マーケティングに求められているのは、常に変化する生活者の意識や行動を捉えながら、ブランドの長期的な成長を見据えた投資を続けることです。
これまでの慣習にとらわれることなく、効果がある施策に挑戦し、収益性を高め続けることが、困難な状況においてもビジネス成長につながっていきます。
2023 年 10 月 18 日に Google は、「広告効果で、選ぼう。」をテーマに、マーケターのための YouTube の祭典「Brandcast」を開催しました。同イベント内での Google の奥山真司(日本法人代表)によるキーノートスピーチを基に、 生活者の動向に対応して投資対効果(ROI)を高めていくマーケティングのあり方を説明します。
モバイルシフトが進む一方で、テレビ視聴のあり方も大きく変化
まずはじめに、日本の生活者のメディア環境を見てみましょう。
博報堂DYメディアパートナーズが 2023 年 1 月 〜 2 月に実施した調査によると、メディアの総接触時間における、スマホおよび携帯電話のシェアが初めて 3 分の 1 を超えました。2022 年の同調査では、スマホと携帯電話が初めてテレビを上回りましたが、その差もさらに広がっています(*1)。
このように依然としてモバイルシフトが進む一方で、単にテレビ離れが進んでいるかというと、そうではありません。
2023 年 2 月のインテージの調査によると、スマートテレビ(インターネットへの接続機能を備えたテレビ受像機、コネクテッドテレビの一種)に限れば、テレビ放送と VOD 配信を合わせた総視聴時間は、2016 年以降、横ばいが続いています(*2)。
また同調査によると、全テレビデバイスのうちインターネットに接続したコネクテッドテレビ(CTV)の割合は 34% で、CTV における視聴時間(*3)の 40% をビデオオンデマンド(VOD)が占めています。
VOD の中でも特に YouTube の視聴時間は長く、民放地上波 4 局の平均よりも 72% 長く視聴されていることがわかりました。
テレビ視聴のあり方も大きく変化してきているのです。
ROI を高めるマーケティングへ、4 プロセスで整理
このようなデバイスを横断したデジタルシフトが進む中で、企業としてはビジネス課題を発見、整理し、その課題解決につながるマーケティング目標を設定する必要があります。そして、個々の施策のマーケティング ROI を高めていくために、顧客層の設計やインサイトの発掘、メディアやクリエイティブの最適なプランニング、効果検証など、マーケターや広告代理店の皆さんは日々頭を悩ませていることでしょう。
ここからは、ROI を向上させるための流れを、Discover、Plan、Buy、Measure という 4 つの観点で紹介します。
Discover:ビジネス課題の整理と具体的な目標設計から
まず何よりも重要なのは、ビジネスの課題を発見し、具体的なマーケティング目標を設定すること(Discover)です。
当たり前のようですが、ここが明確でなければ、その後のプランニングや結果の不確実性が増してしまいます。これが固まって初めて、広告のプランニング(Plan)、メディアバイイング(Buy)、そして効果測定(Measure)へと検討を進められるのです。
続いて Plan、Buy については、具体的な事例とともに紹介します。
Plan:日清食品はデータを基にプランニング再考、YouTube 広告のコストはテレビ CM の 6 分の 1 に
「これまで通り、経験に基づいた慣例的なプランニングを続けていて良いのだろうか」
こんな相談を受けることが増えています。プランニングに迷ったときには、まず実際のリーチ数や接触回数、リーチ単価といった効率に関する指標を見直すことをおすすめします。
これを実行したのが、日清食品株式会社です。同社は、「若年層への広告接触 1 回あたりの価値」を可視化すべく、テレビ CM と YouTube 広告それぞれの広告接触回数と認知の関係を検証して、最適な広告量を明らかにしようと試みました。
検証ではまず「Google クロス メディアリーチ レポート」を活用。テレビ CM と YouTube 広告のターゲットリーチ数と広告接触者数から、接触 1 回あたりのコスト効率を計算しました。またマクロミルのクロスメディア調査によって、テレビ CM と YouTube 広告の有効接触回数を分析しました。
その結果、YouTube 広告ではテレビ CMよりも 27% 多くのターゲットリーチを獲得しており、接触 1 回あたりのコストはテレビ CM のおよそ 6 分の 1 でした(*4)。なお、認知における YouTube 広告の有効接触回数の目安は 4 回という結果が出ました(*5)。
