みなさんは「ストーリーテリング」という言葉をご存知でしょうか? これは「伝えたい想いやコンセプト」を、それを想起させる印象的な体験談やエピソードなどの「物語・ストーリー」として伝えることで、聞き手に強く印象付ける手法のことです(*1)。広告にも「ストーリー性」を持たせることで信頼感や共感性を強めることができ、態度変容を促す効果が期待できます。
Google 動画広告シークエンスは、バンパー広告や TrueView など複数の動画広告を組み合わせることでストーリーテリングを実現できる新しい広告フォーマットです。
もちろん、従来通り 1 つの動画広告に複数のメッセージ(訴求)を盛り込みストーリー性を高めることも可能です。しかし長めの動画広告はスキップや途中離脱を考慮する必要があります。
ここでは、この機能を巧みに活用し、潜在顧客の行動意向の向上に成功した、楽天証券の取り組みと成功のポイントをご紹介していきます。
導入の背景
楽天証券ではこれまで、口座開設意向を持つ顕在層へのアプローチを検索連動型広告やディスプレイ広告で行ってきました。そしてビジネス拡大への次なるステップとして、「株取引や FX に興味はあるが、さまざまな理由で証券口座の開設に至っていない」いわゆる潜在層へのアプローチを模索していました。そこで、これまでとは違う新たな取り組みとして、動画広告シークエンスへのチャレンジを試みました。
動画広告シークエンスの設計で重要な視点
マーケティングを行う上で、「何を達成したいのか(目的)」の戦略策定、そのために「誰に対して(ターゲット)」、「どんなメッセージを(訴求ポイント)」、「どのように届けるのか(メディア選定)」の戦術策定は重要です。この考え方は動画広告でも同様です。
動画広告シークエンスでは、複数動画を組み合わせてストーリーを設計するので、特にこの戦術策定をしっかり練ることが重要といえます。
今回の目的は、楽天証券口座開設への行動意向度の向上です。ターゲット層は株取引や FX に興味はあるが何らかの理由で楽天証券の口座を持っていない潜在顧客です。訴求ポイントの選定では、何を伝えたいかではなく、何を伝えると行動意向が高まるのかを熟考しました。
訴求ポイント選定時の工夫
まずは、行動を起こさない理由を徹底的に洗い出すこと。そして、どういうインセンティブがあればユーザーは行動を起こすのかを考え抜くことです。その上で、訴求軸をブラッシュアップしました。
その際に、楽天証券がこれまでの広告施策データを基に、顕在層に刺さる訴求ポイントを特定し、次に Google サーベイを使って顕在層が評価する楽天証券の強みを調査しました。双方のデータを分析した上で、目的達成に適した複数の訴求ポイントを選定。
これらの要素をクリエイティブに落とし込み、バンパー広告 3 本と Trueview 広告 1 本を制作しました。
今回は Google がクリエイティブ制作にも協力し、これまでに実践してきた動画広告のデータ・知見と共に、効果的なクリエイティブの制作を進めていきました(*2)。
動画広告シークエンスを使って上記バンパー広告と TrueViwe 広告を 1)から 4)の順番でターゲットとなる顧客層(金融商品サービスへの興味関心・口座開設への行動意向がありそうと見込める層)に配信しました。その効果を正確に把握するため、比較コントロールグループ(動画広告シークエンスを視聴したグループと視聴していないグループ)を作り、並行して TrueView 単体の広告配信も実施して、それぞれの行動意向の数値を計測しました。
その成果は?
動画広告シークエンスと TrueView 単体での広告配信、それぞれの行動意向の変化を計測した結果、動画広告シークエンスを視聴した人は、TrueView 単体を視聴した人よりも楽天証券への「行動意向が +11.9% 高い」という結果になりました。
戦略・戦術を明確化し、それを達成するために必要な要素を徹底的に可視化する。そしてストーリー性を持たせて動画広告を配信することで、より強い態度変容を起こすことが可能になります。それだけでなく、動画広告の組み合わせを変えればその効果も可能性も広がっていく、新しい動画広告の使い方が示唆された事例といえるでしょう。
今後の展開~お客様からのコメント~
「当社では YouTube での広告配信について、ブランドや新サービスの認知向上を目的に検討することが多かったのですが、その配信方法やパターンについて、効果を相対的に可視化することが出来ていませんでした。
今回の検証で顧客の行動意向を高める配信方法について一種の勝ちパターンが見えたことで、今後はこれを指標として、さらにクリエイティブの内容をブラッシュアップしていくなど、一段上の検証に進めることが大きな前進であると感じています。」
楽天証券株式会社 土井 理輝氏
「ユーザー視点を重視することはマーケティングの基本ですが、サービスのコアバリューを明確に伝えユーザーに理解してもらうことは難しいケースがあります。例えば楽天証券にもサービスを利用することで得られる多くの「良さ」がありますが、それを広告で表現することには限界があると考えています。
今回はユーザーの状態に応じて、メッセージを分けストーリーテリングで伝えることで行動促進を高めるトライを行いました。結果としては予想以上のものが得られましたし、改善点も見つかりましたので更なるビジネス成長のために引き続き取り組みを強化していきたいと考えております。」
楽天株式会社 水谷 公輔氏、Rim Sojeong氏
左から、
水谷 公輔氏 楽天株式会社 ブランド&マーケティング戦略部 デジタルマーケティング戦略課 Paid Channel Group マネージャー、Rim Sojeong氏 楽天株式会社 ブランド&マーケティング戦略部 デジタルマーケティング戦略課 Paid Channel Group、土井 理輝氏 楽天証券株式会社 マーケティング本部 マーケティング推進部、小林 勉氏 楽天証券株式会社 マーケティング本部 マーケティング推進部 マネージャー