YouTube 広告をテレビの補完として検討しているマーケターは多いかもしれません。
しかし実際には、リーチ獲得や認知獲得などのブランディング目的だけではなく、マーケティングの目的に応じてさまざまな使い方があります。実際に、たくさんの広告主が高い成果を獲得しています。
それでは、「高い成果を獲得した広告」とは一体どのようなものでしょうか。YouTube Works Awards は審査員たちがマーケティング目的や YouTube の活用法ごとに高い成果を獲得した YouTube 広告を表彰するアワードです。審査は、広告主や広告クリエイターを始め、映像監督、テレビプロデューサー、俳優、そして YouTube クリエイターが担当します。
YouTube Works Awards はイギリスで始まり、その後世界各国で開催。日本では 2021 年に初めての開催となりました。
2020 年 1 月から 12 月の間に YouTube で国内向けに配信された広告からエントリーを募集し、審査を重ねて各部門賞を選出します。各部門賞の中から最も評価を集めた広告がグランプリに輝きます。
YouTube Works Awards Japan 2021 の受賞は以下の 7 つの作品や企業となりました。
- Nike Japan - 動かしつづける。自分を。未来を。The Future Isn't Waiting(株式会社ナイキジャパン):グランプリと Force for Good 部門(PDF)
- 2020年、夏、部活。(大塚製薬株式会社):Creative Effectiveness 部門(PDF)
- トヨタイムズ(トヨタ自動車株式会社):Media Orchestration 部門(PDF)
- 「この世界は、青春みたいだ。」(株式会社ゲームオン):Performance for Action 部門(PDF)
- 股間戦士エムズーン「アニメ動画×声優・Vtuber コラボによるブランド価値の最大化」(株式会社池田模範堂):Small Budget, Big Results 部門(PDF)
- 森の中のモビリティテーマパーク ツインリンクもてぎ(株式会社モビリティランド):YouTube Creator/Partner Collaboration 部門(PDF)
- カネテツデリカフーズ株式会社:Breakthrough Advertiser 部門(PDF)
今回の記事では部門賞ごとの作品紹介、特に事前のマーケティング課題の設定や達成した目標や成果、それを審査員がどのように評価したのかに着目して紹介します。
批判を恐れず、世間に対してメッセージを投げかけた——ナイキがグランプリ受賞
各部門賞の中から「最もインパクトが大きい」「イノベーティブかつクリエイティビティに富んだ表現であること」 「YouTube 広告を最大限に活用している」と評価されたものがグランプリに選ばれます。
YouTube Works Awards Japan 2021 グランプリは、株式会社ナイキジャパンの『Nike Japan - 動かしつづける。自分を。未来を。The Future Isn't Waiting』に決定しました。制作を担当したのは Wieden+Kennedy Tokyo です。
本作品は、10 代の女性 3 人が日本で差別やいじめを受け生きづらさを感じている様子や、サッカーでつながり笑顔を取り戻していく様子、そして自ら道を切り開いていく様子を描いています。
ナイキは、日本の若者たちに、スポーツで得た自信を通して彼らは世界を変えることができるということを伝えるため、「スポーツが世界を変えるんじゃない、自分の自信が世界を変える」というインサイトにたどり着きました。
YouTube の幅広い年齢層へのリーチ力により、動画広告の発表直後から SNS を中心に議論が巻き起こりました。国際的にも注目を集め、再生数も 1,100 万回を超えています。
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今回のグランプリの決定については、審査会ではさまざまな議論がありました。
YouTube 広告の未来を指し示す作品を選出するにあたり、活発な議論が交わされ、最終投票では意見が分かれました。
結果としては、他の候補作品とかなりの接戦となりましたが、批判を恐れず社会問題に取り組む姿勢、YouTube ならではの特徴を捉えた長尺で完成度の高いクリエイティブ、コメント欄を開放して社会的に議論を起こしたこと、そして、事前に設定した広告効果を大きく達成していることを総合的に踏まえた結果、 本作品がグランプリに選出されました。
