一見当たり前のようにも思えますが、「これまで踏襲してきたことを、現実の課題に合わせて変化させる」ことは、実際には容易ではありません。そのような場合、課題を明確に認識しつつ、一歩一歩着実に試しながら段階的に前進し、最終的に大きな変化を結実させるという一連のプロセスが功を奏することもあるのではないでしょうか?
今回は、上記のようなステップを実践することで、見込み顧客とのエンゲージメントを加速させたスカパー JSAT株式会社 (スカパー!) の取り組み例を紹介します。
スカパー!は、有料放送事業における老舗的存在です。近年、この領域への新規参入事業者の増加に伴い、市場は活性化しています。さらに、有料放送・有料コンテンツに対する受容性が高い潜在顧客である男女 20 代から 30 代の層における急速なデジタルシフトは明らかでした。
そのためスカパー!は、看板スポーツや大型音楽ライブといった「目玉コンテンツ」をフックとして、テレビCM を重視した加入促進のための広告コミュニケーションを進化させることが急務でした。
もともとスカパー!は、その事業の成り立ちから、テレビ放送局と深い関わりがありました。そのため、既存の広告メディア投資の配分をデジタルに切り替えることが事業判断として妥当なのかという、経営視点からの判断も同時に求められていました。そこで、まずは潜在顧客層を広げていくブランディング施策において、試験的にデジタルシフトを開始することを決定しました。
STEP1: デジタルシフトの試験的取組み - YouTube Googleプリファードでのリーチ拡大
最初の段階として、テレビCMと同じ映像素材を活用できる場として YouTube、なかでも視聴者からの支持が高いチャンネルに集中して広告を出稿できるGoogle プリファードを採用しました。Extra Reach を活用して、Google プリファードへの投資で潜在的な顧客層に効率的にリーチするシミュレーションに基づき、2017年9月から12月までの4ヶ月間に行った 17本のキャンペーンによって投資効果を検証しました。
その結果、男女 20 代- 30 代へのリーチ効率が改善され、YouTube 広告接触者において重要な中間指標である「関連キーワードの検索量の増加」が確認できました。また、テレビCMと Google プリファードの双方を実施したキャンペーンは、テレビCM のみを実施した場合に比べ、より多くの加入者を獲得できたのです。
STEP2:トライアル結果を組織横断的に共有
このレポートは、YouTube 動画広告を活用した結果を示すものとして、プロモーション部内にとどまらず、コンテンツを獲得する編成部署や営業、事業戦略部など、他部署に対しても共有されました。これにより、マーケティングにおけるデジタル領域への投資を積極的に行う必要があるということが、社内の共通認識として醸成されていったのです。
STEP3: YouTube のインパクトの追求のためのさらなる実験的配信
デジタルおよび YouTube を活用した広告の必要性に理解が深まる中、次のステップとなったのが、テレビの補完的なリーチに加えて、「YouTube 広告そのものでさらにインパクトを追求する」というテーマです。
このため、YouTube のカスタム アフィニティ ターゲティングによって、人々がさまざまな意図を持って情報を探しているマイクロモーメントを捉え、各潜在顧客層により支持・共感される YouTube 動画広告を展開することにしました。 ( 関連記事)
Google プリファードと同じく、当初から大規模に展開するのではなく、実験的配信により効果を見極めながら行いました。年末の音楽コンテンツ宣伝キャンペーンでは、「関連キーワードの検索量」が、比較対象である通常の TrueView 配信よりも 60% から 180% 増加したことが確認できました。
STEP4: 視聴者からより支持される YouTube広告展開への実践的応用
この実験的配信により、YouTube 広告は潜在顧客層に対して広くリーチできると判明しました。また、人々の興味・関心に合わせた動画広告メッセージを届けることで、より高い効果に結びつくことも可視化され、一歩先を見据えた広告キャンペーンへとつながりました。
それが今年 3 月から始まったプロ野球開幕施策であり、日本のプロ野球リーグの開幕に合わせて展開されるスカパー!のキラーコンテンツのひとつです。今回は、これまで蓄積してきた YouTube によるラーニングを最大限に活用することを意識して、潜在顧客内への「高いリーチ」と「より支持される広告メッセージ」を追求しました。
「野球好き」で「野球に興味がありそう」な人々に向けて、各球団ファンが視聴しそうなコンテンツごとに 12 種類の「推し球団」別にクリエイティブを準備しました。野球を好みそうな人に届けるだけでなく、さらに「球団・選手特有のコンテンツ」も掛け合わせることで、より支持され、共感を高めることを狙いました。
この施策は、YouTube の強みを存分に活かした広告配信手法とクリエイティブ開発のひとつと言えます。
スカパー!は、2018 年度の ブランディング領域における YouTube の投資を、前年度比の約 3 倍まで高め、投資全体における比率も 30% 程度に引き上げています。これはマーケティング展開に大きな変化をもたらすものでした。社内外のパートナーとの足並みを揃え、同じ方向に向かって変革を推し進めた結果と言えます。
これを成し遂げるために、明確な課題意識と施策を段階的に実施したスカパー!プロモーション部の取り組みは、マーケターにも多大な示唆を与えてくれます。
*初出時に掲載していた各動画は現在、表示期限が過ぎているため掲載を取りやめています。
**2022/02/22 22:00 記事を更新。初出時、「スカパーJSAT株式会社」の表記に誤りがあったため、文章を適宜修正しました。