現在 YouTube は、世代を問わず親しまれています。日本における 18 歳以上の YouTube ユーザー数は、2024 年 5 月時点で 7,370 万人超。45 歳から 64 歳に限っても、同世代人口の 79% に当たる 2,740 万人が利用しています(*1)。
幅広い人々を引き付けている YouTube は、企業やマーケターにとっても、生活者とコミュニケーションを取るための重要な場所になっています。あらゆる世代に対して広くメッセージを届けられると同時に、趣味嗜好に応じて生活者 1 人ひとりに合わせたアプローチが可能な YouTube は、動画を見た後の「行動」まで促せるメディアへと成長を続けているのです。
今回は、2024 年 10 月に開催したマーケターのための YouTube の祭典「Brandcast」での発表内容から、YouTube のユーザー動向や最新トレンドを紹介します。
YouTube は興味を深掘りして、行動が起きる場へ
YouTube に幅広いユーザーが集まる理由は、さまざまな分野のクリエイターが生み出すコンテンツの豊かさです。2024 年も、YouTube のコンテンツから数多くのトレンドが生まれました。
Creepy Nuts の楽曲『Bling-Bang-Bang-Born』の公式ミュージックビデオは 2 億回以上の再生回数(*2)を記録し、「歌ってみた」「踊ってみた」動画も流行しました。
また、軽快な音楽に乗せて猫が踊る画像で、日常生活のエピソードを表現する「猫ミーム」も 2024 年を代表するトレンドとなりました。タイトルに猫ミームを含む動画の投稿は 2024 年上半期で 6 万件以上、累計 16 億回以上も再生されました(*3)。
パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会の開催前後には、各選手が自身のチャンネルなどを通じて、普段は見られない舞台裏や素顔を発信。スポーツが持つ感動や競技の面白さなどが共有される場となりました。
さらに地下鉄の通路のような空間から脱出を試みるゲーム『8番出口』も話題を集めました。さまざまなクリエイターによる実況動画が購入を後押しし、ニンテンドースイッチのダウンロードランキングでも上位にランクインしています(*4)。
このように社会現象になるような大きなトレンドから、自分だけの推し活まで、YouTube では日々さまざまな「好き」が生まれています。
「好き」を生み出すクリエイターも増え続けており、今では登録者数 10 万人以上のチャンネル数は 1 1,000 チャンネル以上にもなります(*5)。ジャンルも多岐にわたり、視聴するフォーマットやデバイスも広がりを見せています。
そして人々は、動画を通じて好きな物事を見つけ関心を深めていくだけではありません。その結果として、動画の視聴を超えて「やりたい」「買いたい」といった行動も生まれています。
今回は特に、近年盛り上がっている「YouTube ショート」「コネクテッドテレビ」の動向とともに、YouTube からどのような行動が生まれているかを見てみましょう。
「ショート動画といえば YouTube」に、利用率は 1 位
ユーザーとコンテンツとの出会いや行動を支えている 1 つが、フォーマットの広がりです。
最大 60 秒の縦型動画を共有できる「YouTube ショート」は 2021 年に日本でもサービスを開始。国内の 1 日あたりの視聴者数は 2023 年比で 20% 以上伸びています(*6)。
2023 年 11 月に調査会社 Material が実施した調査によると、ショート動画を扱う動画配信サービスの中で、13 歳 〜 54 歳の 1 カ月あたりの利用率は YouTube ショート が最も高く(62%)、他のサービスを上回り 1 位です。13 歳から 24 歳の若年層に限定しても同じく利用率は 1 位で、74% が YouTube ショートを利用しています(*7)。
また 69% の人が、YouTube ショートで好きなものを見つけ、その後、長尺バージョンの動画を視聴すると回答しています(*8)。YouTube ショートは、好きなことと出会い、深掘りするきっかけとなっているのです。
ショート動画から不動産や保険も売れる、広告制作の 4 つのポイント
ショート動画が広く生活者の人気を集める一方で、マーケティングにおけるショート動画広告への活用については、まだ慎重な姿勢のマーケターも多いかもしれません。調査でも「ショート動画は Z 世代にしかリーチしない」と思っているマーケターが 73%(*9)と、自社の商材を広告する場所として、ショート動画が有効なのか確信が持てていない人も多いようです。
しかし、ショート動画をきっかけとした購買行動も確実に生まれてきています。エンタメコンテンツと相性が良さそうなジャンルの商品や低価格の消費財などはもちろんのこと、それ以外にも軽自動車、医療保険、不動産といった高価格帯で検討期間が長い商材の購入も生まれているのです。
では、ショート動画の広告を起点に購買行動を生むためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
株式会社スターミュージック・エンタテインメント取締役 Chief Marketing Officer の内田伸哉氏がまとめた YouTube ショートで効果的な広告を制作するための 4 つのポイントを紹介します。同社はショート動画を活用したマーケティングを展開しており、内田氏自身もマジシャンとして YouTube 登録者数 250 万人以上を獲得しているクリエイターです。
動画はこちら
1:指を思わず止めてしまう「0 秒アテンション」