なお、本作品は Force for Good 部門も受賞しました。
Force for Good 部門は、生活者との対話を深めたり、コアファンにブランドメッセージを届けたりするなど、収益やビジネスインパクトを超えて、YouTube において自社のブランドパーパスを表現し、社会的意義のあるコミュニケーションを展開した広告作品を表彰する部門です。
Force for Good 部門の受賞理由として、審査員からは「メッセージの強さだけでなく、クラフトもすばらしい」と、映像面の評価もありました。
こういう 1 年だった、と振り返れる新しさがある——大塚製薬によるドキュメンタリー広告:Creative Effectiveness 部門
Creative Effectiveness 部門では、クリエイティビティとビジネスの成果の両立において最も成功した広告作品を表彰します。
受賞作品は、大塚製薬株式会社のバランス栄養食「カロリーメイト」の『2020年、夏、部活。』に決定しました。制作は株式会社博報堂と株式会社AOI Pro. です。
カロリーメイトは、2018 年より部活に打ち込む学生を応援するコミュニケーションを展開しています。コミュニケーションを届ける相手は、引退する場所や夢の舞台を失った高校生たち。
2020 年は新型コロナウイルスの影響により、学生が目指す様々な大会の中止、休校など学生の日常に大きな影響があったことを受け、“2020 年の夏” にこそ作るべき広告を制作しようと考えました。
必死に前を向こうとする彼らに、広告や企業が届けられることは何かを考え、現役部活生 60 人にリモートでインタビューを実施。学生たちを傷つけることなく、寄り添う眼差しをもつ広告を目指し、できあがったのが本作品です。
また、YouTube でスポーツ動画やスーパープレイ集などの視聴傾向のある人たちに向けて配信することで、「現役部活生」になるべく近いセグメントをつくりだしました。その結果、効率的なリーチを獲得し、227 万回再生されるといった結果に。
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審査員は「メッセージを届けたい層に対するブランド好意形成や共感の“深さ”に重きをおいた点が良い」と意見を述べたり、「こういう 1 年だった、と振り返れる新しさがある」と YouTube ならではのアーカイブ性を活かした作品だと評価。ほかにも「今年(2020 年)しかできない包容力の高い表現が、横の広がりだけでなく、縦の深さも実現させた」など、作品のもつ新しさと深さを評価するコメントが寄せられました。
クロスメディアで車好き以外にもメッセージを届けた——トヨタの継続した情報発信『トヨタイムズ』:Media Orchestration 部門
Media Orchestration 部門は、YouTube のみならずさまざまなメディアを戦略的に利用することで、視聴者にメッセージを届け、ビジネスでも結果を残した広告作品を表彰します。
受賞作品は、トヨタ自動車株式会社の『トヨタイムズ』に決まりました。制作を担当したのはトヨタ・コニック・プロ株式会社と株式会社電通です。
俳優の香川照之氏が編集長を務めるという設定のもと、YouTube だけでなくテレビやブログなどのクロスメディアでトヨタのありのままの姿をシリーズで発信。
「広告だけではモノが売れない時代に、これまでの“売る広告”中心から“応援団マーケティング”への変革により、車種広告との相乗効果を狙った」と言います。
テレビ CM や新聞広告などのマスメディアでビジョンを掲げ、企画の軸であるサイトへの流入を促しました。そしてサイトでの情報発信をソーシャルメディアでの拡散を行うという設計。それにより社内外広報、広告、SNS の境目をなくしたコミュニケーションの構築を目指し、広告と広報の融合に挑戦しました。
YouTube 広告では「チャンネル登録者の増加」「記事誘導」「再生回数増加(リーチ拡大)」を目標に、目的に沿った広告を実施。施策後の調査回答者の来店意向は 73%、販売シェアは 43.9% から 46.0%に伸び、その後また伸びて 49.4% となりました(*1)。
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受賞の決め手は、各メディア同士のシームレスな連携と、高い志をもって自社で継続した情報発信を続けている点です。同社の豊田章男社長が自ら本音で発信することも、興味の喚起と信頼の獲得に効果的でした。
