CTA(Call to Action)ボタンで視聴者に行動を促す「TrueView アクション広告」が、YouTube 広告フォーマットに登場したのが 2018 年。それ以降、認知向上を目的とした広告キャンペーンのみならず、行動喚起やコンバージョンを目的とした広告キャンペーンでの活用例も増えています。
ここで大切になってくるのは目的に応じたクリエイティブを考えることです。 Google のクリエイティブ支援チームでは、視聴者の具体的な行動(アクション)を促すという目的に絞り、TrueView アクション広告のパフォーマンスを左右する要因を複数の統計手法で解析しました。具体的には、2019 年の秋冬に、日本において TrueView アクション広告で配信された 1,000 本以上のクリエイティブを対象に統計解析し、視聴者からの意見も合わせて分析しました。
*記事中で紹介している動画は予告なく非公開になることがあります。なお、初出時に掲載していたセコムに関係する動画は掲載を取りやめました
「アクションにつながらない」動画広告 3 パターン
成功の要因は、うまくいかなかった広告の原因を洗い出すことで見えてくることもあります。そこで、動画を構成する要素を「フォーマット」「音楽」「字幕」「ロゴ」「登場人物」など細かく 308 個に分解し、どの要素がどうなったときに行動(クリック)につながったのか、もしくは変化がなかったのかを抽出しました。
その結果、「行動を喚起できなかった」広告には大きく 3 つのパターンがあることがわかりました。
1:読めない特典
広告の冒頭で、「特典」を音声なしで文字だけで表示していたり、その表示時間があまりにも短かったりすると、視聴者が「特典」の内容を読めないまま動画が進んでしまいます。
広告主は、視聴者が広告をスキップする前に、あるいは視聴者の集中が切れないうちに、早く特典を提示したいと思ったのかもしれません。しかしこのような提示の仕方では、たとえ魅力的な特典を用意していたとしても、視聴者のアクションにはつながりにくいでしょう。
たとえば、特典を文字だけでなく音声でも伝えるといった工夫で、効果の改善が期待できます。
下の動画では、冒頭 で「今なら10%OFF!」と特典を表示していますが、視聴者は 2 秒間しか読めず、また文字だけで音声がないため、認識するのが難しくなってしまいます。
「読めない特典」の例(Google のクリエイティブ支援チームが制作)
動画はこちら
2:遅いテンポ
商品やサービスを丁寧に説明したいという思いから、動画全体の尺が長くなってしまったり、動画の「見せ場」が中盤から後半になってしまったりするケースも多く見られます。
もちろん、商品の理解を目的にする場合には、長尺広告を使う方法もあります。しかし、こと行動喚起という点ではあまり効果的ではない可能性があります
たとえばテレビ CM のような受動的な視聴環境では、静かな導入から徐々に盛り上げ、中盤から終盤にピークを置いて、ブランドの価値訴求につなげる「Hill 型」と呼ぶ山なりのストーリー曲線が効果的です。一方で YouTube 広告は、視聴者が能動的に見ようと思った動画の前に流れるものであり、原則スキップ可能な環境です。そこではゆっくりとストーリーを語るのではなく、サビから始め、ブランドも早めに訴求し、予想外の展開を交えながら盛り上がりを続けていく「Heartbeat 型」のストーリーにすることで、広告を見続けてもらいやすくなります。
失敗例の動画では、冒頭にロゴを見せていますが、具体的な動画の内容が開始 6 秒からのスタートと遅めです。これでは、視聴者の興味を引き、アクションにつなげてもらいにくくなります。
「遅いテンポ」の例(Google のクリエイティブ支援チームが制作)
動画はこちら
視聴者に次の行動を促すためには、1:序盤で視聴者の心をつかみ、2:シンプルでわかりやすいメッセージを端的に伝え、3:短い動画内に何度か山場を作る、といった工夫が必要です。
3:見えない検索窓
TrueView アクション広告は、広告の下に行動を促す CTA ボタンをつけることができますが、それとは別に、動画広告中に「検索窓に単語が入っているイラスト」などを表示して、特定の単語での検索を促す広告もよく見かけます。
ここで重要となるのは、その検索窓のイラストサイズです。パソコンやテレビ画面で YouTube を視聴する場合は問題なくても、モバイルで見ると文字が見えにくいことがあります。テレビ CM 素材を YouTube 広告に転用することも多いと思いますが、その際に視聴環境を考慮せず単純にそのまま使ってしまうと、こうした失敗が起こりがちです。
