生活者が利用するメディアの傾向は年々変化しており、若い年代ほど大きく変化しています。「平成 29 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(*1)」によると、10 代、20 代は、ネット利用時間がテレビ視聴時間を大きく上回っています(下図参照)。
このように、生活者の行動は、年代や興味関心ごとに大きく異なることがあります。デジタル広告を配信する際は、どんな年代の、どんな興味関心を持つ人にメッセージを届けたいのか、適切な広告メディア選択も、成功のためには重要な要素といえます。
私たち博報堂チームは、この記事でご紹介する株式会社ユーキャンと協働して、テレビ CM でリーチが難しい層に、「Google 動画広告シーケンス(バンパー広告や TrueView など複数の動画広告を組み合わせてストーリーをつくり、視聴者の興味関心を高める広告フォーマット)」で配信。その結果、動画広告を起点とした新規ユーザーのサイト訪問、資料請求・講座申込において、バナー広告と引けを取らない単価での新規獲得に成功しました。
どのような戦略を立て、工夫をしたのか、その成功のポイントを見ていきましょう。
テレビCMでリーチが難しい新規顧客、ネットで獲得へ
ユーキャンではこれまで、学びに潜在的な関心がある新規ユーザーへの認知拡大および行動喚起にはテレビ CM を活用しつつ、講座は受講していないが学びに関心があり、情報収集などの行動を起こす可能性がある見込みユーザーにはデジタル広告を活用し、デジタル広告の役割としてコンバージョン(資料請求、講座申込)重視のアプローチをしてきました。しかし昨今、テレビ CM ではリーチできない層が増えており、認知拡大および行動喚起へのアプローチにもデジタル広告を使うことを決断しました。
キャンペーン期のデジタル戦略は、以前より博報堂がコミュニケーション戦略を担当。テレビ CM などこれまでのコミュニケーション施策で培った知見を活かしながら進めていきました。
新たなデジタル戦略の目的は、単にデジタル広告のクリックによるサイト来訪や直接コンバージョン(資料請求・講座申込)を得ることだけではなく、これまでデジタル広告では計測できていなかった、広告接触後のユーザー行動や興味関心を計測・理解することです。そのために、KPI は従来の「サイト来訪」「コンバージョン(以下、CV)」に加えて、効果計測にCampaign Managerを活用し、動画広告への接触後の「ビュースルーによるサイト来訪」「ビュースルーによるCV」を計測。さらに動画広告視聴後の数か月間のサイト訪問・CV動向も計測することで、さらに多くのデータ取得を目指すことにしました。
多様なデータから最適な戦略を見極められるよう、また、これまでの顕在層向け広告との効果比較もできるよう、デジタル戦略を設計しました。
複数の動画でストーリーを組み立てる「動画広告シーケンス」で興味を喚起
今回、ユーキャンと選んだ広告フォーマットは、バンパー広告や TrueView など複数の動画広告を組み合わせてストーリーをつくり興味関心を高める「動画広告シーケンス」でした。同じサービスに関する動画を複数視聴してもらうだけでなく、説得力あるストーリーをつくることで、視聴者に強いインパクトを残す取り組みです。
効果的な動画ストーリーを組み立てるには、動画を届けたい視聴者を明確にし、その興味関心を分析することが重要です。ユーキャンでは、TVCM のコミュニケーションと連携して4 つの講座を選択し、各講座における視聴者の受講意欲を喚起する要素、つまり受講前の「もっと変わりたい」という変化欲求、受講中の「新しいスキルが身についている」という充実感、受講後の「受けてよかった」という変化を分析。それぞれの興味関心に響く複数の動画でストーリーを組み立てていきました。下記がシナリオ例です。
図:2019 年 1 月 YouTube動画による Google 動画広告シーケンス施策概要
各講座に興味を持ちそうな適切な視聴者に向けて動画を配信。第 1 動画でユーキャンと講座への認知を高め、第 2、第 3 動画と視聴を重ねることで視聴者の興味を喚起し、サイト訪問、資料請求、申込へと行動変化を促すよう設計・配信しました。
新規ユーザーのビュースルーによる訪問単価、通常の動画広告のクリック単価の10分の1以下
