生活者の行動が変化し、ますます多様化する現代。ブランドからの不特定多数に向けた一方的で画一的なメッセージでは、もはや生活者の心に響きにくくなった時代だと言えます。
2018年5月に開催されたアドバタイジングウィーク・アジアにて、生活者の意図を捉え YouTube で効果的な広告キャンペーンを行うことで成果を収めた「明治 ザ・チョコレート」の事例を通じて、いま必要とされている広告プランニングを考察しました。
「ザ・チョコレート」のマーケティングチャレンジ
製造者がカカオ豆 (Bean) から板チョコレート (Bar) まで、一貫して手がけるスタイルを「Bean to Bar」と呼びますが、明治は「カカオに関わる人、みんなが幸せになる」ために「Bean to Bar / Tree to Bar / Farm to Bar」という流れで「Farm to Bar」の実現を目指しています。「ザ・チョコレート」はその取り組みを象徴する根幹となるブランドです。
日本におけるチョコレート文化の深耕に向けて、2017年度はこだわり層を対象とした「チョコレートの文化づくりに向けた理解深耕・拡張」、および準こだわり層・一般層を対象とした「売上拡大へ向けた露出最大化&トライアル促進」を進めてきました。
それぞれの生活者のニーズに適した価値のあるコミュニケーションメッセージを届ける視点
テレビCMとYouTubeの両輪の施策展開
一般の方に広く明治というブランドを伝えるには、テレビCM のリーチ力を活用することが前提となります。ここで重要になるのが、テレビの従来のリーチプランニング手法と、Google の最適予算配分シミュレーションツール、Extra Reach とを組み合わせて、リーチを最大化する視点を持つということです。生活者にメッセージを伝えるには、YouTube も合わせることがもはや不可欠となりつつあります。
一方で、生活者のニーズや興味がますます細分化している中で、それぞれのお客様に合わせたメッセージを届けるには、YouTube を主軸にした施策が有効です。ユーザーの視聴傾向のカテゴリごとに配信できるため、興味を持つ人をセグメントしてメッセージを届ける「セグメントリーチ」が可能になるためです。「ザ・チョコレート」では、「こだわり層」として「百貨店の食料品売り場で買う」、「良い物を選びたい」などの特徴を持つ人をターゲットとして設定しました。
目的に合わせ、テレビCM と YouTube の両方の特徴を活かした施策を展開することがますます重要になると考えています。
バレンタインデーに向けた取り組み
チョコレートへの関心が最も高まるのは、何と言ってもバレンタインデーでしょう。2018 年 2 月のバレンタインデーでは、「バレンタイン施策」と並行して、 「明治のチョコレートやカカオに対するこだわりへの理解を深める施策」を展開しました。
「バレンタイン施策」では、認知・拡散・共感を促すことを目的に、「バレンタインデーそのものの訴求」と「誰かにプレゼントしたいという気持ちを高めるギフトの訴求」を施策の中心に据えました。その結果、YouTube 以外のデジタルメディアも含むキャンペーン全体で、トータルのインプレッションが約 1.5 億、約 3,694 万人へのリーチ、視聴数が約 1,461 万、クリック数 (サイト誘導) が約 35 万という成果を得ることができました。
2018 年 2 月 バレンタインデーにおける “ YouTube ” プランニング
全体のキャンペーンの中で、重要な位置を占めたのが YouTube です。YouTube では、マスに広くリーチするための YouTube マストヘッドや TrueView に加えて、「チョコレートこだわり層」と「購入意向の強い層」というセグメントに向けた施策を 2 つ展開しました。
①バレンタイン施策
「チョコレートこだわり層」と「購入意向の強い層」のいずれに対しても、まず TrueView を配信し、次にバンパー広告を配信しています。その意図は、まず 30 秒の TrueView 広告でパッケージの強さを印象づけ、認知を高めることを狙ったためです。
従来の動画広告ではタレントを起用することが多いのですが、今回は、あえてパッケージを主人公にしました。その後、リマインドを兼ねたバンパー広告で、パッケージの色に対応した 8 パターンのメッセージ (「憧れです」、「笑顔でいてね」など) を添えて、「バレンタインに明治ザ・チョコレート」のナレーションとともにギフトを贈る気持ちを伝えました。
バンパー広告( 8 種類)
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter ビビッドミルク
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter エレガントビター
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter フランボワーズ
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter サニーミルク
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter ベルベットミルク
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter ブリリアントミルク
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter コンフォートビター
明治 ザ・チョコレート | #THEChocoletter 抹茶
その結果、以下のような成果を収めることができました。
バレンタイン訴求:YouTube TrueView インストリーム
視聴率:34%
視聴単価:6 円 (配信初期段階は 3円)
サーチリフト(The chocolateザ・チョコレートザチョコなど):451%
ギフト訴求:YouTube バンパー広告
リーチ:426万人
サーチリフト(The chocolateザ・チョコレートザチョコなど):125%
購入意向(The chocolateザ・チョコレートザチョコなど):6.3%
②チョコレートやカカオへのこだわりへの理解を深める施策
明治では、「Farm to Bar」の一環として「メイジ・カカオ・サポート」というカカオ農家支援活動を行っています。チョコレートに携わる人のみんなの幸せのために、こだわりのおいしい豆をアフリカの農家の皆さんに作ってもらうための支援活動です。「あなたが作ったカカオ豆で作ったチョコレート」ということを農家の方にも実感してもらうために動画を制作し、配信しています。YouTube TrueView インストリームで配信されたこの動画は、視聴率 55%、完全視聴率 44% という高い数字を記録しました。
また、エンターテイメント性の高い施策として、フード系 YouTube クリエイターの木下ゆうかさんとのタイアップ動画や、英語学習をサポートする動画を制作している YouTube クリエイターのバイリンガールちかさんを起用したタイアップ動画も展開しています。企業側からは伝えきれないメッセージを、YouTube クリエイターの視点から分かりやすく伝えることにより、「カカオからこんなふうにチョコレートが作られていることを初めて知った」というコメントが多数寄せられています。15 秒、30 秒といった尺では伝えきれない内容を伝えるという意味でも、クリエイターとのコラボレーションは効果的だと言えます。
まとめ
明治にとって、リーチを最大化するためにテレビと動画広告を併用することが、伝えたい人に届けるための第一段階であることは確かです。さらに多くの伝えたい人に届け、効果を最大限に高めるためにも、セグメントリーチ プランニングを活用して、それぞれの商品に興味を持つ人々にセグメントした広告配信を組み合わせ、最適化したメッセージを創りあげていくことが大切だと考えています。