デジタルにより購買行動が変化し、個人旅行商品の購入においてもデジタルチャネルは重要な位置を占めています。
1905 年に創業し、日本国内でも長い伝統のある総合旅行会社の日本旅行は、2005 年ごろに検索広告に積極的に取り組みはじめました。
これまで、「赤い風船」をはじめとするパッケージツアーの販売に強みを持っていましたが、チャネルとしてのインターネットが台頭し、お客様が自由に行き先を決めて自由に行動する個人旅行に市場のトレンドがシフトしていくなか、お客様のニーズに合わせる柔軟性と、旅行会社としての「提案力」を両立させるために、2008 年にはデジタル広告の専門部署、 ICT営業推進部を設置。デジタルへの投資を積極的に行い、デジタル部門の体制を強化することで、それまで部署単位で行っていたデジタル広告配信を一元化しました。
日本旅行 営業企画本部 ICT営業推進部 Webマーケティングチーム マネージャーで、筆者の佐野正樹氏
それ以来、検索広告の運用に当たっては、コンバージョンにつながる検索クエリ(検索語句)を絞り込むことで効率的に運用してきましたが、「旅行業界 3 ~ 4 位の当社が競合に埋もれないためにはどうしたらよいか」との危機感がありました。ユーザーが旅行商品を選ぶ際、「ネットで検索、購入することは当たり前」の状況で、「検索広告でできるだけ多くの見込み客をサイトに連れてきたい」という思いが現場には常にあったのです。しかし、検索広告に取り組みはじめてからの数年は、そうしたビジネス課題の解決よりもむしろ、検索広告を自社で運用するための体制づくりが急務でした。
こうした状況で、2019 年、 Google から新たな広告の運用指針の提案を受けました。日本旅行ではこれを導入することで、キーワードの「裾野」を拡げ、コンバージョン(CV)数の増加、獲得単価( CPA )の減少を両立させるだけでなく、これまで拾えていなかった検索語句をしっかり捉え、そこに投資を行う「予算の最適配分」が可能になったのです。つまり、長年の課題でもあった「より多くの売上につながる見込み客の拡大」と「獲得効率の最適化」を両立する投資もできるようになったわけです。
「取りこぼしている検索語句はないか」──課題に応える運用とは
CV の取れるキーワードに絞るこれまでの検索広告の運用方法は、効率的である反面、運用担当者としては「これで正しいのか」「取りこぼしている検索語句はないのか」などの思いを日々、抱えていました。
しかし、キーワードの範囲を広げてリーチを取ろうとすると、CV に遠い見込み客にもリーチするため、広告投資全体の獲得効率は悪くなります。
2016 年ごろからは、キーワードのリーチを広げつつもなるべくCVに近い見込み客を獲得するよう、「絞り込み部分一致」というマッチタイプでキーワードの範囲を絞る運用を続けてきました。絞り込み部分一致は、登録したキーワードから大きく逸脱することなく検索語句を拡張して拾い上げることができるため、リーチを増やしながら獲得効率を安定させる効果を期待できます。
この絞り込み部分一致に加え、10 キーワードほどを手動でピックアップし、より範囲を拡げた部分一致のマッチタイプもあわせて行い、見込み客の拡大を目指しました。
しかし手動でのアカウントの最適化には、獲得効率の面から限界を感じていました。 そこで、2017 年 6 月ごろからは自動入札機能を導入。「目標コンバージョン単価」「目標広告費用対効果」「クリック数の最大化」など、目標に応じて自動で入札を行う運用にしたところ、獲得効率を安定させることができました。
このように、私たちは、獲得効率を下げずに売上を拡大していくという課題解決に向けて模索を続けていたのです。
絞り込み部分一致→部分一致に変更、試験導入で成果 CV15% 増、CPA21% 減
こうした状況下で、2019 年 3 月、Google から新たな広告の運用指針の説明および提案を受け、検索広告のさらなる改善に取り組むことになりました。
優良な見込み客にインプレッションの裾野を広げることを目的に、試験導入フェーズとして、2019 年の春から夏にかけて 1 カ月間、高速バス予約のキャンペーンでテスト運用。シーズンごとに行われているキャンペーンで、これまでキーワードは自動入札で「絞り込み部分一致」を実施していましたが、今回は、完全一致キーワードの設定と、それ以外のキーワードは指定したキーワードだけでなく、その類義語や関連語句に対しても幅広く広告が表示される「部分一致」に変更して再入稿することにしたのです。
また、目標 CV 単価を設定。キャンペーン期間のうち最初の約 2 週間は学習期間とし、学習期間終了後 2 週間のデータを前年と比較しました。