審査員からは「企業の志や覚悟が伝わった」「オープンな感じが信頼性を上げた」「車好きだけでなく、より多くの人を対象にしたプラットフォームを作り上げた」といった声もありました。
ゲームスタート時のユーザー数は歴代最高を記録——視聴者を動かしたオンライン RPG「LOST ARK」:Performance for Action 部門
Performance for Action 部門は、YouTube 広告の強みの 1 つであるダイレクトにコンバージョンにどれだけ寄与したかが可視化できる点を利用してオーディエンスの意思決定を後押しし、行動を促すことに成功した広告作品を表彰します。
受賞作品は株式会社ゲームオンのオンライン RPG「LOST ARK」の『この世界は、青春みたいだ。』編。さまざまな人たちが「LOST ARK」でつながり、夢中になっていくストーリーです。博報堂、SIX INC. と AOI Pro. の 3 社が制作しました。
長尺 130 秒版では「学校の友達に誘われてとりあえずで始めたけど、新年をオンラインゲーム上で過ごすくらい熱中している人」「最初は全く興味がなかったけど、やってみたら感動で泣くほどはまった人」などが登場。この他にも視聴者の共感を得られる人物が多数描かれています。
TrueView アクション広告を活用し、「PC オンラインゲーム関心者」に的確にメッセージを配信。視聴数を集中的に伸ばしてサイト訪問につなげました。
また、ポジティブな口コミやそのまとめ記事などもあがったことで、広告経由以外に自然流入での再生も増加。その結果、本作品では、公式サイトのページビュー数もゲームスタートユーザー数も歴代最高となりました。
公式サイトのページビュー数は、同社の過去最もヒットしたタイトルと比較して 123% を記録。ゲームスタートユーザー数は同 129% を達成しました。
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低予算でも幅広い層にリーチした——池田模範堂のアニメシリーズ:Small Budget, Big Results 部門
Small Budget, Big Results 部門は、戦略的かつ革新的なアイデアにより、YouTube 広告に投資した金額に対して、より大きな成果を得られた広告作品を表彰します。
受賞作品は、株式会社池田模範堂のデリケートエリア治療薬「デリケアエムズ(M's)」の『股間戦士エムズーン』に決定。コミカルな内容や有名声優の起用などで話題を呼んだ Web 限定のアニメシリーズです。電通と株式会社フィックスが制作しています。
男性のデリケートゾーンのかゆみを治す薬品である「デリケアエムズ」という商品は、その商品特性から「人に言えない」「恥ずかしい」などのネガティブなイメージがつきまとうことが課題でした。
目的は、20 代男性に対して同商品の「陰湿なイメージの払拭」「ブランドイメージの向上」「売り上げへの貢献」です。結果、YouTube Live での生放送時に Amazon のデリケアエムズが売り切れました。売上も前年比で 103.7% となりました。
それぞれの KPI も大幅達成。例えば Vtuber とのコラボ生放送では同時視聴 3 万以上となり、対目標値 2.5 倍の結果に。
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YouTube のメディア特性を効果的に活用し、40 代のイメージが強い商品を若年層にまでリーチさせた点や、インパクトの強いクラフト力、そして連続視聴させるコンテンツ力でコアファンを形成した点などが受賞理由でした。
「制作側が果敢にチャレンジして熱量を注いだ結果、ブランド・リンケージを高めた」といったコメントが上がるなど、比較的低予算の YouTube 広告ながら幅広い層の態度変容を導いた点も高評価のポイントです。
ツインリンクもてぎのステージを 1 つ引き上げた——コラボの必然性が高いモビリティランドの広告:YouTube Creator / Partner Collaboration 部門
YouTube Creator / Partner Collaboration では、YouTube で動画を投稿するクリエイター・パートナーとコラボレーションを実施し、高い成果を獲得したブランドの広告作品を表彰します。
受賞作品は株式会社モビリティランドの『森の中のモビリティテーマパーク ツインリンクもてぎ』です。制作は UUUM株式会社。
