スマートフォンの急激な普及などを背景に生活者のメディア接触が大きく変わる中、NTTドコモがマスを中心とした従来の手法から、マスとデジタルを組み合わせて効果的かつ効率的なマーケティングへの移行を目指して行ったいくつかの取組みについてご紹介します。
スマートフォンの普及により、携帯電話は通話やコミュニケーションの用途だけでなく、動画や音楽などのコンテンツやサービスを利用するためにも用いられるようになりました。それに伴い、携帯電話会社大手の NTTドコモは、音声通話を中心とした従来の通信事業に加え、コンテンツや、クレジットカードなど、携帯電話の契約以降のサービスを中心としたスマートライフ事業に比重を移しつつあります。事業ポートフォリオがこのように変化することで、マーケティングの目標もまた変わります。従来は回線契約を最終目標としたコミュニケーションを実施してきましたが、今後は、回線を契約しているドコモユーザーに様々なサービスの利用を訴求する必要が出てきました。
YouTube 広告の効果的な活用方法を模索する実験的な取り組み
生活者のメディア接触におけるデジタルシフトがが進みつつありますが、デジタルに取り組む必要性を認識しつつも、いまだ躊躇している企業は少なくありません。NTTドコモは、マスを中心としたコミュニケーションから、デジタルを統合した形にシフトするために、2015 年から 2 年間にわたり、3 つの取り組みを段階的に推進してきました。以下がその詳細です。
- 1st Step : 従来のマス中心プロモーションでの広告効果検証を実施
まず、従来のプロモーション手法の投資対効果を検証するために調査を行いました。これにより、TV の高いリーチ力を再確認できたと同時に、どの程度の投資で TV のリーチが飽和してくるのか、どの程度 TV のリーチに偏りが生じているのか( 過剰接触してしまう層がいる一方、充分な回数の接触ができない層もいる )等を分析。さらに、デジタルの投資配分を拡大することで、キャンペーン全体の投資対効果をさらに向上できるのではないかという仮説も浮かび上がってきました。
- 2nd Step : 特定の地域で YouTube を中心としたデジタル動画広告への投資を 15 %まで増加
次に、デジタルの効果をより明確に検証するために、ある特定の地域で YouTube を中心としたデジタル動画広告への投資を全体予算の約 15 % まで増加( デジタル : TV = 15 : 85 )し、同規模の予算で従来通りテレビ中心に投資( デジタル : TV = 1 : 99 )した地域と比較することで、デジタルシフトによるプラス効果を検証しました(図 1)。
その結果、TV 中心のプロモーションと比較してトータルのリーチを 7.3 pt 増やすことに成功( デジタル : TV = 15 : 85 のリーチが 90.4% であるのに対し、デジタル : TV = 1 : 99 のリーチが 83.1% )、デジタルでしかリーチできない層が確実にいることが確認できました( 図 2 )。詳細に分析したところ、若年層だけでなく中〜高齢層でも、一定数のリーチ補完ができることもわかりました。また、認知、内容理解、利用意向、好感度といった態度変容においても、デジタルの比率を 15% に高めたプロモーションのほうが、TV 中心のプロモーションよりも高い効果が得られました( 図 3)。特に、デジタルと TV が重複リーチした層で高い態度変容が見られたため、デジタルへの投資シフトによってこの重複リーチ層が格段に増えたことが、このエリアの高い態度変容に繋がったと考えられます。
図 1 地域別にデジタル比率を分けたキャンペーン
図 2 デジタル:TV 投資比率 1:99 と15:85 でのリーチ比較
株式会社インテージ i-SSP(対象:15-69 歳男女)
図3 デジタル:TV 投資比率 1:99 と15:85 での態度変容比較
株式会社インテージ i-SSP(対象:15-69 歳男女)各エリアのキャンペーン前後でのアップリフトを比較
- 3rd Step: 商材を変えて投資割合を 35% まで増加させて検証
最後に、商材が異なる場合、そして投資割合を約 15% よりさらに増やした場合にはどうなるのか、若年層向け商材で検証してみました。デジタル予算の比率を 35%( デジタル : TV = 35 : 65 )程度まで増やしたところ、過去の同規模プロモーションと比較して、若年層へのリーチが大幅に向上しました( 図 4 )。 同じ投資額でも、デジタル比率を高めることで投資対効果が向上したのです。
図 4 デジタル投資を 35%まで増加させた場合のリーチ割合比較
株式会社インテージ i-SSP(対象:15-29 歳男女)
実験的な取組みを推進し、着実な成果をあげるための秘訣とは
メディア比率には黄金比があるわけではありません。重要なのは、まず一歩踏み出してトライ アンド エラーを繰り返しつつ、それぞれの商材やキャンペーンにおいて仮説を立て検証しながら知見をを蓄積することです。上述したように、デジタルメディアの効果を既存メディアと並列した形で明らかにするためには、各担当者が緊密に連携しつつ課題や目的を共有して推進する必要があります。今回、NTTドコモでは、部門横断的なチームを立ち上げ、社内一丸となって推進したことで、短期間で着実な成果を挙げることができたと考えています。
2017 年 3 月に行われた d カードのキャンペーンでは、こうした継続的な取り組みによって培ってきた知見を全面的に活かし、デジタルを中心に統合的な PDCA を回す体制を構築しました。メディアのプランニングには Google の Extra Reach を活用し、TV とデジタル( YouTube動画広告 )の最適な投資配分をシミュレーション。投資総額が同じでも、デジタルの投資比率を 33% にした場合にリーチが最大化されるというシミュレーション結果をもとに、全体の予算プランニングを行いました。
図 5:各投資比率ごとのリーチシミュレーション(投資総額は全て同じ)
Google Extra Reach( 過去の TV キャンペーン実績に YouTube を合わせることによってリーチがどのように変わるのか、予算配分と共にリーチシュミレーションを行うことが可能なツール )によるシミュレーション。今回は対象を 20 - 50 歳男女とし、デジタル( YouTube TrueView )、TV の投資配分を入力し、リーチシミュレーションを実施。YouTube アプリのデータを含む
また、最上流であるインサイト発掘の段階からデジタルデータを活用し、デジタルを中心とした全体戦略とコミュニケーション設計を実施しました。そして、ビジネス目標と連動した形で、認知から獲得までの各段階の施策や KPI を整合させ、高い頻度でパフォーマンスを改善させた結果、目標を 30% も上回る d カードの申込みという大きな成果につなげることができました。
今後の展望
NTTドコモでは、今後さらにユーザーとのエンゲージメントを深めていくために、様々なタッチポイントで体験価値を高めるプロモーションを実施する必要があると考えています。このためには、マスを起点とするだけではなく、初期段階からマスとデジタルを統合してプロモーションを計画、実行することが不可欠だと感じています。
YouTube についても、リーチや認知を獲得するためだけでなく、ターゲットとの共感を深めるためにも活用し、それぞれのユーザーの視聴環境や状況に合わせた形で興味や理解を促すコミュニケーションに挑戦したいと考えています。