昨今、原料の高騰や不足、急激な円安など世界的に情勢が不透明な状況が続いています。
こうした時代のマーケティングこそ基本に立ち返るべきです。これまでの投資を見直し、効果がある施策を選択して収益性を高めていくこと、そして同時にブランドの長期的な成長を見据えた投資を続けていくことが求められます。
この記事では、2022 年 10 月 27 日に開催したマーケターのための YouTube の祭典「Brandcast」での発表内容から、生活者の変化に対応し、テレビと YouTube の統合プランニングによって投資対効果を高めた事例などを紹介します。
存在感が増す「コネクテッドテレビ」、統合プランニングのカギに
まずは生活者の変化やそれに伴う広告接点の築き方を俯瞰してみましょう。ブランドの長期的な成長と収益性を高めていくためには、生活者との大きな接点であり、企業としても投資額の多いテレビ CM とデジタルメディアを統合したプランニングが重要です。
生活者の多くは、テレビやモバイルなど多様なデバイスやメディアをシームレスに行き来しています。その象徴とも言えるのが、インターネットに接続された「コネクテッドテレビ」での視聴動向です。テレビは生活者にとって以前から馴染みのあるデバイスですが、そこで視聴しているコンテンツは、これまでの地上波の番組から徐々にデジタルメディアにシフトしており、2025 年にはコネクテッドテレビでの視聴時間の約半分を動画配信サービスが占めるとも予想されています(*1)。
コネクテッドテレビで YouTube を視聴している人は、2022 年 5 月時点で月間 3,500 万人を超えており、広告主も 87% がコネクテッドテレビ向けの YouTube 広告を利用したいと回答しています(*2)。
このように、テレビとデジタルメディアの生活者視点での融合は加速する一方で、広告主や広告代理店の広告運用においては、広告運用を行う組織がメディアごとに異なっていたり、プランニングや運用が分かれていたりと、統合したコミュニケーション設計をする上でのハードルもあります。その中でコネクテッドテレビは、テレビとデジタルの両方の特徴を併せ持つので、オンラインやオフラインの組織構造の分断が起きている企業にとっても、共通のトピックとして試しやすいのではないでしょうか。
テレビとの統合コミュニケーションに対応するパートナーシップ拡充と Google のプロダクト
コネクテッドテレビは、テレビとデジタルの垣根が無くなろうとしていることの象徴の 1 つですが、認知・興味・購買といったプロセスについても、分断せず、生活者との接点全体を見ながら最適化していくことが大切です。
そのため Google では業界の発展に向けて、広告代理店や調査会社がプライバシーに配慮した形で広告計測ソリューションを開発できるように、パートナーシップ拡充を図っています。
まずは認知領域について、電通および電通デジタルが所有するテレビの視聴データと Google 広告のデータを統合し、リーチや接触状況を日次でモニタリングできる「MIERO Digi x TV」、同様の目的のために博報堂DYグループと連携した「Tele-Digi AaaS(Advertising as a Service)」が発表されました。
また Google としては、2022 年 8 月に「YouTube フリークエンシー目標設定」をリリースしました。YouTube でフリークエンシーの目標を設定することで、機械学習により、1 週間のうちにユーザーが広告を見る回数を最適化できます。
従来、リーチやフリークエンシーをコントロールできない媒体では、一部のデモグラフィックでフリークエンシーの偏りがあっても、全体の出稿量でしか調整できませんでしたが、YouTube フリークエンシー目標設定を使えば、より効率的に広告効果を獲得できます。
認知領域だけではなく、態度変容に関するプロダクトも強化しています。
2022 年 9 月には、インテージと共同で「YouTube 広告と TVCM の態度変容調査」の提供を開始しました。ユーザーのプライバシーを保護しながら分析できる Google の「Ads Data Hub(ADH)」を用いて、YouTube 広告の接触ログデータと、インテージが提供する全国 92 万人のテレビ CM 接触のログデータを統合して計測、分析。それをもとに調査パネルにアンケートを実施することで、YouTube 広告とテレビ CM の態度変容効果をクロスメディアで確認、比較が可能です。