モビリティランドが運営する「ツインリンクもてぎ」は家族みんなで遊べるテーマパークですが、春夏のテレビ CM だけでは首都圏の親子層へのアプローチは充分ではなく、集客につながっていなかったことが課題でした。
本作品は認知拡大を目標に制作し、親子で視聴する人の多いフィッシャーズチャンネル(登録者数 600 万人以上)のコミュニティへの浸透がポイントです。
施設の広大さや自然の美しさ、面白さを魅せること、そしてフィッシャーズのキラーコンテンツ「鬼ごっこ」を掛け合わせ、施設の魅力を盛り込み、クリエイターを通して施設を認知してもらうことに成功しました。
タイアップ動画は公開 1 カ月で再生回数 400 万回以上を突破。クリエイティブ内容についても再生数についても、認知獲得に高い評価得る結果となりました。
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審査員は「YouTube クリエイターの創造力が存分に引き出された作品で、さらにクリエイターがやりたいことだけをやるのではなく、企業がやりたいこともしっかりとできている」と高く評価。企画のオリジナリティとコラボならではのスケール感、さらに見応えとメッセージ性を両立させた点を受賞の理由に挙げました。
別の審査員も「届けたい視聴者層との親和性やコラボレーションの必然性が高く、ツインリンクもてぎのステージを 1 つ引き上げた」と評価しています。
バンパー広告の新しい使い方—— 6 秒で認知を拡大したカネテツデリカフーズ:Breakthrough Advertiser 部門
Breakthrough Advertiser 部門では、2020 年に本格的に YouTube 広告を利用して、飛躍的な成功を収めた企業および団体を表彰します。
受賞企業は、カネテツデリカフーズ株式会社に決定。YouTube 広告の作品名は『【カネテツ】竹輪には、右も左もありません!』で、制作は電通関西支社と株式会社高映企画です。
6 秒という短尺で、視聴完了までスキップできないバンパー広告を活用し、商品とブランドを印象的に伝えることに成功したシリーズ広告です。
神戸が本社の練り物メーカーであるカネテツデリカフーズは、関西圏では高い認知度を持っているものの、東京を含む関東圏で認知度不足による売り上げの頭打ちが悩みの種でした。
今回東京圏に絞ったバンパー広告を、約 80 万円という予算で実施することに。これによって東京圏での「認知率向上」「それに伴うビジネスチャンス拡大」が可能かを試してみることになりました。
6 秒のバンパー広告内で YouTube 視聴者に「カネテツ」だけを認知してもらう、という絞り込みを行いました。「興味喚起+カネテツ」をいかに飽きさせず継続させるかがカギでした。
結果としては大きな効果がありました。PR 期間中でサイト来訪者が約 10 倍増加し、東京圏での商談が成立しました。バンパー広告を見た人がツイッターにアップし、認知ループの拡大が起こったのです。
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審査会で出た受賞の決め手は、カネテツらしいユニークさを押さえつつ確実に認知を拡大した点や、シンプルながらもチープにならないバランスで、6 秒という短い時間を活用した点でした。
バンパー広告は主にコンバージョン目的の施策に使われることが多いのですが、今回はバンパー広告により「認知確立」というリーチ獲得に成功したことから、「バンパーの新しい使い方だった」といったコメントも寄せられました。
YouTube Advertisers チャンネルで審査員の解説とファイナリストの作品も視聴可能
日本初開催となった YouTube Works Awards Japan 2021 では、300 以上の作品がエントリーされ、中には最終選考まで残ったものの、惜しくも受賞を逃した作品も存在します。
Advertising Week Asia で発表された YouTube Works Awards セレモニーでは、審査員長の澤本氏と HIKAKIN 氏による部門賞およびファイナリスト作品の解説も紹介されています。
YouTube Advertisers チャンネルでは、セレモニーの動画、そして一部のファイナリスト作品も視聴できますので、ぜひご覧ください。みなさまのマーケティング課題の解決、そして効果的な動画広告制作のヒントになることを願っています。
受賞作品の解説動画やファイナリスト作品はこちら