
当社、大正製薬は医薬品や健康関連商品などを提供している製薬メーカーです。商品の特性上、安心感や信頼感を築くことが欠かせません。そのため、長らくメッセージを幅広く届けられるテレビを中心としたマスメディアによる商品認知の向上、ブランドイメージの強化を重視してきました。当社でマスメディアのバイイングを担ってきたのが「メディア推進部」です。
インターネットの普及に伴い、生活者のメディア接点は大きく変化しました。膨大な情報に囲まれる中で、関係のない情報、関与度の低い商品広告は生活者にとってノイズになる時代へと変化しました。
適切なタイミングで届けたい人に情報を届ける重要性が増す中、当社でもデジタル広告を重視するようになり、ブランドのコミュニケーションプランニングを担う「ブランドコミュニケーション部」がデジタル広告を管轄するようになりました。

しかし、マス広告を管轄する部署とデジタル広告を管轄する部署が別に存在することで、それぞれの部署ごとに最適化を図ろうとすると、チャネル別の改善は進む反面、会社全体で見ると投資対効果(ROI)の最適化が進みにくくなってしまいます。
そこで、会社として目指すべきゴールを共有して、部署間の目線を合わせた上で、ブランド戦略を中心に、メディアバイイングを担当するチームとコミュニケーションプランニングを担当するチームの統合的なメディアプランニングを進めていきました。
コネクテッドテレビへの配信から、統合プランニングを実践
上記のようなメディア接点の変化は、実際に広告パフォーマンスでも反映されました。
たとえば、ゼリー飲料「リポビタンゼリー」の主な購買層は M2 層(35 歳 〜 49 歳の男性)ですが、この層へのテレビ CM のリーチ効率が低下しており、デジタル広告を含めた統合的なメディアプランニングの必要性が高まっていました。
そこで、同商品のキャンペーンにおいて、ターゲットリーチを起点に Youtube 広告とテレビ CM を複合的に予算配分し、リーチの最大化を図りました。メディア推進部とブランドコミュニケーション部が連携し、テレビ CM と YouTube 広告を統合したメディアプランニング、広告効果測定に取り組みました。

統合メディアプランニングの導入にあたり、Google から最初に提案を受けたのがコネクテッドテレビへの広告配信です。コネクテッドテレビ広告であれば、デジタル広告でありながら、配信面としてはテレビなので、テレビ CM を主管とするメディア推進部にも受け入れてもらいやすいと考えました。
生活者によるテレビ画面でのデジタルコンテンツの視聴も増えています。REVISIO の調査によると、コネクテッドテレビでの YouTube の視聴時間は他の動画プラットフォームや放送局を上回っています(*)。こうした視聴態度の変化に合わせて、組織や予算編成のあり方も変えるべきではないかという議論もあり、テレビ CM と YouTube 広告の統合配信に向けた社内の機運が高まっていきました。
統合プランニングを進める上でまず着手したのが、リーチとフリークエンシーの最適化です。従来は「GRP(延べ視聴率)」を KPI に設定していましたが、世帯ベースの GRP では、リポビタンゼリーの購買層である個人へのリーチ効率は見えませんでした。そこで、改めて Google のクロスメディア リーチ レポートを使って顧客層別のリーチを確認したところ、テレビ CM では約 80% のターゲット外リーチが発生していたことがわかったのです。
これを踏まえて Google と共に、認知や態度変容、最終的な売り上げまで網羅的に ROI を検証するための統合的な配信プランと検証方法を設計し、効果検証については目的に合わせて以下の測定ツールを活用しました。

10.6% の売り上げリフトを確認、他ブランドに横展開するためのヒントも
検証の結果、以下の効果が得られました。
1:ターゲットリーチの規模拡大と効率化:M2 層で 有効フリークエンシーが 4 回以上のターゲットリーチは約 10% 増加。ターゲットリーチ単価はテレビ CM 単体のキャンペーンと比べて約半分に抑えられました。
2:テレビ CM と YouTube 広告の重複接触による効果:重複接触時のブランド助成想起はベースラインから 16 ポイント増、購入意向は同 13 ポイント増でした。
3:売り上げへの貢献:テストエリアでは、コントロールエリアと比べて 10.6% の有意な売り上げリフトを確認できました。
今回検証したのは、キャンペーン単体の効果だけではありません。中長期的に他のブランドにも応用できるポイントを確認できるように検証を設計しました。これにより例えば、統合キャンペーンにおいて態度変容(購入意向)を促すための「有効フリークエンシーは 4 〜 5 回」といった具体的な示唆も得られました。
そのほか、販売店率が十分でない時にテレビ CM を短期間で大量に投下すると、リーチが伸びても店頭で買えない人が増えて機会損失を生む可能性があることや、購買層ではない高齢者層で過剰にフリークエンシーが増加するといった懸念も明らかになりました。同じ予算を短期間で使い切るよりも、有効接触人数を継続して生み出せる長期的な投資設計の方が ROI 上有効ではないか、という仮説も得られました。
検証から見えた利用シーン「CEP」で、さらなるブランド成長の機会を探索
また今回の検証を通じて、これから統合キャンペーンに取り組む際に打ち出すべき「Category Entry Point(CEP)」が特定できたことも重要でした。
CEPとは、生活者の購買機会や行動機会において、ブランドが想起されるシチュエーションや利用シーンの数を増やして、ブランドへたどり着く確率を高めようとする考え方です。従来も顧客の利用シーンは想定していましたが、「なんとなくこの利用シーンで効果がありそう」というマーケターのセンスに頼る部分が大きかったのも事実です。データに基づいた科学的な検証を通じて、さらなるブランド成長に向けて必要な道筋を確認する必要がありました。
今回は、マクロミルの Accessmill Connected を活用し、競合ブランドの優位性などを踏まえながら「ブランド拡大の余地がある CEP」と「強調すべき商品の価値」を特定しました。
その結果、助成想起や購入意向度いずれの指標においても、CEP の保有数が多いほどスコアが高いことがわかりました。市場でのブランド浸透率を上げていくには、CEP の拡大が有効であることが、データでも裏付けられたのです。

リポビタンゼリーの場合、従来強化すべきと考えていた CEP は「疲労回復・疲れの予防」「残業や徹夜の仕事のとき」「日中の仕事のとき」といったシーンです。検証でもこれらの重要性は確認できましたが、加えてこれまで想定していなかった「集中したいとき」「眠気を覚ましたいとき」といった CEP でも想起率が高いことが明らかに。今回確認できた CEP ごとに、どんな商品の価値を強調すべきかも併せて分析を行いました。

今回の検証からは、リポビタンゼリーだけでなく他ブランドにも展開できる統合プランニングの示唆を得ることができました。これらの知見を社内に浸透させ、引き続き全社でマーケティング ROI の向上とブランド成長に取り組んでいきたいと考えています。