YouTube のトレンドや Google AI は変化を続けており、それを活かしたマーケティングも日々進化しています。こうしたトレンドを戦略的に活用することが、マーケティングの可能性を広げ、広告効果の向上やビジネスの成長につながります。
今回は、テクノロジーや市場の変化を捉えながら、YouTube 広告の活用で、マーケティングによるビジネス成長を実現した 3 つの事例をご紹介します。
クリエイティブの制作フローを見直すことで、真の生活者中心のマーケティングコミュニケーションを開発した花王と、ブランディング投資によるビジネス成長の可視化に挑んだリクルート、小売・流通の実購買データの YouTube 広告配信活用にチャレンジした日本コカ·コーラです。
花王は広告プランニングを上流からメディアニュートラルに刷新、戦略的なメディア投資で売上増
花王株式会社では、取り扱う消費財という商品の特性上、マス向けのテレビ CM が長くマーケティングの中心的な地位を占めてきました。一方デジタル広告の存在感が年々増す中では、テレビとデジタルを統合しながら、さらにデジタルでの成果を向上させるマーケティングへの転換が必要でした。
花王に限らず、テレビ CM を中心としたマーケティングの場合、広告会社へのオリエンテーションに始まり、キャンペーンの戦略設計、クリエイティブの企画といった一連のプランニングは、多くの場合テレビ CM を前提に進んでいきます。その結果、デジタル広告については「とりあえずデジタル広告でも同じ CM 素材を配信しよう」などの場当たり的な活用にとどまる場合があります。
デジタル広告配信を最適化することで一定の成果は出るかもしれません。しかしたとえば YouTube 広告を例にとると、広告のフォーマットや視聴環境は多様化が進んでいます。YouTube ショートの盛り上がりやコネクテッドテレビ視聴の増加など、それぞれの視聴環境に合わせた戦略やクリエイティブがますます重要になっているのです。
デジタル広告の効果を最大化するための重要な視点が抜け落ちた状態でプランニングしてしまうと、結果的にマーケティングがビジネス成果につながらないという結果に陥ってしまいます。
そこで花王は、プランニングフロー自体を、テレビ CM とデジタル広告を統合した「メディアニュートラル」な形へと見直すことで、売り上げや態度変容へのインパクトを高めるためのトライアルを行いました
キャンペーンの成功を目指し、Google とともに整理したプランニングフローの「今まで」と「これから」が下記の図です。
大きく改善を意図した 1 つ目のポイントは、コアアイデアを軸にした統合キャンペーン設計フローです。
従来はテレビ CM のみ中心に設計していましたが、「誰のどのような態度変容を引き起こしたいのか」「そのためにどのような広告フォーマットが効果的か」といった点を、デジタル広告も含めて検討します。これまでデジタル広告とテレビ CM のそれぞれで検討していた内容を統合して定義することで、プロジェクトに関わる全員が、デジタル広告とテレビ CM、さらにいえば YouTube 広告の各フォーマットの役割や位置付けに関して共通認識を持てるようになります。
ポイントの 2 つ目は、クリエイティブ企画開発フローです。
従来、デジタル広告のフォーマット選定や、縦型か横型といった議論は、テレビ CM の企画がおおかた終わってから行われることが一般的でした。しかし、クリエイティブの企画開発の最初のタイミングから、並行してデジタル広告のメディアプランニングを設計することで、撮影前の段階でデジタル広告と相性の良いクリエイティブの企画が可能です。また広告フォーマットのレベルでも役割を細かく設計し、どういう形式の動画素材をいくつ制作する必要があるかを明確にすることで、実際の撮影作業の効率化も目指すことができるのです。
以上のポイントに沿った新たなプランニングフローで掃除用品「クイックルワイパー ドライシート」をトライアル対象に、YouTube 広告施策を展開しました。
具体的には広告フォーマットレベルでも役割を細かく設計。たとえば今回の事例では、YouTube 広告のうち、15 秒のスキップ可能なインストリーム広告では商品理解、6 秒のバンパー広告では購入意向の喚起などと定義しました。
またプランニング時点で定義したオーディエンス層に対して、最適なクリエイティブやフォーマットで YouTube 広告を配信した結果、動画視聴完了率は、Google の持つ消費財平均を約 13% 上回りました。さらにキャンペーン期間中、同商品の売り上げや購入者数も大きく成長したのです。
花王では、今回設計したプランニングフローをベースに、この再現性を高めていくために、他ブランドでも横断して展開していく予定です。また、プランニングフローに生成 AI の活用も進めており、さらなるフローの効率化と効果の最大化に取り組んでいきます。
ブランドマーケティングで指名検索を伸ばし、事業成長につなげたリクルート
リクルートエージェントは、株式会社リクルートが運営する人材サービスです。
同サービスが従来課題としていたのが、ブランドマーケティングによる投資対効果(ROI)の可視化です。売り上げに対してどのような影響を与えているのか、根拠を持って説明できないために投資に踏み切れずにいました。
そのため 2020 年ごろまでは、パフォーマンス寄りのマーケティングが中心でした。一部展開していたブランドマーケティングでも、リーチや認知度を KPI に置いており、売り上げへのインパクトを測るには距離がありました。
そこで、より売り上げに直結する KPI を設定するため、全社のサービスを横断的にデータ分析すると、リクルートエージェントでは「指名検索経由の求職者は、他のチャネル経由よりも求人の成約率が数倍高い」ことが明らかになったのです。指名検索で能動的にサービスにたどり着いたユーザーなので、そのぶん求職活動への意欲が高いことが影響していると推測できます。
