「インフルエンサーはブランドをサポートする大きな可能性を秘めているが、彼らとのコラボレーションにあたっては、マーケティングにおける刷新的なアプローチが求められる」。電通イージス ネットワークのカラ グローバル (Carat Global) の最高戦略責任者 Sanjay Nazerali 氏はこう語ります。 注: 本記事は、ハフィントンポストおよび Advertising Week 360 に掲載された記事を再掲しています。
世界最大級の広告代理店でメディア戦略に携わる立場から、私はインフルエンサー マーケティングと、成功したクリエイターの姿を数限りなく目にしてきました。
広告掲載を検討しているブランドにとって、何百万人もの視聴者と熱狂的なファンを持つ YouTube クリエイターは、すでに評価が定まったチャンネルだと言えるでしょう。
さらに、より深いレベルのコラボレーション対象として魅力を増しつつあるのが YouTube インフルエンサーです。
クライアントはこれを、セレブリティによるマーケティングに続く新たなソリューションとして関心を示します。 しかし、やがて次のような懸念にとらわれるのです。
自社ブランドにとって具体的なメリットはあるか。 彼らと本当にコラボレーションするべきか。 実は、単にミレニアル世代のユーザーだけを対象としたり、美容ブランドやメイクアップのハウツーを解説する手法に過ぎないのではないか。
こうした懸念を拭い去るのは、簡単なことではありません。 多くの企業がインフルエンサー マーケティングを採用していますが、実際に「インフルエンス(影響)」が何を意味し、どのような効果があるのか理解している企業は、これまでほとんどありませんでした。 しかし、これからは違います。
セレブリティ マーケティングとインフルエンサー マーケティングでは、ブランドへのメリットが根本的に異なります。
当社は、インフルエンサーがブランドに与える影響を理解するために、YouTube やニールセンと協力して、アメリカとイギリスの数百のブランドやクリエイターによる動画の成果を分析しました。
これは、新たなマーケティングをビジネス主導で確立するための最初の重要なステップであり、すでに私自身も影響を受けています。
1. インフルエンサー マーケティングとセレブリティ マーケティングとの違い
いかに影響力があると言っても、YouTube インフルエンサーは「セレブリティ」ではありません。セレブリティ マーケティングとインフルエンサー マーケティングでは、ブランドへのメリットが根本的に異なります。
たとえば広告想起率では、クリエイターよりもセレブリティのほうが有意に高いことが判明しています(クリエイターは 73%、セレブリティは 84%)。1 セレブリティの役割が、人々に知られ、記憶に残ることであると考えれば、これは当然の差異だといえます。
視聴者をより深くブランドに引きつけることができるのが YouTube クリエイターの強みであり、たとえばブランドへの親近感を高めるというのがそのひとつです。 生活者に自社の価値や製品などを深く理解してもらいたいなら、YouTube クリエイターとのコラボレーションは、セレブリティとのコラボレーションよりもブランドの親近感を高めるうえで 4 倍以上効果的です。2
購入意向率については、インフルエンサーとセレブリティの効果はほぼ同じです。当社の調査では、インフルエンサーが購入の意思決定に関わる効果は、セレブリティと同程度でした。3
インフルエンサー マーケティングは、より生活者に近いところで効果を発揮する傾向があります。 これは、視聴者がお気に入りの YouTube クリエイターに強い親近感を抱いているためでしょう。 卓越したクリエイターは、視聴者と緊密なつながりを築きます。ファンはクリエイターの発言を信頼し、それに従ってブランドや製品を選ぶのです。
2. その効果は「美容」だけではない
美容ブランドは早くからインフルエンサーとコラボレーションを行っており、クリエイターは YouTube の美容分野で大きな存在感を放ちました。 YouTube の上位 200 位の美容関連動画のうち、約 86% がクリエイターによるものであり、プロフェッショナルやブランドが制作した動画ではありません。
ところで、当社の調査から興味深いことが判明しました。YouTube インフルエンサーは、美容品以外のカテゴリーでも幅広く活躍していたのです。
