Google が 2021 年 10 月 6 日に開催したイベント「Brandcast(ブランドキャスト)」。広告主や広告会社向けに年次で開催する同イベントでは、YouTube の利用実態に関する最新データや、先進企業の取り組みなどを紹介しています。
昨今のコロナ禍の影響で、マーケターが生活者にアプローチする方法や、それを支える YouTube 広告自体も変化しています。今回は、イベントでの発表内容から、YouTube の機能アップデートや、生活者と最適な方法でアプローチする企業の事例について紹介します。
「未来を見据えて市場を創造する」——マーケターの使命を果たすために、YouTube ができること
イベントでは、Google の奥山真司(日本法人代表)が登壇、時代の変化とともに移り変わる YouTube の価値に触れました。
「YouTube は、多くの人々に利用されて親しまれる、日常に欠かせない、まさに『みんなのメインステージ』になりました。常識をアップデートして市場を創造するためには、そこで広いリーチを獲得し、双方向のコミュニケーションや共創ができるということが重要です」
また YouTube で成長しているライブ配信を例に挙げると、すでに日本では 64% がライブ配信を視聴し(*1)、40% 以上がライブ配信視聴は「人とのつながりが感じられる」と回答しています(*2)。奥山はこうしたライブ配信での活発なコメントのやりとりや、クリエイターにとっての収益源でもある「Super Chat」に言及し、「ライブのその瞬間をともに創りあげていく」と言います。
「(従来の)一方通行のコミュニケーションと比較して、質も、量も、大きく異なることは明らかです。さらにコミュニケーションの結果をデータで振り返ることで、検証から気づきを得て、次のコミュニケーションを顧客視点でアップデートできるのです」
2020 年以降、世界は大きく変化しました。「人間にとって本質的に大切なことは何か」が改めて問われる、新しい時代に突入したといえるでしょう。
「未来を見据えて市場を創造する」というマーケターの使命を果たすために、YouTube がどのように助けになり得るかが見えてくるのではないでしょうか。
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生活スタイルの変化やマーケターニーズに対応、2 つのプロダクトアップデート
「新たな日常」の中で、生活者のコンテンツ消費のスタイルも変化しています。ここでは、生活者とさらに広く接点を築くために、YouTube 広告の代表的な 2 つのプロダクトアップデートを紹介します。
1 つめは、「コネクテッド テレビ ブランド表示オプション」です。これは、テレビ画面上の YouTube 広告で見た商品の詳細をウェブサイトで見たり、購入したりできるよう、 URL をワンクリックでスマートフォンに送付できます。視聴者にとっては、より便利で、ブランドとのつながりを深めるきっかけになり、広告主にとっては、テレビでの YouTube 広告からダイレクトにアクションを促すことができるようになったのです。
現在、オンライン動画をリビングなどの大画面テレビで楽しむ人が増えており、日本では月間 2,000 万人以上がテレビ画面で YouTube を視聴。テレビ画面での視聴時間がモバイルや PC より長くなっています。すでにスマートニュースやパナソニックなどの企業が、こうした新しい視聴動向を捉えて、コネクテッドテレビ広告の活用によって、成果をあげています。「コネクテッド テレビ ブランド表示オプション」もこうした視聴動向の変化に合わせたアップデートの 1 つです。
また「ディスプレイ&ビデオ 360」を活用すれば、YouTube のみならず、TVer、FOD、ネットでテレ東、DAZN、ABEMA といった各オンラインサービスのコネクテッドテレビ広告枠にも配信でき、さらなるリーチの拡大を見込めます。
2 つめが「動画リーチ キャンペーン」です。これは、幅広いリーチ獲得に適した「バンパー広告」「TrueView リーチ広告」を予算内でリーチを最大化するように、機械学習によって自動的に配信を振り分けるものです。
これにより、作業やコスト面を効率化しながら、より多くの生活者と接点を築けるようになります。
すでに実施したテストケースでは、「バンパー広告」「TrueView リーチ広告」をそれぞれ個別で利用した場合と比較して、「動画リーチ キャンペーン」ではインプレッション単価(CPM)を安く抑えながら、ユニークリーチの増加を達成できました(*3)。
そのほか、独自のアルゴリズムで計測した YouTube で人気のチャンネル上で、特定の市場への関心が高い視聴者に対して広告を表示できる「YouTube Select」でも活用のバリエーションが広がっています。特定のチャンネルやプレイリストを買い切れる「Programs」 では、UUUM や吉本興業とのスポンサーシップにより、人気チャンネルへの広告配信や、クリエイターとコラボしたコンテンツ制作といった協業も予定。2021 年は、著名人のコンテンツパッケージや、時間帯とコンテンツを掛け合わせテレビのスポット枠のように購入できる、シンプルなパッケージも用意しています。
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「スモールマス」にアプローチした味の素、企画から評価までマーケティングのやり方を変革
このように、YouTube 広告も生活者の変化に合わせたアップデートを続けていますが、企業のアプローチは、どのように変わっているのでしょうか。
5 年ほど前からデジタルメディアの活用を進めている味の素株式会社では、マーケティング全体の投資対効果(ROI)を改善したいという課題を持っていました。
これまで注力していたテレビ CM は、マスへのリーチ力が非常に強い一方、同社のあるキャンペーンでは対象セグメントの 20% が接触回数 0 回、35% が目標の接触回数(3 回以上)に達していませんでした。また料理に対する意欲が異なる人々に対して、同一のメッセージを発信することになり、態度変容などの効果に限界を感じていました。
そこで、リーチの ROI を改善し、生活者の興味関心に合わせたメッセージで広告に触れた人の買いたい気持ちを高めたいとのニーズに対応するため、Google では「オーディエンスターゲティング」を用いた施策を提案。ニーズが似ていて一定の規模もあるセグメントを「スモールマス」として捉え、マルチターゲット、マルチクリエイティブで訴求することで、商品理解や好意形成につないだのです。
