テレビと YouTube のクロスメディア広告を出したい、しかもその効果測定もしっかりやってPDCAを回したい――。2018 年は 2047 億円、2019 年には前年比 130.8% の 2651 億円まで成長する見込み( *1)という国内の動画広告市場。テレビと動画広告を合わせたコミュニケーションが一般的になってきている今、クロスメディア広告をやってみたい、定着させたいというデジタルマーケティング担当者も多いはずでしょう。
テレビとYouTubeのクロスメディア広告、検証ってどうやるの?
クロスメディア広告とひとことで言っても、テレビと YouTube の検証はそんな簡単にできるでしょうか。こうしたニーズに対して Google では、クロスメディアキャンペーンの効果を検証できる「X-media Unique Reach Report 」(クロスメディア ユニーク リーチ レポート、以下、XMR)をオープンベータ版として提供。すでに 500 以上の案件で活用されています。
XMR では、テレビと YouTube のそれぞれが、どれだけの適切な視聴者にリーチしたか、テレビと YouTube のリーチの重複状況を計測できのが特徴です。リーチの測定では、テレビと YouTube のクロスメディア環境下での関係性を可視化する「Intage SSP」(インテージ シングルソースパネル)によって検証したモデルを利用しています。
また、効率的にリーチを獲得するために、テレビと YouTube を組み合わせたリーチシミュレーションやプランニングツールと併用することにより、プランニングから XMR でのリーチ測定までのトータルな提案ができるようになります。
さて、機能を並べ立てるよりも、実際に最近の代表的な事例を XMR 的な視点で分析してみましょう。
ユニ・チャームがマスクのシェアで No.1 に、過去 10 年で最高
まず最初はユニ・チャーム株式会社の「超快適マスク」のキャンペーンから。テレビ広告と YouTube 動画広告を活用したクロスメディア施策を実施し、ブランドリフトとインクリメンタルリーチの両面で成果をあげました。
YouTube 動画広告に求めたのは、インクリメンタルリーチの獲得と、そのプランニングから、効果測定、改善までの PDCA サイクルの確立です。そこで、Google が提供する TV と YouTube のリーチプランニングツールを活用しました。YouTube では最長 6 秒間のスキップが不可能なバンパー広告を実施。クリエイティブは以下の画像にある通り 8 種類で、従来の横型動画に加えて縦型動画も用意しました。
ティザー期、テレビ CM 期、テレビ CM 終了後のリマインド期を定義したのち、25 歳〜 44 歳女性、会社などで働く女性、マスク需要層といった商品のニーズに合わせた視聴者を設定しました。
横動画と縦動画を併用することで、横動画のみと比較して各種ブランドリフト値の増加を期待できます。今回の施策では、ティザー期の CM 連動素材を例にとると、横動画の広告想起率が 110.7% に対し、縦動画は 956.1% と大きく上昇。縦動画を表示すべき時に効果的に配信することで、成果をあげました。
キャンペーンは、他社との差別化ポイントである「ず~っと、耳らくらく、超快適」という実感価値を 1 人でも多く訴求することを目標に Google のプランニングツールでシミュレーション。リーチを最大化するため、テレビ広告と YouTube 動画広告の予算比率を決め、YouTube 動画広告に広告予算の約 3 割を投資することにしました。
キャンペーンの結果、全期間のブランドリフトにおいて CPG(消費財)業界内でトップ 25% に入る成果を残しました。リーチについても、テレビのみでは適切な視聴者に対して 50.13% のリーチだったのに対し、YouTube 動画広告と組み合わせることで、62.47% へとリーチを拡大。そのうち 12.34% が YouTube によるインクリメンタルリーチでした。特に 25 歳から 34 歳の女性層へのリーチ単価を見ると、YouTube の方がテレビよりも 39% 安価にリーチできることが XMR による計測でわかりました。
さらに、ティザー期における広告動画素材ごとのブランドリフト調査の結果、「パッケージ素材」は広告想起で 123.5%、購入意欲で 21.7%、「超快適マスク」などのブランドキーワードの検索で 912.2% と、高い数値を示し、ブランドリフト効果が高いとの示唆を得ました。
結果的に、ユニ・チャームのマスクの市場シェアは過去 10 年で最高を記録(*2)。2018 年 1 月~2019 年 4 月のマスク市場で No.1 のシェアを獲得(*3)しました。
「クリエイティブごとのブランドリフトスコアを評価することで、ブランドリフト効果の高いクリエイティブが特定でき、また、XMR により、テレビでは到達できないリーチを YouTube で獲得できたことを実証できました。現在は、『超快適マスク』以外の全商品カテゴリーでもプランニングツールを活用し、クリエイティブごとに適切な視聴者層を設計することで、効果が高いPDCA サイクルの確立を推進しています」(ユニ・チャーム 岡村達憲 グローバルマーケティング統括本部 eUC 推進部部長)
