広告投資の最適化は、広告主にとって最重要課題のひとつと言っても過言ではありません。Google でも、これまでデジタル広告の間接効果・直接効果の可視化など、さまざまな事例をご紹介してきました。今回は、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR 東日本)が「JR SKISKI キャンペーン」を通じて行ってきた、広告効果分析に基づく広告投資の再配分の取り組みを紹介します。
課題認識
JR東日本では、1991 年から若年層へのスキー需要を喚起する目的で「JR SKISKI キャンペーン」を実施しています。これまでテレビ CM や OOH を中心に広告キャンペーンを展開してきましたが、近年は生活者のメディア接触環境は大きく変化しています。生活者の 2018 年の 1 日あたりのメディア接触時間をみると、全メディア接触時間 396 分のうち、テレビは 144 分、デジタルメディア(パソコン・タブレット端末・携帯電話/スマートフォンの合計)は 199.6 分となり、デジタルメディアの接触は全メディア接触時間の 50.4% に過去最高になりました。*1
こうした生活者のメディア接触実態を踏まえて、テレビ CM を含めた広告メディアの最適なプランと予算配分を行うことを意識した取り組みを始めました。
STEP 1 : テレビ CM のサイト訪問効果を可視化
( 2016 年 12 月~ 2017 年 1 月)
Google マーケティング プラットフォームの TVアトリビューション機能では、キャンペーンサイト訪問データ、検索データをテレビ CM の視聴データとともに時系列分析することができます。そこで、2016 年 12 月からの JR SKISKI キャンペーンにおいて、 18 歳~ 24 歳を中心に、サイト訪問数を KPI として TV アトリビューション分析を実施しました。
結果として、テレビ CM 放映開始後にサイトへの訪問数が増加しているものの、サイト訪問の増加の理由は実はテレビ CM ではなく、プレスリリース後のニュースメディアや SNS からの訪問がほとんどであり、テレビ CM の投資対効果の改善余地が大きいことが分かりました。また、全業界の平均の指標と比べて、18 歳~ 24 歳のモバイル経由のサイト訪問シェアが低いことから、モバイル活用が進む若年層へのリーチをさらに拡大できる可能性も確認できました。
STEP 2 : 分析を踏まえた投資配分でのキャンペーン設計
( 2017 年 12 月~ 2018 年 2 月)
STEP 1 の分析を踏まえて、さまざまなキャンペーンにおける広告投資の最適化を目指している中で、 2017 年 12 月から実施したキャンペーンでは、期間中のサイト訪問数を高めることを主要KPIとしながらも、まずはそもそもより多くの若年層にリーチすることを目指しました。そして、テレビ CM とともに YouTube の活用を決定。Google のリーチシミュレーションツール「 Extra Reach 」の結果をもとに、テレビ CM と YouTube TrueView の投資配分を 5 対 1 に決定しました。クリエイティブについては、JR東日本発足30周年と絡め、公開30周年を迎えた「私をスキーに連れてって」と共同企画化。コミカルにアレンジしたコンテンツを YouTube 用に全 21 種類制作し、ウェブ上での話題性を狙いました。
YouTube では、今回のキャンペーンのコアターゲットである 18 歳~ 24 歳のうち、アフィニティ カテゴリの「旅行好き」に動画広告を配信し、広告運用結果をもとに 3 フェーズにわたって改善を進めていきました。
第 1 期
配信設定を調整し、認知率を検証。コアターゲットセグメント以外でも高視聴率かつコスト効率よく配信できていたことから、旅行好きなすべての年代に配信を広げました。
第 2 期
第 1 期の状況をふまえて TrueView アクション によりサイトの誘導を強化。60~80 % のサイト誘導率を改善しました。
第 3 期
より購入意向が強い層にターゲティングし配信。カスタムインテント・オーディエンスによって、「JR SKISKI 」「 JR スキー」のブランド名関連、「スキー 旅行」「スノボ 日帰り」の旅行関連、ゲレンデ関連、「かぐら スキー場」「スキー場 新潟」などのゲレンデ関連などの興味に応えることを想定した広告を配信しました。
結果
21 種類のクリエイティブの認知度と態度変容を計測したところ、購入意向率は、+16.2% という結果になりました。また、動画接触者と非接触者の検索数を比較すると、動画接触者のJR スキー関連キーワードの検索上昇率は +105.7% となりました。(*2)
また、テレビ CM に YouTube を加えた場合のインクリメンタルリーチが +5.6% となり、確実な増加リーチが見られました。また、YouTube 全体のリーチコストが テレビCM を 20% 程度下回っており、さらに年代別のリーチコストでみると、18歳~24歳はテレビと比較して 56.4% 低いという、効率の良い結果となりました。
今後に向けて
YouTube で 21 種類の動画クリエイティブを配信したことで、ブランド認知、広告想起、購入意向につながるクリエイティブの傾向も見えてきました。今回は映画「私をスキーに連れてって」を意識したクリエイティブであったことから、キャンペーン期全体では「私をスキーに連れてって」の検索キーワード数は昨対比で +197% で増加しています。リーチが広がった結果であるとともに、話題性のあるクリエイティブを制作できたことが要因です。コアターゲットの興味に寄り添ったクリエイティブを制作する重要性はますます高まっていきます。
今回の取組みでは、 STEP 1 でテレビ CM の効果と改善余地を特定し、 STEP 2 で Extra Reach を使って予算配分のシミュレーションを実施・配信した結果をブランド効果測定で検証しました。広告メディア投資の最適な予算配分とキャンペーン効果検証の PDCA のサイクルを回していくことでさらなる成果が期待できます。
「多くのお客さまにサービスを提供する私たちは、これまでマスメディアと交通メディアを中心に宣伝を組み立ててきました。しかし、車内はスマホを見て過ごす空間に変わり、テレビ番組も隙間時間にスマホで視聴する時代、年代を問わず媒体は今や OOH ならぬ「 In The Hand 」になったと感じます。一方で、無数に出現する WEB コンテンツから自社コンテンツを選択してもらうために、既存のメディアとどうミックスしていくか・・・、模索は続きます」
JR 東日本営業部宣伝グループ課長・深見真悟