このように日清食品では、経験や勘に頼った慣例的なプランニングではなく、データを見つめ直すことでリーチの効率や効果を可視化しました。今後は同様の取り組みを、他商品へも展開していく予定だということです。
Buy:東宝はメディアバイイングを変えて効率アップ
課題の整理と具体的な目標設定、そしてデータに基づいたプランニングができたら、次に考えるべきは適切なメディアバイイングです。
ここでは、東宝株式会社の事例を紹介します。若年層向けに新作映画のプロモーションを検討していた同社は、さらなるユニークリーチの獲得と、同時にできる限りインプレッション単価(CPM)を安く抑える施策を求めていました。
こうしたマーケティング目標に合わせて同社が採用したのが、YouTube 広告の動画リーチ キャンペーンです。動画リーチ キャンペーンでは、YouTube ショートを含めた幅広い配信面に対して、Google AI を活用した効率的な配信が実現できます。
配信の結果、テストグループと比べてユニークリーチは 15% 増加し、リーチ単価は 17% 削減。インプレッション単価も 42% 削減(*6)できるなど、狙い通りリーチ拡大と効率アップを両立させました。
Measure:効果測定の透明性確保へ、クロスメディアリーチはより精緻に
そして最後に欠かせないのが、広告の効果測定です。
効果測定においては、施策同士の条件をそろえて横並びの状態で評価することが非常に大切です。これによって、適切な意思決定が可能になります。
それぞれの施策の効果を透明性高く明らかにするために、Google でもリサーチ各社と協力してクロスメディアでの効果測定サービスを提供しています。
たとえばテレビ CM と YouTube 広告を横断した測定ツールとしては、インテージと連携した「クロスメディア リーチレポート」を提供してきました。また 2022 年 11 月には、ビデオリサーチが開発した 「CMR(Cross Media Reach Report:クロスメディアリーチレポート)」に関して Google の Ads Data Hub の連携を支援。2023 年 10 月からは、同サービス内で YouTube CTV 広告における共視聴データも適用できるようになりました。YouTube の視聴データについて、CTV での同時複数人による視聴の有無を選べるようになったため、「共視聴あり」のデータを使うことで、テレビと YouTube でより条件をそろえた横並びでの評価が可能になるのです。
さらに、ROI を可視化する手法として今再び注目が集まっているのが「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」です。個別のユーザー情報がなくても、マーケティングデータと自社の実績データがあれば施策の貢献度を分析可能で、また競合の動向や季節といった外部要因や、複数のメディア間の相互作用を考慮して ROI を可視化できる点が大きな特徴です。
しかし、MMM のモデルを正しく理解しないままに使用してしまうと、意思決定を誤ってしまうリスクもあります。本当に自社ビジネスと適合するモデルなのかを精査しなければなりません。この点は以前の記事で詳しく解説しました。
Google では、MMM のモデル選定におけるリスクとポイントを確認するために、博報堂DYグループや電通グループなどと協力して、その精度や有効性を検証しています。今後も、引き続き、公平で納得できるモデルの開発に取り組み、マーケティングの発展を目指していきます。
不確実な時代でも、マーケティングでビジネス成長を
さて、今回紹介したとおり、マーケティングによって長期的なビジネスの成長を実現する際の出発点は、自社のビジネス課題の整理からです。その上で、マーケティング目標を設定して目線をそろえ、生活者のインサイトを見極めてクリエイティブを開発しましょう。さらに、効果と効率的なメディアを定めたら、マーケティング投資をコストではなく、ブランドと事業成長のために、継続していくことが重要です。
Google としても、さまざまなソリューションを提供し、また生活者インサイトの発見や、広告クリエイティブの開発、効果測定などをサポートする専門チームを組成しています。
依然として先行きの不確実な状態が続いていますが、そんな中でもマーケティングがさらなるビジネス成長を後押しできるように、皆さんと共に挑戦を続けていきたいと思います。
2023 年 10 月の Brandcast で発表した YouTube に関する最新のユーザー動向や事例は以下のページにまとめています。合わせてご確認ください。