「テレビと YouTube の統合プランニング」ソニー損保が新たなチャレンジ
さて、ここまで統合プランニングの重要性を見てきましたが、実際にテレビ CM と YouTube の統合プランニングで成果を挙げた、ソニー損害保険株式会社の事例を見てみましょう。
ソニー損保ではダイレクト型自動車保険の申し込みを増やすため、短期的な獲得施策だけではなく、より長期的な認知施策にも注力しています。
これまではテレビ CM を中心に認知や初期の興味関心を醸成できていましたが、生活者の視聴動向が大きく変わる中で、メディア活用の仕方も変えていく必要があると感じていました。
そこで、テレビ CM に加えて、幅広い視聴層へのリーチと、動画による深いコミュニケーションの掛け合わせで態度変容の効果を期待できる YouTube 広告の強化に取り組みました。そのためにまずは、テレビ CM と YouTube 広告を同じものさしで評価し、運用の PDCA を回していくための仕組み作りに着手。メディアプランニングを担当する電通と、YouTube 配信を担当するセプテーニと共に着手しました。
今回の取り組みでプランニングを担当した Septeni Japan株式会社の松浦みづき氏(マーケティング戦略本部マネージャー)は、運用に関する企業の課題を次のように話します。
「オンラインメディアとオフラインメディアを統合したいニーズは高いものの、代理店もクライアントも組織体制が分かれており、戦略や評価などあらゆる箇所で分断を生んでしまっているケースが多く見受けられます。結果、コミュニケーションコストやオペレーションコストが非効率な状態になってしまうのです」
そこでソニー損保では、電通とセプテーニがタッグを組み、代理店側の組織体制の分断を解消。それぞれが得意分野を生かしながら、テレビと YouTube を統合したプランニング、バイイング、モニタリング、そしてクリエイティブ制作の PDCA を実施しました。
主要な KPI としては、「サイト来訪者の獲得単価」を見ていくことにしました。電通が持つテレビ CM 接触者データ、Google が持つ YouTube 接触者データ、そしてソニー損保が持っているサイト来訪データを別の分析環境下で紐づけ、「テレビと YouTube の予算配分」「必要なターゲットリーチやフリークエンシー」の 2 点を検証しました。
まずは、従来の予算配分のエリアと、YouTube に大きくシフトしたエリアを比較したところ、後者では 1 人当たりのサイト来訪単価が約 30% 改善。明らかな効果が見て取れました。シミュレーションツールによっては、過去の実績をベースにしているために大胆な予算シフトの結果までは事前に想定しにくく、また商材によっても結果が異なるため、自社のブランドで実際にテストをして効果を確認できたことは大きな成果でした。
またリーチとフリークエンシーについては、フリークエンシーのコントロールができないテレビ CM は出稿量を最小限に抑えつつ、テレビをよく見る層もあまり見ない層も、全体としてフリークエンシーが一定になるよう、YouTube で調整。エリア別にテストしたところ、何もしなかったエリアと比較して、1 人当たりのサイト来訪単価が、さらに 6 ~ 8% も改善したのです。
さらにソニー損保では、前述の「YouTube 広告と TVCM の態度変容調査」を使い、テレビと YouTube を統合した態度変容効果も確認しました。
この調査では、コネクテッドテレビやモバイルといったデバイス別の効果を可視化できるため、たとえば同じデバイスであるテレビ CM と YouTube コネクテッドテレビ広告間での比較検証なども可能です。実際に同社のケースでも、コネクテッドテレビ上での YouTube 広告接触者の広告認知率は、非接触者よりも 8.3 ポイント高いという結果も出ています。これはモバイルでの接触と比べても高い数値でした。
今後は、動画の尺に捉われない表現方法や、コネクテッドテレビでのクリエイティブの出し分けなどにも挑戦したいと考えているそうです。
2022 年 10 月の Brandcast で発表した YouTube に関する最新のユーザー動向や事例は以下のページにまとめています。合わせてご確認ください。