2020 年 11 月ごろから新型コロナウイルス感染症が再び拡大し、年が明けた 2021 年 1 月 7 日に、1 都 3 県に緊急事態宣言が出ました。最初に 7 都府県で緊急事態宣言が発令された 2020 年 4 月 7 日の翌週から週単位で聴取し続けている「生活動向に関する週次調査(*1)」の直近の結果も踏まえて、その動向を探ってみましょう。
なお記事中では、前回と今回の緊急事態宣言直後の 1 週間の結果を比較、紹介している点があります。具体的には、前回は 2020 年 4 月 11 日〜 17 日の動向を 4 月 17 日に、今回は 2021 年 1 月 9 日〜 15 日の動向を 1 月 15 日に調査しています。また、2020 年 4 月と 2021 年 1 月の緊急事態宣言の違いが調査結果にも表れています。
年明けに前向きな気持ちは上昇、でも不安は横ばい
今回の緊急事態宣言直後における生活者の「感染不安」と「予防行動」は、宣言が出る前の 2020 年 12 月や 2021 年 1 月第 1 週の結果と比較して、大きな変化は見られませんでした。今回の緊急事態宣言が、年末からある程度想定できていたことが理由の 1 つと考えられます。
そこでデータを少しさかのぼってみると、調査開始から第 28 週(10 月 17 日〜 23 日)と 第 29 週(10 月 24 日〜 30 日)が、今の生活者の動向につながる分岐点であったことがわかりました。特に「感染に対する不安」や「生活に対する不安」が、ここを境に上昇に転じました。また、感染不安は予防行動を引き上げ、生活における「不安な気持ち」と「前向きな気持ち」は拮抗するようになっています。ちょうど欧州での感染再拡大が報じられた時期で、10 月 25 日には感染者数が世界で 50 万人を超えました。日本でも、年末年始の行動指針が発表された頃です。この時点から、生活者の動向に新たな変化が生まれ、今に至ります。
感染不安と予防行動(全国)
生活・暮らしにおける前向きな気持ちと不安な気持ち(全国)
ただしその内訳を詳しく見ると、違いも見えてきます。今回の調査で注目すべきは、1 週間前の調査と比較して、生活・暮らしにおける「前向きな気持ち」が大幅に上昇(+12.6)したことです。その一方で、上昇傾向にあった「不安な気持ち」は横ばいでした。
「前向きな気持ち」の構成要素の中でも、「楽しみたい」「充実させたい」という項目が顕著に上昇しています。気持ちの奥底にあるぬぐい切れない不安の中、お正月気分が一段落し、2021 年をよくしていこうという気分を象徴しているのか、もしくは緊急事態宣言が出たことで安心した可能性も考えられます。実は前回の緊急事態宣言の際にも、前向きな気持ちは高い数値で推移していました。制限のある環境下でも、よりよく生活していこうとする気持ちは、今回も同様の傾向を見せています。
このように人々は、前向きな気持ちと不安な気持ちが並存した状態で、 2021 年を迎えたと言えそうです。このトレンドがそれぞれどのような要素に起因しているのかを見ていきましょう。
前回よりは、満足のいく生活環境
前述のとおり、前向きな気持ちの要因には、新年であることが大きいと考えられます。と同時に、今回の緊急事態宣言下では、どのように過ごしていけばいいか、自分なりの答えや手段をもっているから、ということも考えられます。
たとえば「余暇」や「買い物」に対する満足度は、直近の週とその前週はほぼ横ばいで、前回の緊急事態宣言直後を上回る結果が出ています。また第二波が伝えられた第 16 週(7 月 25 日〜 31 日)と比較しても、昨年末から今年にかけては比較的満足度が高いことも特筆に値します。「余暇」や「買い物」については、ある程度心理的に対処の目処が立っている表れではないでしょうか。
生活満足度(全国)
余暇の満足度が高い理由の 1 つに、デジタルプラットフォームの利用が進んでいることも挙げられそうです。1 月の緊急事態宣言直後の週を比較すると、前回と比べて、今回は有料動画配信サービスや SNS、スマホゲームの利用が顕著に高くなっています。全国的には、DVD やブルーレイディスクの視聴が減少し、無料動画配信サービスの視聴が増えました。年末年始の期間中に、家族で楽しんだという人も多いかもしれません。
直近 1 週間に行ったメディア・動画・ゲーム・趣味
買い物の満足度が高かった背景には、EC へのさらなる慣れが挙げられるでしょう。夏場に多少利用が減っているのはいわゆる夏枯れかもしれません。秋口に感染不安が高まると、それと関連するように EC での買い物が活発になり(年末年始は除く)、直近の週では推移が最も高い水準にまで上昇しています。特に 1 都 3 県における直近の結果では、食品や飲料を EC で買った人が 34% を超えており、これは前回の緊急事態宣言直後と比較すると、6 ポイント上昇しています。EC 利用の慣れに加え、寒い時期だったことも重なって、この満足度につながったのでしょう。