0 秒目に、縦型用のレイアウトでインパクトのある絵を映しましょう。ボディコピーのような長い言葉は短く区切って次々と表示することで、0 秒目のアテンションを維持できます。
2:広告色を抑えて自然に楽しめるような「オーガニック感」
ブランドや商品を出す際は、コンテンツの内容とマッチした自然な流れを心掛けましょう。また視聴者が自分ごと化できる情報を盛り込み、カットやテロップを細かく切り替えることで、完全視聴率が向上して繰り返し視聴されやすくなります。
3:商材と相性が良い「クリエイター起用」
ブランドとの相性が良くコアなファンがいるクリエイターを起用し、商材の良さはもちろん、クリエイターの良さも同時に引き出すような表現を心掛けましょう。
4:その後につなげる「行動クリエイション」
視聴者に取ってほしい行動を明確に伝えることで、商品購入やランディングページへの遷移などその後の行動を促せます。また寄せられるユーザーコメントを想定してキャンペーンを設計することで、さらなる盛り上がりを醸成しましょう。
スキップしやすい環境のショート動画では、こうした工夫によって指を止めてもらい、短い時間で人の気持ちを動かす必要があります。「楽しんでもらい、結果として効果につなげる」というスタンスでの広告クリエイティブの制作が大切です。
テレビでの視聴も拡大、長尺に “ どっぷり ”
ショート動画と同様に、テレビ画面での視聴も増加しています。
調査会社 Kantar によると、日本の動画視聴者の 72% が「あるトピックについて深く没頭して理解を深めたいときに YouTube を選ぶ」と回答しました(*10)。このような、長い時間をかけて自分の興味にどっぷりと浸かる視聴態度を支えているのが、テレビ画面での YouTube 視聴だと考えられます。
インターネットに接続したコネクテッドテレビ(CTV)での YouTube の視聴時間は、2020 年からの 3 年間で 2 倍以上に成長しました(*11)。REVISIO の調査によると、2024 年上半期の CTV での 1 日あたりの視聴時間は、YouTube が第 1 位でした。CTV 上では、他動画プラットフォームや放送局を上回るサービスへと成長しているのです(*12)。
24 時間アニメ配信など CTV の特性を活かした活用例も
CTV の場合、テレビ画面という性質上、より長尺なコンテンツが視聴される傾向にあります。
たとえばアニメ『ONE PIECE』は放送開始 25 周年に向けた企画として、初回放送から最新回までを 24 時間 365 日 YouTube でライブ配信。累計再生回数は 2.6 億回、コメント数は 1,900 万を超えるなど、超長尺なコンテンツでファンの盛り上がりを生みました(*13)。
企業だけではなく、YouTube クリエイターの動画でも CTV 視聴が増加しています。HikakinTV チャンネルが公開した 2 時間を超えるフランス旅行の動画は、2024 年 8 月の視聴時間の 80% 以上をテレビ視聴が占めていました(*14)。
Jリーグの長尺動画も、CTV での視聴が伸びている好例です。試合のライブ配信や、「全ゴール一気見!」などの長尺動画が人気となり、テレビでの総視聴時間は 1 年間で 68% 増加しました(*15)。
このように、CTV や YouTube ショートといったフォーマットや視聴デバイスの広がりが、人々が好きを追求することを支え、その後の購買行動なども後押ししています。
クリエイティブの可能性を広げる AI と、取り組みへの責任
YouTube に多くのユーザーが集まる源泉となっているのが、クリエイターのコンテンツですが、AI の活用によりその制作をサポートする動きも出てきています。例えば米国では、AI が生成した楽曲をショート動画に追加できる実験的な取り組みとして「DreamTrack」がスタート。またショート動画の背景を生成できる「Dream Screen」には、まもなく Google DeepMind の最も高性能な動画生成モデルである Veo を導入するなど、AI によって人の表現やクリエイティビティを広げようとする動きが進んでいます(一部の国のテスターに提供。日本居住のクリエイターへの提供は未定)。
その一方で、責任ある AI 活用を進めるための議論や仕組み作りも欠かせません。日本では、グローバルパートナーでもあるユニバーサル・ミュージック グループや、バーチャルシンガー・ソフトウエア「初音ミク」の開発などで知られるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社と共に「YouTube Music AI インキュベーター」を発足。アーティスト、作詞家、作曲家、プロデューサーと意見交換を行うなど、音楽における生成 AI の活用について議論を続けています。AI が創造性を飛躍的に高める可能性があるからこそ、音楽業界とのパートナーシップを強化して責任を持って進めていくことが必要です。
また、生成 AI を使った投稿の増加を受けて、実在の人物や場所だと誤解される可能性がある動画には、生成 AI が使われていることを明示するラベルの表示を義務づけました。
今回紹介したように YouTube は、幅広いコンテンツに加え、ショート動画やテレビ画面など多様な導線を通じて、視聴者の興味を深掘りしてさらなる行動を生み出す場へと成長しています。その源はユーザーやクリエイターが生み出すコンテンツやトレンドですが、それと相互に影響し合いながら発展を支えているのが、AI をはじめとしたテクノロジーの進化です。
こちらの記事では、AI について Google のビジョンと活用事例を取り上げます。