受賞したのでしょうか。その理由から、今後の動画広告制作のヒントをひもといていきます。
なお、YouTube Works Awards と 7 つの部門賞を受賞したそれぞれの作品は、こちらの記事をご覧ください。
「批判を恐れず、強いメッセージ」「コメント欄の開放で視聴者同士もディスカッション」
『Nike Japan - 動かしつづける。自分を。未来を。The Future Isn't Waiting』は、実在のアスリートの証言をもとに作られています(*1)。
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作品内の主人公は、日本に住んでいて差別やいじめを受けていると思われる 10 代の女性 3 人。それぞれがアイデンティティに葛藤しています。そのような状況でも、彼女らがサッカーというスポーツを通して出会い、笑顔を取り戻し、苦しい状況を自ら変えていくストーリー。
「スポーツが若者に自らが望む変化を生み出し、未来を形成していく力をもたらしてくれる」という力強いメッセージが込められています。
「ナイキは長い間、少数派の声に耳を傾け、支え、ナイキの価値観にかなう大義のために意見を述べてきました。スポーツにはよりよい世界がどのようなものかを示し、人々の力を合わせ、それぞれのコミュニティで行動を促す力があると考えています」(バーバラ・ギネ/ ナイキジャパン シニアマーケティングディレクター)(*1)
本作品は、強いメッセージ性がある一方で、日本人全員が「いじめる側」にいるように見えるという意見もあり、視聴者から賛否両論があがったため、85,000 以上(記事執筆時点)のコメントがつきました。
グランプリ選出においても、審査員の中で大きく意見が分かれましたが、「テレビではなくコメントができる YouTube を選んだ姿勢がいい」というコミュニティプラットフォームとしての YouTube を選んだこと自体を評価するコメントも出ました。
ほかにも「影と光だけで子供たちの表情をしっかり映し出している。文字ではなく映像だけで訴えていて素晴らしい」という映像や伝え方に関する評価、また「このスピード感でやるんだ、というナイキの気持ちがないとできない広告」「しかもお金をかけて、映像としてもハイクオリティなものに仕上げて社会にアウトプットできる体制がすごい」という組織としての評価もありました。
最終的には、YouTube というプラットフォームの特性を活かし、批判を恐れずコメント欄を開放した企業の姿勢や、「好き」「嫌い」といった個人の感情を超え「世論とのディスカッション」を生んだ点を高く評価。審査会でも「決して 100 点満点ではないが、世の中を大きく巻き込んだという点でもインパクトが大きい」というコメントもありました。
また、日本では大きな話題となりにくい「差別」という問題について、ナイキのようなビッグブランドが YouTube で広告として配信したことにも注目。「マイノリティに寄り添う姿勢、こういったテーマを扱える企業、そういう視座をもっている企業があまりないと思った」「差別を受けている人たちに勇気を与えたのではないか。弱い立場の人たちをエンパワーメントする作品」という意見も審査員から挙がりました。
グランプリ作品の尺は 120 秒、広告の「最適秒数」とは?
グランプリに輝いたこの作品は「120 秒」という長さでした。ある審査員は、この「長さ」が YouTube 広告を制作する上で押さえるべきポイントだと言います。
テレビ CM は一般的に、15 秒、30 秒、60 秒、90 秒、120 秒、といった尺(動画の長さ)の枠が決められており、広告制作側はその制約を受けます。
仮に「この商品の魅力を伝えるストーリーは 120 秒必要だ」と判断しても、テレビ CM の場合、それをそのまま配信できる枠は極めて少なく、結果としてリーチ不足になる可能性が高いと言えます。リーチを確保するためには、 60 秒や 30 秒などの枠に収まるようにカットせざるを得なくなるのです。結果として伝えたいメッセージを削ることとなり、人の心を動かすことが難しくなってしまう場合もあります。
YouTube では、伝えたい内容によってベストな秒数を選択でき、それを適切に届けるための広告フォーマットもそろっています。見せ方によってはその「長さ」がメリットとなって視聴者に伝わり、受け入れられ、評価される作品を作ることができるのです。
このように、伝えたい内容に基づいた「最適秒数」でプランニングできるのが YouTube 広告の大きな魅力。結果として企業のブランディングにつながることも期待できるため、広告の可能性が広がります。
今回の YouTube Works Awards Japan 2021 でも、ファイナリストにノミネートされた広告作品の中には、「長さ」の制約を受けない、エモーショナルなものが多くありました。グランプリを受賞したナイキの広告も、120 秒という尺だからこそ伝えられたメッセージだったと言えます。
ほかにも、撮影してみないと最適秒数がわからないという企画もあり得ます。6 秒のバンパー広告のように企画段階から長さとシナリオを作り込むものもあれば、そうではなくアクシデント的な要素を期待する「実験的な広告」も YouTube 広告だからできること。
実験的な広告はとてもシンプルな企画だとしても、「生のやり取り」「リアリティ」といった要素を含むことで、おもしろい広告になる可能性を秘めています。今回のグランプリ作品においても、賛否両論のコメントが出てきて社会に大きなインパクトを与えたことは、受賞の重要なポイントでした。
YouTube 広告は知恵次第
YouTube は「新しいプラットフォーム」と言われてきましたが、2020 年に 18 〜 64 歳の YouTube 月間利用者数が 6,500 万人を超えたこと(*2)、そして、以前行った調査で 18 〜 64 歳という幅広い年齢層の人が「なくなったら最も寂しいプラットフォーム」(*3)と答えていることからも、YouTube が人々の日常に欠かせないプラットフォームであると言えるでしょう。
広告のプランニングにおいても、これまではテレビ CM の予算を決めてから残りをデジタル広告に配分し、そのうちの何割かを YouTube 広告に割くといったように、YouTube 広告はテレビの補完的な位置づけとして考えられることもありました。しかし今では、利用者がマスメディアの規模に成長してきたことから、テレビ CM と同列に捉えられつつあります。
そして、しっかりと視聴者を惹き付けるアイデアとクリエイティビティがあれば、「スキップされない YouTube 広告」を作ることができ、広告としての成果にもつながるのです。
ちなみに「大きな予算がないといい広告は作れない」という意見があるかもしれませんが、予算の大小と結果の大小は直結しません。例えば、YouTube Works Awards Japan 2021 でも、投資した金額に対してより大きな利益を得られた広告を表彰する「Small Budget, Big Results 部門」や、予算規模に関わらず初めて本格的に広告出稿を始めて大きな成果を獲得した企業を表彰する「Breakthrough Advertiser 部門」があり、それぞれ事前に設定した目標を大きく上回りました。
制作予算だけでなく制作体制の工夫であったり、動画単体やチャンネル全体のテーマ設定、そしてコメント欄の開放で視聴者とコミュニケーションを取ったりと、「知恵の使い方」でさまざまな挑戦ができる点が YouTube 広告の強みだと言えるでしょう。