自動車、酒類、菓子、玩具など、9 つのカテゴリーで追加検証したところ、そのすべてにおいて、インフルエンサーとのコラボレーションが、ブランドへの親近感からおすすめに対する好感度といった指標に効果があったことが分かりました。4
スナック菓子や酒類などのカテゴリーではさらに影響力が大きく、平均値よりも大幅に購入意向率が高まりました。5 インフルエンサー マーケティングはファッションや美容ブランドに関心の高い若年層だけが対象になるという懸念は、間違いだということです。
3. 「誰を選ぶか」と同じくらい「どのように」が重要
これまでセレブリティ マーケティングで重視されてきたのは、エンドースメント( おすすめ )、スポンサーシップ、プロダクト プレイスメントです。ところがインフルエンサー マーケティングでは、選択肢がぐっと広がります。このため、それぞれのマーケティング目標に対してどの選択肢が最適なのかよく理解することが重要になってきます。
当社の調査では、ブランドとクリエイターがあるテーマに共に取り組むとき、最も高い効果を発揮すると判明しています。6 このように密接なコラボレーションでは、インフルエンサーはブランドと共同でデモ動画などのコンテンツを制作します。 プロダクト プレースメントよりもはるかに効果が高いアプローチです。
カテゴリー間の共通項も多かったものの、クライアントが理解しておくべき重要かつ微妙な差異も見つかりました。 プロダクト エンドースメントやクリエイターの広告出演といった比較的単純なコラボレーションでも、ブランドの好感度は今回の調査で検証したすべてのカテゴリーで高まっていました。7
もちろん、大がかりなコラボレーションによって想像以上の成果を得ることができる場合もあります。 しかし一定の目的や分野においては、ブランドがインフルエンサーのパワーを活用する最も簡単かつ効果的な手法は、シンプルに YouTube クリエイターのコンテンツ上で自社広告を表示することです。
事実、当社のネットワーク分析の提携先 D2D による最近の発表では、最高の結果を出すために、現在の 3 倍以上の予算をオンライン動画へ投資してもよいと提言しています。8
4. YouTube クリエイターが支持される理由
YouTube インフルエンサーとは、人々の憧れの対象か、もしくはセレブリティのような人物だと思われがちですが、いずれも正しくありません。 セレブリティ マーケティングとインフルエンサー マーケティングの最も大きな違いは、おそらくここでしょう。
セレブリティが最先端でスタイリッシュでなければならないのに対し、生活者がクリエイターに期待するのは、そのクリエイターの個性次第です。9
たとえば、少し辛口なクリエイターであることは、時として信頼感につながります。
ブランドにとってこれが重要になる場合があります。 気に入らないものに対しては容赦ないクリエイターが何かを褒めている場合、それは本気だと確信できるからです。
インフルエンサー マーケティングは一時的な流行ではなく、広範囲に大きな成果をもたらすコミュニケーション手法であることは明らかです。
コミュニティへの帰属感覚に結びつくことから、ユーモアも重要です。 YouTube はインフルエンサーと視聴者の間に特別な関係をつくり、共通の意識を育むうえで役立ちます。
セレブリティの特別感より、ユーモアによる親密な感覚のほうがはるかに自然だと感じられるようになります。 ドウェイン・ジョンソン(アメリカの俳優、プロレスラー)などのセレブリティが YouTube で積極的に活動を始めたとき、インフルエンサー スコアが上昇したのも、おそらくこのような理由によるものでしょう。
YouTube インフルエンサーが新たなマーケティングのルールを形づくりつつある時代
今回の調査でわかった重要なポイントのひとつは、マーケターが重視する名声、信頼、コミュニティの性質に、文化面における大きな質的変化が生じているということです。 この変化を推し進めているのが、本音の意見を発信する多くのクリエイターです。
この新たな形式のマーケティングは大きな成果をもたらす可能性はありますが、これまでとは異なったアプローチが必要です。
このような新たなマーケティングの可能性を最大限に引き出すためには、ブランドはきめ細かく戦略的に振る舞わなくてはなりません。 積極的な投資をいとわないブランドにとって、インフルエンサー マーケティングは一時的な流行ではなく、広範囲に大きな成果をもたらすコミュニケーション手法であることは明らかです。 インフルエンサー マーケティングに対する戦略的な取り組みは、まだ始まったばかりです。