US 版 Think with Google が 2023 年 11 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
ほんの数年前まで、「マーケティング・ミックス・モデリング」(MMM)の重要性は薄れつつあるように思えました。多くの人が、MMM はデジタル化以前の時代の遺物で、実用的なインサイトを確認したり、打ち手を生み出したりする能力には限界があると考えていたのです。
しかし、最近の技術革新によって MMM はデジタル化のスピードに対応できるようになりました。これらの技術革新と、MMM のプライバシーに配慮した計測基盤や、あらゆるマーケティング支出を横並びで計測する機能とを合わせて考えると、MMM がマーケティング業界に明るい未来をもたらすと予想できます。
当社 Subway にとって、MMM はクロスメディアでの計測戦略に不可欠で、マーケティングとメディア投資の効果を評価するのに役立っています。これらにさらに磨きをかけ、ますます複雑化する生活者環境に対応し、適切に予算を配分できるように、私たちは Google とマーケティングコンサルティング企業の Ipsos MMA に協力を求めました(*)。その中で、私たちが学んだ 3 つのポイントを紹介します。
1:より細かなインサイトを収集する
現在デジタル広告は、媒体や広告フォーマット、デバイス、地域、入札戦略など細分化が進んでいます。そのためマーケターは、計測方法を単純化しすぎないように注意が必要です。Subway では、どのチャネルや広告フォーマットが最も効果的な投資になり得るかを把握し、多くの情報に基づいて意思決定をするために、より詳細なインサイトを得ることに改めて注力しました。
ありがたいことに、こうした情報を掘り下げることはかつてないほど簡単になりました。以前は不可能だった方法で、広告効果を左右する要因を理解し、新しいチャネルや広告フォーマットの役割を評価できるようになったのです。
Google および Ipsos MMA と協力することで、Subway はさまざまな種類のキャンペーンレベルのデータの影響を個別に確認するとともに、それらの分析結果を自社の MMM のモデルに統合しました。たとえば、TrueView 動画広告とバンパー広告を組み合わせると、TrueView 動画広告単独の場合と比べて投資対効果(ROI)が 2 倍になることがわかりました。また、一連の動画を指定した順序で配信する動画広告シーケンスを利用すると、YouTube 広告全体の平均よりも 20% 効果的であることもわかったのです(*1)。
かつての MMM では考えられなかったこれら効果計測の戦略と分析機能によって、Subway は個別のキャンペーンと全体像の両方を把握してマーケティング投資を適切に配分できるようになりました。
2:長期的な影響を考慮する
MMM は通常、広告の最初の露出から数カ月後の影響を考慮します。しかし、何年にもわたり複合的な広告効果を計測することはできるのでしょうか。予算が限られていると、マーケターは短期的な利益や広告効果を優先してしまいがちですが、ブランドの長期的な健全性を見失ってはいけません。
Subway は Google、Ipsos MMA と協力して、長期にわたって広告の影響を調べました。認知、検討、好意度などブランドの健全性を測る主要な指標を適用した長期効果モデルを実行したところ、デジタルへの投資がそれらの指標を高める効果的な方法だと明らかになったのです。そこで投資を戦略的に調整することで、同社のオンライン動画広告の広告費用対効果(ROAS)は 2021 年以降 1.8 倍に向上しました(*1)。
3:複数のデータソースを参照する
組織に意味のある変化をもたらす上で、データは不可欠です。私たちは、マーケティング戦略について十分な情報に基づいた意思決定を行い、フランチャイズ加盟店がより良い結果を得られるように、複数のデータポイントを参照しています。
たとえば、Google のリーチ プランナーで YouTube 広告と地上波テレビ CM のリーチとフリークエンシーを確認したところ、テレビ CM は YouTube 広告と比べて 1 カ月当たり 3.5 倍多くのターゲットオーディエンスにリーチしていたことがわかりました(*2)。このように相対的にフリークエンシーを把握できたことは、MMM の結果を定性的により深く理解する上で、非常に重要な役割を果たしたのです。
さらに MMM の分析では、コネクテッドテレビ(CTV)上での YouTube 広告が、他のデバイスと比べて ROI が 2 倍効果的であることもわかりました(*1)。これらのデータを基に Subway は、YouTube やストリーミングを含めたデジタル広告での露出を 50% 以上増やすことを決定。その効果は業績が物語っており、10 四半期連続で売上増を達成できました。
私たちはメディアプランにおけるテレビの役割を常に重視していますが、今回の分析で明らかになったデータは、他のチャネルと比較したテレビの貢献度をより正しく理解するのに役立ちました。
実用的な MMM には組織的な準備が必要
上記のようなマーケティング戦略を実行に移すのは、口で言うほど簡単ではありません。MMM に細かなインサイトを供給し、その測定結果に基づいて行動するには、大幅な組織変更が必要になることもあるでしょう。
これはまさに Subway が直面した課題であり、一歩ずつこの課題に取り組んできました。
まずは、KPI と計測戦略の関係者を調整し、一貫性と効率性について全員が同じ認識を持てるようにしました。一見簡単そうですが、部門間の連携を達成するのは困難な場合もあります。
たとえば、マーケティング組織全体の運用コストや効率性を評価する意思決定者もいれば、予算と効果の関係性を証明しなければならない意思決定者もいます。ビジネスにとって最善の意思決定をしたいなら、両者が目標を一致させ、計測とデータの重要性を信じる必要があります。両者が連携するためには、関係者が MMM の仕組みを理解し、懸念を払拭しなければなりません。MMM によってチームは何が実現できて何ができないのかを説明することが重要なのです。
私たちはまた、計測にはより包括的なアプローチが必要であることにも気付きました。以前は、従来型のメディアとデジタルメディアの計測や分析はそれぞれ異なるチームが担当しており、サイロ化されていました。そのサイロを打破したことで、これらのチャネルがどのように補完し合っているのか、より深く理解できるようになりました。
1 つのチームがあらゆる種類のメディアを評価するのは非常に複雑に思えるかもしれませんが、実際にはとてもシンプルです。メディアを問わず、ROI やトラフィック、収益を予算内で最大化するために何が最も効果的かを考えるのです。
Subway では、常に 1 つの問いに答えようとしています。どのようにメディアに投資すれば、フランチャイズ加盟店からの資金を還元できるのか、ということです。そして私たちは MMM 戦略を再考することで、その正しい答えに近づくことができました。
60 年の歴史を持つブランドとして、私たちは生活者のトレンドや消費行動が、特に若い世代で常に変化し続けていることを理解しています。MMM は今後も、パフォーマンスに影響を与えるミクロとマクロのマーケティング行動の変化を理解するのに役立つ、重要なツールになると考えています。