今回の緊急事態宣言は、前回のそれよりも経済活動の制限が緩やかで、不自由さが少ないことも考えられます。1 都 3 県においても、16% が「ショッピングモール・百貨店での買い物」をしたと回答。これは、前回の緊急事態宣言後の 1 週間で 3% だったことを考慮すると、高い数値と言えます。
オンライン活用: 買い物(全国)
「食事」の満足度は、「余暇」や「買い物」の満足度と比べると、相対的に低く推移しており、直近では 101.9 と、前回の緊急事態宣言後の 1 週間をわずかに上回る程度です。忘年会や新年会の自粛など、外食制限がその大きな要因の 1 つとなっているのは間違いないでしょう。
しかし、1 都 3 県における前回と今回の緊急事態宣言直後の結果を比較すると、外食経験は 18% と 2 倍に増加し、代替手段にもなるネットやアプリでの宅配の利用も 8% と、同じく 2 倍になっています。年末年始はイベントごとが多く、家族が家にいる時間が長いことも影響しているかもしれませんが、そのほかスーパーやコンビニのお惣菜に頼る傾向も強まるなど、自炊以外の選択肢に幅が出てきていることも確認できました。
直近 1 週間の食事用意方法:平日(1 都 3 県)
「孤独」と「外出二極化」にどう臨むか
では、「不安な気持ち」につながる要因についても考えてみましょう。「不安指数」を構成するいくつかの調査項目について、前回の緊急事態宣言直後と直近の結果で比較してみると、1 都 3 県では「人とのつながりが希薄になること」「会いたい人に会えないこと」の上昇が顕著です。一方で、「自分や身近な人間の感染に対する不安」は、感染者数が急激に増加しているにもかかわらず、あまり大きな変化は見られませんでした。
自分なりの感染対策をし、感染に対してある程度覚悟はしているが、人と会えない、コミュニケーションができないことに対する納得できる解決策は見つからず、その寂しさが不安につながっているようです。
新型コロナについて自身を不安にさせていること(1 都 3 県)
外出自粛下で離れた人との会話手段として「電話・メール・メッセージ」や「ビデオ通話」を利用する人は、前回宣言直後と比較し、直近では減少しています。また、話題になった「オンライン飲み会やお茶会」も、直近では前回の半分程度となっています。次回の調査以降、どのような傾向になるかはまだわかりませんが、これらツールの浸透だけでは、孤独の解消には完全に対応できないことを指し示しているのかもしれません。
次に、外出傾向を見てみましょう。前回の宣言直後の結果と比べると、直近では、平均して平日の外出時間が 56% 増加し、休日では 76% も長くなっていることがわかりました。また分析の結果から、外出時間のバラツキが増していることもわかります。いつも外出している人はより外出しており、自宅に留まる人はより外出しない傾向が見て取れます。仕事やその他のさまざまな理由で外出に慣れているほど、外出に対する心理的ハードルが下がる可能性も考えられますし、逆に外出しないことに対しての慣れも影響するかもしれません。
また、新型コロナウイルス感染症に関連する情報を入手する手段にも変化が見られます。たとえば前回の緊急事態宣言直後と比較すると、テレビからの情報収集は同程度を維持していますが、「ニュースサイト・アプリ」からの情報収集は減少しています。それに加えて「政府・自治体から発信される公式情報」や「専門家から直接発信される情報」も低下していて、参考とする情報源の数が少なくなっているようです。これは、感染者数を中心に関連ニュースが毎日決まって報じられる状況への慣れや、個人が取り得る予防行動を変化させる新情報はないと感じていることなど、いくつかの要因があり得ます。しかし結果として、積極的な情報収集行動は減少傾向にあり、漠然とした不安の 1 つの要因として挙げられます。
情報収集で利用している情報源(全国)
移り変わる生活様式——過渡期となる 1 年か
2020 年 11 月以降の週次トレンドや、前回と今回の緊急事態宣言後 1 週間の調査結果の違いを見ることで、生活の変化の中で新たな手だてが見つかり、特定の分野ではある程度適応できていることもわかりました。その一方、なかなか有効な手段が見つからず対応に苦慮していることもあるようです。
今回と前回の緊急事態宣言は内容が異なってはいるものの、自粛生活に対して準備ができている点は満足度や前向きな気持ちに、準備ができていないところは不安な気持ちに結びついていることが見て取れます。
拡大傾向の感染者数は、現在も予断を許さない状況です。そのような中、人々の意識や動向は、同じように見えていても、実は時間の経過とともに変化しています。その変化にどう向き合い、いかにして新たな解決のための手だてを社会に提案していけるかが、私たちそれぞれに求められているのではないでしょうか。
そのような変化を把握していくためにも、2021 年も引き続き、週次調査やその他の関連した調査、分析を実施し、その結果と読み取れるインサイトを共有していきます。