2020 年、人々を取り巻く環境と行動に対し、新型コロナウイルス感染症に対する「感染不安」が大きく影響を与えました。調査結果では、新規陽性者数の推移と比例して感染不安もピークに達し、新規陽性者数と感染不安が最初のピークを過ぎて減少すると、「予防行動」もそれを追う形で減少。その後 10 月から再び感染が拡大するにつれて、感染不安の高まり、予防行動も増加しました。
* 2021/01/25/ 11:00 記事修正 記事初出時、画像で示した「予防行動」のデータ及びそのグラフ表記に誤りがありました。読者や関係者の皆様にお詫びいたします。
こうした新規陽性者数の増減に伴う「予防行動」の変化は、景気動向やビジネスの四半期単位、季節などとは異なるサイクルで生活者の行動に影響を与えます。例えば「エアコン」の検索が昨年とは異なるタイミングで盛り上がったり、お正月に向けた「おせち」の検索が昨年より早い段階で上昇傾向になったりしています。これらは、モノの選び方や時間の過ごし方、買い物の基準が変化していることを示しており、従来のビジネスにおける繁忙期や商戦期にも影響を及ぼすものと言えます。
今回は、Google トレンドでの検索量の推移(*1)と「生活動向に関する週次調査(*2)」から 1 年の変化を振り返り、変わりゆく環境で生活者の関心に寄り添ったビジネスを展開するためのアイデアを 5 つ紹介します。
「プロジェクター」「マッサージ機」に見る新しい心地よさの基準
はじめは感染リスクを回避するために取っていた行動が、時間が経つにつれて新しい行動基準となり、より多くの人々がそれを共有するようになりました。その結果、新たな基準のもとで従来の楽しみを再現できる手段を模索している様子が見えます。
検索動向「プロジェクター」
例えば、「プロジェクター」というキーワードの推移からも読み取れるように、他人と一定の距離を保てる空間に心地よさを感じる人が増えました。映画を見るにしても、人が密集する可能性のある空間を避けながら、自宅で大きなスクリーンで楽しむといった行動変化が現れていると読み取ることが出来ます。「プロジェクター」は新規陽性者数が増え始めた 3 月末頃から検索量が大きく増加し、前年同時期と比較して検索量の多い状態が続いています。家の中でも映画館のような臨場感を味わいたいと考える人が増えていることが予想できるでしょう。
検索動向「マッサージ機」
「生活動向に関する週次調査」で生活・暮らしにおける気持ちの推移を見ると、不安な気持ちが高まっている 7 月〜 8 月の期間でも、前向きな気持ちは一定の強さで存在していました。困難な状況でも、次第に対処の仕方を見つけたり、新たな生活環境に慣れたことで、前向きな気持ちを維持できているのかもしれません。
「ポッドキャスト」「ラジオ」の検索量が増加、“ながら聴き”などのライトコンテンツに注目
感染状況の確認や予防行動の徹底、子供や高齢者のケアなど、日常的に注意を払うべきことが増えたことへの影響でしょうか。集中せずとも「ながら」で気軽に楽しめるライトコンテンツの需要が高まりました。
検索動向「ポッドキャスト」
検索動向からは、「ながら聴き」できる音楽や音、人の声に対する需要の高まりが見られます。
音楽配信サービスや環境音、ラジオ、ポッドキャストといったキーワードへの関心は高く、外出制限が全面的に解除された 6 月中旬以降も「ポッドキャスト」「ラジオ」の検索量は昨年同時期よりも高い水準のまま定着しています。ラジオへの関心の高まりは、地域における情報がより一層求められている今、その価値を見直した人が増えたのではと推察できます。「音声アプリ」の検索量の増加からも、スマホや PC の画面を見ずに、寝転がったり目をつぶったりしながらリラックスした状態で楽しめる「音」の価値が再認識されていると考えられるでしょう。
検索動向「ルームフレグランス」
「生活動向に関する週次調査」からも、音楽配信サービスは他のデジタルコンテンツより著しく利用率が伸びていたことが分かりました。視覚を刺激するコンテンツだけでなく、聴覚や嗅覚を揺さぶるような省エネでライトなコンテンツに対する興味が高まった 1 年でした。
「ソロキャンプ」「観葉植物」──余暇に解放感を
気ままに外出できないという経験が、屋外で時間を過ごすことや、反対に居住空間での価値の見直しにつながりました。
まず外での時間の過ごし方として、自由で自律的な活動への取り組みが増えました。例えば、「ソロキャンプ」「キャンプ場」の検索が増加。同じく「グランピング」「コテージ」などの検索も増えており、より手軽にキャンプの楽しみを味わいたい人も多くなっているのでしょう。自分で行き先や移動手段を決め、自然の中を探索して食事を準備するなど、非日常的な体験や自らの工夫や努力を通して達成感を得られる活動への興味が増していると考えられます。もちろん感染対策やそれに伴い行動範囲が狭くなったことも理由の 1 つでしょうが、外出自粛と行動制限に対する反作用として、換気などを気にせずに過ごせる屋外という環境と、自分を試せる活動、解放感を感じる場所への注目は高まっていると言えるでしょう。
検索動向「ソロキャンプ」
余暇の満足度
