スマートフォンの浸透により、生活者のライフスタイルの変化は加速し、それに伴ってメディアやプラットフォームの使い方も変化と細分化が進んでいます。この動向は、日本におけるYouTube の拡大と変化 からも確認できます。企業のメッセージを人々に届け、その魅力を伝えるクリエイターは、このような環境にどう臨むべきなのでしょう。
その一つが、現在の生活者の思考や行動、そして利用するプラットフォームそれぞれの特徴を見極めたクリエイティブの展開です。 数多くの YouTube の動画広告を制作しているクリエイターの視点を通して、そのヒントを考察したいと思います。
1. まず、ストーリー。そして、各プラットフォームの役割を明確化
株式会社博報堂ケトルのクリエイティブディレクター / 編集者の石原篤氏は、サントリー「のんある気分」キャンペーンにて、テレビ CM と YouTube のオリジナル動画を連携したコミュニケーションを設計しました。 生活者がブランドと接触するたび楽しめるストーリーづくりのために、テレビ CM では広末涼子さんと秋山竜次さんが出演、YouTube では「テレビ CM の舞台裏」と位置づけた動画コンテンツを制作しました。このキャンペーンを手がける “クリエイター” や、広末涼子さんの ”マネージャー” に扮したロバート秋山竜次さんが登場するストーリーを展開しています。
「大事なことは、広告を単なる広告として制作するのではなく、魅力的なコンテンツとしてストーリー化すること」(石原氏) 。さらに、生活者は日常さまざまなプラットフォームに接触していることを踏まえ、テレビ CM では瞬間的なインパクトの醸成を狙ってストーリーを放映し、YouTube では「定期的に発信される番組」として公開を続けました。 YouTube をユーザーとの継続的なコミュニケーションの場ととらえ、どのタイミングで何を伝えるかについて、番組ごとに念入りに計画しました。たとえばある番組ストーリーでは、次に発売予定のスペシャルフレーバーの開発過程を話題にすることで店頭まで落とし込み、「テレビ CM ・ YouTube ・店頭」という一連の流れで繋がるメッセージを展開したのです。
- 生活者をとらえるために:広告を魅力的なコンテンツとして制作する( たとえば「定期的に発信される番組」)
- プラットフォームをとらえるために:各メディア単体で発信するのではなく、統合的な繋がりの中でそれぞれのメディアの位置づけを考える
2. 広告に当たればラッキー!偶然性を活かした逆転の発想
株式会社読売広告社のクリエイティブ局第 5CR ルーム所属アートディレクター / プランナーの星山知佳氏は、明治ポイフルのキャンペーンで、YouTube TrueView 動画広告自体を、「たまたま当たれば超ラッキー!恋が叶うかも!?」というメッセージを込めた「ラッキースクショ動画」として活用しました
冒頭から画面いっぱいに ”YOU ARE LUCKY” と表示することで、ターゲットである10代女性の好む「偶然による幸運」を演出し、興味を引きました。さらに、「ラッキースクショ動画で『LOVE』が表示された瞬間をスクリーンショットしたら、恋が叶うかもしれないよ!?」というメッセージで、「SNS に共有したい」願望も刺激。特に若い世代を中心に、スマートフォンでのスクリーンショット撮影が浸透している状況を反映して、この画像は数多く Twitter に投稿され、話題化に成功しました。
「通常、どうすれば広告を見てもらえるかという点に注力するが、今回は発想を変え、視聴者が『広告を見ることができてよかった』と思えるよう設計した。テレビ CM の場合は、基本的に同じ時間に誰でも同じ CM を視聴するが、TrueView 動画広告は、いつどこで誰が見るかわからない。この特徴を活かし、『たまたま見られてラッキー』という環境を演出した」(星山氏)
- 生活者をとらえるために:生活者インサイトに寄り添ったスキップしたくなくなるようなメッセージと、生活者の習慣的な行動に合わせた仕掛けづくり
- プラットフォームをとらえる:偶然性を逆手に取り、「広告を見たくなる」環境を整備
明治 ポイフル
「LOVE」をスクショすると恋が叶う⁉ひみつの合言葉で見られる激レア「ラッキースクショ動画」公開!
3. 飽きさせない。短尺だからこそ、できる工夫
星山氏は、NTTコミュニケーションズのOCNモバイルが提供する 格安SIM カード のキャンペーンも担当しました。このキャンペーンでは、モバイルでは短い動画が受け入れられやすいという傾向を意識し、「バンパー広告」を活用しています。
「リーチ効率にすぐれたバンパー広告は、生活者が同じ広告を何度も見る可能性がある。しかし、短いとはいえ何度も同じ広告を目にすると、『また同じ広告か』と思われてしまう」(星山氏)。 そこで今回は、短いからこそ可能となった豊富なバリエーションを展開しました。
一方、訴求メッセージとしては、さまざまなブランドが存在し競争が激化している 格安SIM カードカテゴリーにおいて、生活者に数ある選択肢から安心して選んでもらえるよう、「NTT グループだから安心」というワンメッセージに絞り込みました。「なぜか安心する」というメッセージを、動物界きっての癒し系で、どう猛な動物ですら心を許すというカピパラを起用。そのカピパラのさまざまなシーンを撮影し、最終的に 20 種類ものバンパー広告を制作したのです。ユーザーが同じ商品ブランドの広告を複数回見ても、飽きることなく楽しく興味を持ってもらえ、最終的に確実にメッセージを伝えることができる結果となりました。
- 生活者をとらえる:わかりやすいワンメッセージで魅力を訴求
- プラットフォームをとらえるために:短い動画を好むスマートフォンユーザーに合わせた短尺動画広告と飽きないバリエーション
NTTコミュニケーションズ OCNモバイル#なぜか安心する『カピまる(´ω`)6秒劇場』 | OCNモバイルONE #カピバラ好きな人と繋がりたい)
変化し続けるメディアとプラットフォームの特徴を見極めた 3 つの事例をご紹介しました。上記の事例の考察を通して、生活者とプラットフォームの特徴をとらえたクリエイティブのポイントを、これからの広告展開にぜひお役立てください。