その結果、高いケースでは、ブランドリフト調査での広告想起は 60% 増、購入意向は 15% 増、またサーチリフト調査でのブランドキーワード検索数は 745% 増と大きく向上しました。
その他にも、YouTube を活用している 15 以上のブランドで、ブランド横断で KPI を評価できる仕組み化にも取り組んでいます。同社の木本雄一朗氏(食品事業本部 生活者解析・事業創造部 デジタルアナリシス&クリエーショングループ グループ長)は「マーケティングの計画段階から、ブランド横断での評価まで入ってもらうことで、マーケティングのやり方自体を変革することができつつある」と話します。
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プライバシーに配慮、新たな効果検証とは
また、施策の効果検証についても、新たなアプローチが生まれています。
株式会社NTTドコモでは、マーケティング活動全体を通して、YouTube 広告を活用した施策の効果を、クロスメディアで正しく評価したいというニーズがありました。サードパーティ Cookie が、段階的に廃止されることを踏まえ、プライバシーに配慮した形で、評価の仕組みを整備する必要があり、新しい分析方法を模索していました。
そこで、「調査パネルの態度変容を計測するアンケート結果」と「ネット結線テレビのCM接触ログデータ」、「YouTubeの広告接触ログデータ」の3つを、Google が事業主向けに提供する ADH(Ads Data Hub)というプライバシーに配慮した環境下で分析するという、新しい方法を試みました。
これにより、広告に接触した人としなかった人それぞれの、広告接触前後(Pre-Post)、いわゆる「差分の差分法」での態度変容効果を、クロスメディアで正確に把握できるようになったのです。
結果として NTTドコモのケースでは、YouTube 広告は興味や利用意向で有意なアップリフトがあり、テレビと YouTube の重複接触で追加の数値向上があること、YouTube における1 人当たりの利用意向の獲得単価は、テレビの約 4分の1 であることが分かりました。
こうした分析を通じて、テレビ CM と YouTube 広告それぞれの正確な接触回数と、その回数に応じた態度変容への影響などを可視化できるようになりました。それにより、広告接触の無駄が発生しないようにテレビ CM と YouTube 広告の予算配分を最適化したり、YouTube 広告の「フリクエンシー キャップ」機能で接触回数の上限を設定したりといったその後の意思決定にもつなげることができます。
ADH を活用した他の分析から、テレビ CM のタイム枠への投資を大きく見直したり、コンバージョン領域で、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)や「CausalImpact」といった統計分析の手法を活用するなど、さまざまな角度から効果検証を積み重ねており、データに基づく客観的な投資判断を推進しています。
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クロスメディアの効果検証——ROI 向上に向けて
一方、コロナ禍のように先行きが見えない時代に、何をもとにマーケティングの戦略をたてるのか。そのための包括的なクロスメディアの効果検証が求められています。そんな中注目されているのが、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)です。
これは、経済状況の変化など、マーケティング施策の影響なしで生じた売上と、マーケティング活動の成果による売上の成長要因を分解して、施策別の貢献度や ROI を明らかにする統計的手法です。Nielsenは、Facebook Japan、Google などのパートナーらとともに、2020 年に日本マーケティング・ミックス・コンソーシアム(MMC)を設立。MMM の分析結果を、具体的なアクションにつなげるための啓蒙活動をしています。
たとえば消費材での複数の MMM 事例をまとめ、GoogleがNielsenと協同して実施したメタ分析では、YouTube 広告はテレビ広告よりも、売上増分効果が平均して 3.3 倍高いという結果が出ています(*4)。
具体的にサントリースピリッツ株式会社のキャンペーンを MMM で分析したところ、YouTube の ROI が高いことが明らかになっています。一方で YouTube のメディア効果を詳しく見ると、まだ最適な広告の投入量には至っておらず、投入週数も多くありません。そのため全体の投入量を増やした方がいいことがわかっており、配分変更などのアクションの検討ができます。
Nielsen の皆川治子氏(ディレクター 日本及び韓国)は「デジタルはテレビと比べて予算変更がしやすく、根拠なく環境変化の余波を受けがちです。しかし、重要なのは数値的根拠に基づく判断を、随時行うことです。まだ MMM での測定をされたことがない方は、ぜひ実施いただき、ROI がよいという根拠を持って、YouTube をお使いいただきたい」と話します。
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マーケターの真価が問われる時代へ
ここまで、生活者の行動や企業のアプローチが、時代とともに変化していること、そしてそのなかで YouTube がどのように一助となる得るかをお伝えしてきました。
こういった変化を確実に捉え、今後来るであろう未来を見据えて、先進的な領域へ一歩踏み出してみることは、ブランドにとっても、マーケターとしてのキャリアにとっても、有用となるはずです。
たとえば、「生活者の新しい視聴動向を捉え、コネクテッドテレビでの広告配信をしてみる」ことや、前出の「ADH や MMM といった、時代に合わせた方法でマーケティング投資を見直し、効果を最大化する」こと、「生活者に寄り添ったクリエイティブを開発し、高い成果が出たものは YouTube Works Awards へ応募する」など、新たなチャレンジをしてみるのはどうでしょう。
マーケターのみなさんにとっても、真価が問われる、探索と深化の時代が到来しました。一緒に、来るべき未来を見据えて、挑戦を重ねていきませんか。
Contributor:
インダストリーマネージャー 山本 一樹 / インダストリーマネージャー 冨永 泰弘 / コンシューマー&マーケットインサイト・マーケティングリサーチマネージャー ミン グエン