さらに 5 月の緊急事態宣言解除や、9 月のシルバーウィークなど、外出制限の解除や連休を機に、余暇に対する満足度が高まっています。従来のような余暇の過ごし方ができない中でも、外出に新しい価値を見出している人や、居住空間での楽しみ方を工夫した人が増えたと考えられるでしょう。
「マットレス」検索や YouTube で「ヨガ」──日常に心身のケアを
生活習慣のゆがみを自覚し、マイナスから元の状態に戻す動きや、心身の健康を細かく継続的に見つめる意識の高まりが見られました。
「マットレス」や YouTube 検索での「ストレッチ」「ヨガ」というキーワードは、感染不安の高まりと共に検索量が増加し、高い推移を保っています。ここからは、移動時間が減って自分の時間が増えたことで、日々のルーティンを見直し、今までに疎かにしていたストレッチやトレーニングに注目したと読み取れます。
検索動向「マットレス」
YouTube 内検索動向「ストレッチ」
また生活スタイルの変化をきっかけに、心と身体の両面で「日常的な健康状態のチェックの積み重ねによる対処」という継続的な健康管理への意識の高まりが見えます。健康診断や人間ドックに代表される「一度の診断に基づく一時的な対処」だけに頼らず、自身の健康を管理しようとする変化が伺えます。「体重計」や「体脂肪率」などの検索数の上昇がわかりやすい例です。
「スマートウォッチ」や「体組成計」などのデバイスで身体の状態やバイオリズムを把握して、具体的な指標を自ら定め、より健康な状態を目指したいという意識が高まっていることがわかります。
外出を控えて室内で過ごす時間が長くなった経験が、健康について改めて考えるきっかけになったことは容易に想像できますが、それは健康状態に対する不安を払拭するための消極的な行動だけではありません。自分の身体機能や健康意識を高めようとする積極的な実践を呼び起こしていたことにも注目したいと思います。
上のグラフを見ると、感染拡大を受けて「前向きな気持ち」全体は下がっています。しかしその中身を細かく要素分解すると、「前より良くしたい」「充実させたい」という意識は上昇していることがわかります。こうした傾向が健康面への意識の変化にも表れていると言えるでしょう。
父の日、母の日、敬老の日の「ギフト」検索増──身近な人に感謝、あらたまった機会をもっと大切に
人と対面する機会が減ったことで、家族や親族、友人といった親しい間柄での気持ちの伝え方やコミュニケーションにも変化が見られました。
例えば、「母の日 ギフト」や「父の日 ギフト」などの伸びからもわかる通り、イベントごとでギフトを送ることをきっかけにコミュニケーションを取る機会が増えているようです。敬老の日(9 月 21 日)の直前には、「敬老の日 ギフト」の検索が前年比で 5 倍以上増加しました。今までは照れくささから伝えられなかった感謝の気持ちを、イベントを口実に伝える人が増えているのではないでしょうか。
検索動向「敬老の日 ギフト」
また「オンラインギフト」の検索も緊急事態宣言下で大幅に増加し、高い検索量の推移をキープしました。従来のようなお祝いや感謝を示す場が減ってしまったことで、改めて大切な人に想いを伝え、つながる手段としての需要が高まったのかもしれません。
検索動向「オンラインギフト」
下のグラフを見ると、家族の健康を心配する気持ちは、感染不安の高まりや感染拡大の状況に関わらず、高い状態が続いていることがわかります。つまり、常に家族の心配をしていたわけです。
人との接触や移動が制限された中では、離れて暮らす家族や友人と「会おうと思えばいつでも会える」ことは当たり前ではなくなりました。そして対面によるコミュニケーションの機会が減ったことで、人々は今までとは異なる方法によって積極的なコミュニケーションを取るようになったと言えるでしょう。
Google トレンドに見る生活者の原動力、新たなビジネス機会のカギ
今回は、11 月までの Google トレンドから見えてきた人々のニーズの変化を追いかけながら「生活動向に関する週次調査」を参照することで、その変化の原動力を読み解きました。
安全安心、心地よさ、癒やし、解放感、心身の健康、人とのつながりなど、生活者が本質的な価値を追い求める「ホープ=原動力」。そのホープの表れとしての実践や行動が見ることで、従来とは異なる商品やサービスの捉え方も見えてきました。
- 感染リスクを回避する中で生まれた心地よさ、その基準に合った活動
- 人との接触を避けた空間で、安心して楽しめるサービスや商品への関心の高まり
- 気軽に楽しめる、癒しが得られるコンテンツや商品への注目
- 自分を試せる活動や、解放感を感じる場所に対する興味
- 心身の健康を保つルーティンの見直し
- 健康に対する一時的な対処から、継続的なモニタリングへのシフト
- 親しい間柄でより積極的なコミュニケーションを取るための工夫
これからのビジネスや生活を捉える上で、「生活動向に関する週次調査」で紹介しているような時系列の指標データを用いることはとても有効です。記事では Google トレンドのデータを掛け合わせて分析をしましたが、これに限らずさまざまな情報を組み合わせて分析をしてみることで、生活者の関心や興味の変化にマッチした商品やアイデアを生み出すきっかけになるでしょう。
Contributor:
アナリティカルリード 本多隆虎