小さい検索窓は、モバイル画面では特に視認性が低い
クリエイティブを制作する際には、まずモバイル画面でもはっきりと認識できるイラストと文字サイズかを確認しましょう。さらに文字だけでなく、「商品名 xxx を検索」などと音声を被せることで、より明確にアクションを促すことができます。
広告サイズ、商品カットの表示など……アクションにつながる 5 つの要因
ここまで失敗例を見てきましたが、逆にうまくアクションにつなげている成功事例では、どのような工夫がなされているのでしょうか。分析の結果から、アクションにつながる広告の成功要因を 5 つ見つけました。
- デジタルを意識したストーリーテリング
- 伝えたいことを明確に、画でも音でも伝える
- クリックするメリットを、視聴者に明確に伝える
- 商品そのものやサービスのロゴをしっかりと、かつ自然に表示
- モバイル閲覧を意識した広告サイズ
1、2は企画段階から検討すべきことですが、3 〜 5 は既存の動画を編集することで改善できる、比較的低コスト、短時間で取り入れることが可能な部分です。クリエイティブの改善を考えるときに、まずはここから始めてみてはいかがでしょうか。以下で、3 〜 5 について実際の企業のクリエイティブと合わせて見てみましょう。
「クリックするメリット」を明示的に伝える
「行動を促すフレーズ」(CTA)のメッセージの変更は、動画の一部分を編集するだけで可能なため、比較的シンプルに手がつけやすい場所と言えるでしょう。クリックすることで得られるメリットを、より具体的に視聴者に示すことが重要です。
たとえば「サイトはこちら」ではなく「公式オンラインストアはこちら」なら、すぐ購入できるというメリットが伝えられますし、「機能の詳細はこちら」なら、気になっていた機能の詳細が載っていることがイメージできます。クリックした先に、視聴者にとってどんなよいことがあるのかを示すことが重要です。
「Y!mobile」の動画でも、最後の 3 秒間で、 「公式オンラインストアはこちら」という大きなテキストと矢印を使い、CTA ボタンのクリックを促しています。小さいことに見えるかもしれませんが、こうした工夫で広告効果に違いが生まれます。
動画はこちら
商品そのものやサービスロゴをしっかり、かつ自然に表示
ブランドを象徴する商品やロゴは、自然に、かつ視聴者がしっかりと認識できるように見せることが大切です。
セコムの場合、最初のシーンで、家のポストに貼ってあるセコムのロゴを寄りのカットで表示。その後も各シーンで、製品にあるロゴを自然に見せています。また YouTube の動画の 95% は音声をオンにした状態で再生されている(*1)ため、ナレーションで企業名を複数回入れていることも、行動喚起につながります。
「モバイルファースト」の広告サイズ
デジタル動画広告は、PC 画面のみならず、タブレットやモバイルなどさまざまなデバイス環境下で閲覧されています。そのため、視聴環境に合わせてクリエイティブのサイズを変えることも効果的です。特に TrueView アクション広告では、機械学習をうまく機能させるために、キャンペーン単位で 5 本以上のクリエイティブを入稿することを推奨しています。これまで試していなかったサイズを入稿することで、行動促進につなげられる可能性もあります。
いくつか具体的な成功例を見てみましょう。
doda では、横型動画にブランドを訴求する静止画を追加し、スクエア型と縦型で配信。縦型動画のクリック率(CTR)が、横型で配信したときと比べて 1.7 倍になりました。
スクエア型:doda 「変えるなら、きっと今だ。」篇②
動画はこちら
縦型:doda 「変えるなら、きっと今だ。」篇②
動画はこちら
またオルビスでは、もともとスクエア型のクリエイティブを制作していましたが、字幕を組み合わせることで、編集の手間をかけずに縦型化し、モバイルに適した形にしています。また字幕と併せてボイスオーバーも追加。これらは視聴者に動画の内容を理解してもらうための仕掛けとしても有効でした。
オルビス 縦型
動画はこちら
これまでの成功要因を踏まえると、比較的手のかからないクリエイティブの変更でも、最終的な動画広告効果に大きく影響を与える可能性があります。動画広告クリエイティブ改善の第一歩として、ぜひ取り組んでみてください。
* 記事リリース後、2021/05/21 18:15 記事を更新、再掲載としております。
Contributor:
ビジネスインサイト & アナリティクス アナリティカルリード 麦島 修 / ビジネスインサイト & アナリティクス アナリティカルリード 田中 悠貴