そこで KPI を指名検索に変更し、テレビ CM や YouTube を含めてまずはブランドマーケティングのトライアルを小さく始めました。
ブランドマーケティングの効果測定には、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)を活用しました。Google と共に、メディア別に指名検索への効果を確認したところ、これまで明確な根拠がなかったブランドマーケティングの投資効果が可視化され、自信を持って YouTube 広告などへの投資を拡大できるようになりました。
こうした拡大を背景に 2023 年には、別組織だったブランディングとパフォーマンスを担うチームを統合。バラバラであった予算も 1 つにするなど、マーケティング組織全体で、さらなる事業の加速を模索しています。
さらに近年、ブランドマーケティングの一環として積極的に投資をしているのが、コネクテッドテレビ向けの YouTube 広告(YouTube CTV 広告)です。
テレビ画面での YouTube 視聴が増えているというトレンドに着目し、地上波テレビと、テレビでの YouTube 視聴を「同じテレビデバイス」での視聴と位置付けて予算配分を見直し。その中で YouTube CTV 広告では、テレビ CM のように平日夜と休日の「逆 L 字型」に時間帯を絞って配信を始めました。
リクルートエージェント内で「テレビ CM 的 YouTube 活用」と呼ばれているこの取り組みは、顧客層である社会人が在宅している時間に絞った配信が可能で、広告を見てそのまま手元のスマホで検索するという行動を喚起する狙いがあります。
このようにブランドマーケティングへの投資を増やした結果、想定通りの高い成約率を維持しながら、指名検索数は 2 倍に。また指名検索経由の新規会員登録が増加するなど、売り上げへの大きなインパクトを確認できました。また、「テレビ CM 的 YouTube 活用」を実施した期間は、指名検索数が前年同月比で 24.6% 増加しました。
今後もリクルートでは、YouTube 広告の新しい手法を取り入れながら、中長期にわたり「Always on」でブランドを訴求することで、サービスの価値を伝えていく方針です。
オフライン商材でも売上効果を検証、PDCA を回す日本コカ·コーラ
最後に取り上げるのが、日本コカ·コーラ株式会社の事例です。
同社のようなメーカーの場合、最終的な商品購入の大部分は小売店の実店舗で発生します。ただ、オンラインでのマーケティング活動がオフラインでの購買にどう貢献しているかを検証するのは難しく、売り上げに対する効果に基づいた広告投資の意思決定手法の確立に課題を感じていました。
そこで出発点としたのが、Google が提唱しているマーケティング効果測定の考え方です。これは、ある 1 つの完璧な計測手法はないという前提に立ち、複数の手法をそれぞれの特徴を理解しながら組み合わせて意思決定に活用するという考え方です。
この原則に則り、緑茶飲料の「綾鷹」のマーケティングにおいて、YouTube 広告が店頭での売り上げにどの程度貢献しているのかを検証しました。
YouTube 広告配信の効果を計測するためにまず活用したのは、調査会社のインテージが保有する小売店の販売データ「SRI+」です。多くのメーカーが業界標準として使っているこのデータを売り上げデータとして使い、「CausalImpact(コーザルインパクト)」という統計的な手法で、店頭売り上げの増分を検証しました。CausalImpact は「広告を打たなかった場合」のシミュレーション値と「実際に広告を打った結果」を、統計的に確からしい方法で比較ができる手法の 1 つです。
YouTube を出稿するテストグループと、出稿しないコントロールグループを、地域に分けて設定。「広告を出稿しなかった場合」のシミュレーション値を、実際の出稿した結果と比較しました。
さらに、綾鷹を取り扱うセブン-イレブンのコンビニ店舗における実際の購買データも活用しました。セブン-イレブン店舗で対象商品を買ってくれる可能性がより高いセグメントを YouTube でターゲティングすることで、店頭売上を引き上げられるか検証しました。こちらの取り組みでは、Google の「Ads Data Hub」を活用。配信後に、購買に効いたアフィニティやフリークエンシーの詳細分析を行うことで、今後のマーケティングにつながる示唆を得ることを期待しました。
結果として、インテージ SRI+ を使ったセールスリフト検証では、YouTube の追加出稿によって、テストグループの該当エリアで店頭売上が 2 桁成長したことを確認しました。
セブン-イレブンの購買データを使った配信でも、一定の売り上げリフトを確認。ADH 分析で、より購買率が高い顧客に対して狙い通り情報を届けられていることや、広告のフリークエンシーを重ねることでより効果が高まる兆しも見え、今後のプランニングに向けたデータを得られました。
今回の取り組みでは、YouTube 広告による売り上げへの直接的な貢献を確認できましたが、もちろん検証においては常に望ましい効果が表れるとは限りません。日本コカ・コーラでも、結果をフェアに受け止めることを大切にしながら、売り上げを拡大するための試行錯誤を繰り返してきました。結果が出たことだけが大事なのではなく、多角的な効果測定にチャレンジすること自体が、PDCA を回して投資対効果を高める、さらなる投資余地を測る上で重要な要素なのです。
今回取り上げた 3 社はいずれも、マーケティングによるビジネス成長を実現しようと模索していますが、そのためには、従来の手法にとらわれることなく、生活者や市場のトレンド、最新のテクノロジーの積極的な活用が欠かせません。上の事例を参考にしながら、まずは自社の課題を起点に、取り組みをスタートしてみてください。
Contributor:緑門 桃子(YouTube 広告 マーケティングマネージャー)