ピザハットでは約 3 倍のサーチリフト効果を実現
宅配ピザのピザハットも、YouTube 動画広告とテレビ広告を活用したクロスメディアの広告戦略で成果をあげたブランドです。宅配ピザは、特に関東圏で競合が多く、苦戦を強いられていました。
ピザハットのオンライン注文の男女比率は約半々、25 歳〜 44 歳がメイン。しかし、テレビ広告では想定していた層ではない 55 歳以上の女性層に多く接触してしまっていることがわかりました。そこで今回は、特に男性の 18 歳〜 34 歳に対するリーチ獲得の必要があると考え、さらに関東の店舗の 3km 圏内の商圏を対象に配信しました。
配信時期は、週末とお盆の時期にフォーカスし、TrueView インストリーム広告とバンパー広告で併せて配信。
YouTube のみが寄与した検索率の上昇を測定すると、広告接触者による「ピザハット」の指名検索が非接触者と比べて約 2 倍の伸びを示しました。また、YouTube とテレビをかけ合わせた検索リフトでは、YouTube はテレビの約 3 倍のブランド名検索の伸びを獲得しました。
「テレビ CM との比較で、YouTube 動画広告は 1.5 倍のリーチ効率があることがわかりました。昨年の YouTube キャンペーンと比較しても、より少ない予算で多くのリーチ人数を獲得しており、検索リフトをはじめとする態度変容で非常にポジティブな結果が得られたと考えています。GRP (Gross Rating Point : 主にテレビCMの効果測定指標。延べ視聴率)単価の高い関東圏では動画広告は非常に有効な手段ですね」(ピザハット 薮内浩平 課長補佐)
広告予算の最適配分にも貢献した JR東日本の事例
最後に紹介するのは広告予算の最適配分に貢献した、JR東日本「JR SKISKI キャンペーン」の事例です。1991 年から続く「JR SKISKI キャンペーン」は特に若年層へのスキー需要を喚起するキャンペーンで、これまではテレビ CM や 屋外広告(OOH)を中心にキャンペーンを展開してきましたが、近年のメディア接触環境の変化に鑑み、2017 年度より、YouTube 動画を活用しています。
Google は、「テレビ CM のサイト訪問効果の可視化」「分析を踏まえた投資配分でのキャンペーン設計」の 2 ステップで改善を進めました。XMR でキャンペーン期間中の想定していたリーチ効率を測ったところ、YouTube 動画広告のリーチ獲得効率が高く、メインの客層と考えていた 18 歳〜24 歳へ十分なリーチが獲得できることがわかりました。
2018 年度のキャンペーンでは、すべて YouTube 動画広告に移行。具体的には、検索データから想定する顧客層を探り、スキーの阻害要因や、「新規」対象者に刺さるメッセージ軸も分析しました。
分析によると、「スノーボードメインでの訴求」「近場・日帰りニーズあり」などが判明。「経験者と未経験者では刺さる訴求メッセージが異なることが判明。顧客ごとに訴求メッセージを出し分けることで、行動意向にポジティブな影響を与えることができる」「男女とも阻害要因で顕著だったのが『寒さ』。一方で、『健康意識』や『インドア』という言葉も見受けられる」といったインサイトから、「ゲレンデ飯」など、間接的な要素を通してスキーやスノーボード旅行の魅力を伝えることが未経験の新規顧客を獲得するポイントになると考え、ニーズごとのクリエイティブを作り分けて配信しました。
認知フェーズでは、想定していた視聴者全体に「スキーシーズン到来」「スキー & スノボ = JR SKISKIの認知」を促進することとし、検討フェーズでは、調査で判明したインサイトに沿う動画を複数作成、認知動画に接触した人に自分ごと化してもらうメディアプランとしました。
結果として、想定していた顧客へのリーチ率は認知動画で 83.3%、全動画で 86.4% を示し、リーチコストはテレビ CM だけのときと比べ、82% 改善しました。
また、キャンペーンサイト流入数が対前年比約 1.1 倍、キャンペーンサイトから予約サイトへの遷移は対前年比約 2.5 倍、そして、びゅう & えきねっと商品のセールスにも貢献しました。
「スキーやスノーボードは、年齢が若い時期に経験したほうがその後の参加率、持続率につながることが知られています。そのため、若年層にアプローチできる YouTube の活用で想定顧客へのリーチを高めることに成功しました。JR SKISKI は 30 年近くのブランド蓄積がありますが、ここ数年は狙っている顧客層の行動も、当社の販売体制もめまぐるしい環境変化に置かれています。今後も、Google のサポートを得ながら、デジタルマーケティングの拡大に取り組んでいきます」(JR東日本 和田佳史 営業部宣伝グループ課長)
Contributor::
インダストリー マネージャー 高柳岳士
アカウントマネージャー 新井伶佳
インダストリー マネージャー 三浦 朗子