今回の動画広告シーケンス配信(2019 年 1 月 1 日~1 月 31 日)から、多くの成果と気づきが得られました。
まず、数十万の潜在ユーザーが動画広告の視聴後にサイトを訪問。第 1 動画のみの視聴者と、複数動画の視聴者を比較した結果、複数動画視聴者のほうが動画広告視聴後のサイト訪問率が数倍高い、という効果が確認できました。複数動画視聴の効果がもっとも高かった動画広告シーケンスでは、第 1 動画だけ視聴した人の動画広告視聴後のサイト訪問率を 100% とした場合、第 2 動画も視聴した人で 350%の上昇率 となっていました。
複数の動画をストーリーで見せることによる継続的な効果を確認するため、広告配信終了後も一定期間のサイト訪問を計測しました。結果、第 1 動画だけ視聴した人、第 2 動画も視聴した人、第 3 動画まで視聴した人の順にサイト訪問率は高くなっており、より多くの動画を視聴した人のほうが、高い訪問率を維持していることがわかりました。
広告配信終了後2 か月で検証した結果、動画広告視聴を起点としたビュースルーCPA(視聴経由となる資料請求・講座申込)が、従来のデジタル広告(ラストクリックモデル)と比べても引けをとらないCPAでCV獲得できました。
今回、動画広告シーケンス配信により、従来のデジタル広告(ラストクリックモデル)と同程度のCPAでCV獲得に至った結果を受け、ユーキャンでは今後も引き続き、動画広告シーケンスを活用し、さらなる成果拡大に向けて、どういった動画クリエイティブがどんなユーザーに響くのか、などデータを集めて新たな施策に向けて検討中です。
今後の展望について
今回の取り組みについて、株式会社博報堂 クリエイティブ戦略局 企画部 MDビジネスプロデューサーの武藤重近氏は次のように話します。
「今回、Google の動画広告シーケンスを活用して大きな成果に至りましたが、注意しなければいけないのは、単に複数の動画素材を順序立てて配信すれば良いということではありません。生活者のインサイトを読み解き、認知から行動喚起へと動画クリエイティブのシナリオを設計することが不可欠となります。そして、それを行うのは『テクノロジー』ではなく『人間』です。この施策でも最も議論を重ねたのが、動画クリエイティブのシナリオ設計の部分でした。今回の事例は、まだテストケースですので、今後もクリエイティブとテクノロジーの掛け算でさらなるマーケティング課題を解決していきます」
また、株式会社ユーキャン 教育事業部 ウェブマーケティング部の山口健太氏は「メディア環境の変化によって、昨今は若年層を中心に TVCM でのアプローチが難しく、以前から当社では動画広告を活用したマーケティング施策に取り組んでおります。今回、Campaign Manager を活用して、動画広告シーケンスの効果が可視化できたことで、動画広告への予算投下についても意思決定ができるようになりました。この結果をベースに、さらなる成果拡大に向け、クリエイティブはもちろんのこと、適切な配信パターン等について、積極的に検証を重ねていく所存です。こうした高度なテクノロジーの活用は、当社だけでは知見もリソースも限界があります。今後も博報堂様のような Google テクノロジーに長けたパートナーと共に、マーケティング強化に取り組んでいきたいと考えています」とコメント。
どんなに素晴らしい動画クリエイティブであっても、効果検証ができなければ意味がありません。我々が最も重視したのは“メジャラブル(効果検証が可能であること)”です。これまでは動画広告の視聴効果を可視化することが技術的に難しく、ラストクリックによる評価が主で、分析に苦戦したこともありましたが、Campaign Manager で動画広告の視聴効果が可視化できるようになったことで、効果分析や改善アクションの幅が格段に広がっています。動画広告シーケンスにおいても、動画クリエイティブ良し悪しだけでなく、シーケンス毎に配信方法を細分化し、データを起点にメジャメント×動画クリエイティブ×適切な視聴者の設計を適切にプランニングしていったことが今回の成功要因だと思います。今後も Google のテクノロジーを様々なプランニングに取り入れ、さらに新しい取り組みにチャレンジしていきたいと思っています。
Contributor:
株式会社博報堂 クリエイティブ戦略局 企画部 MDビジネスプロデューサー 武藤 重近氏
株式会社ユーキャン 教育事業部 ウェブマーケティング部 山口 健太 氏