その後再度テストを実施したところ、表示回数、クリック数は増加。CV 数は 15% 増え、CPA は 21% 減少し、獲得効率の面でも 広告投資額効果( ROAS )はほぼ変わらずに推移したため、優良な見込み客を多く獲得する点で効果を実感できました。
「レスポンシブ検索広告」など追加、獲得キーワード数倍増
テスト結果を受け、8 月には機械学習を活用して広告の作成を自動化する「レスポンシブ検索広告」と、広告見出しや説明文を追加できる「拡張テキスト広告」に、ユーザーの検索語句と一致したキーワードを説明文に挿入する「キーワード挿入機能」を追加。部分一致で広がったキーワードを自動で広告文に追加することで、広告の品質スコアの低下を抑えることができます。
これらを踏まえて、再度高速バス予約のキャンペーンを実施した結果、費用(9% 改善)や表示回数(14.4% 増加)、クリック数(14.5% 増加)、クリック率(0.1% 増)、CV 数(16.6% 増)、CV 単価(22% 改善)など、すべての評価指標で前年より改善。さらに、獲得できたキーワード数については、対前年比で約 80% 増と拡大することができました。
この結果を受け、より取扱額の大きい商品においても販売を強化すべく、JR新幹線と宿泊がセットになったパッケージプラン「JRセットプラン」でもこの取り組みを実施することにしたのです。
「スマート自動入札と部分一致」で成果、取りこぼしていた検索語句も拾えるように
JRセットプランキャンペーンでも、キーワードの検索が始まるタイミングや、購入につながりやすくなるタイミングをデータから予測し、すべてのオークションでユーザーごとに入札単価を変化させる「スマート自動入札」を活用。その上で、部分一致によってマッチタイプを拡張することにより、2019 年 8 月〜 9 月に獲得できた検索キーワード数は、前年比で約 30%増 となり、今まで取ることができなかった範囲まで拡大させることができました。
また、優良な見込み客が増えることで、CV 数の増加、CPA の減少にもつながったのです。
さらに、「日本 旅行 バス プラザ 広島 福岡 空港」などのように、3 つ以上の検索語句に分かれた検索語句についても、検索結果に自社サイトが表示されるようになったり、これまで CV が取れると思っていなかった検索語句にまでリーチが最大限に広がり、新たに追加できるキーワードの裾野が広がったりしたことも、取り組みの成果を示す興味深い発見でした。
キャンペーン成功、2 つの要因
機械学習による配信の最適化と、配信対象ユーザー(リーチ)の拡大、レスポンシブ検索広告、キーワード挿入機能は、現在も継続して運用に取り入れています。
デジタル広告の運用を担当している、ICT 営業推進部 Web マーケティングチームの川倉優貴は「導入当初は、自動入札全般で、CPA などの数値が安定しませんでした。キーワードを拡張することで、獲得効率が安定せず、不安になる期間もありました」と述べます。
デジタル広告の運用を担当している、ICT 営業推進部 Web マーケティングチームの川倉優貴氏
しかし筆者としては、自動入札による効果は、以前より運用していた経験からある程度確信を持っており、予算管理は週次で見ながら、ある程度の変動については許容する考えでいました。
加えて、運用型広告の運用支援をしているアタラ合同会社と Google との連携による間接的なアドバイスをもらいつつ、ROAS だけでなく、拡張されたキーワードからの CV が得られているか、など運用担当者として見るべき指標について川倉との間で認識をあわせながら、運用を行いました。
今回のキャンペーンでの成功要因は、大きく 2 つあると考えています。
1 つめは、Web 広告のポテンシャルを最大化するための体制を整えたことです。部署全体の予算と広告予算とをまとめて管理する体制とし、Google データポータルでのダッシュボーディングにより運用状況を常に把握することで、広告に投下できるリソースを最大限、確保できるようにしました。
2 つめは、運用のための的確なパートナーシップです。販売拡大につながるアカウントのあるべき姿に近づけるため、Google とアタラの協力のもと、キーワードとランディングページ、広告文を 100% マッチさせる取り組みを行いました。
こうした素地があったことも成功の要因につながったのではないかと考えています。
デジタル改革専門部署創設、デジタル広告の最適化進める
現在は AdWords スクリプトを活用して、直近 30 日以内に複数の CV を獲得した検索語句を部分一致で自動追加しています。追加語句はラベルで管理しており、キャンペーンの目的と合わないキーワードを自動追加した場合は停止、除外します。
今後は、季節要因で新しく出てくるキーワードを追加して、それに連動した広告を配信できるように、キーワード挿入機能を活用したクリエイティブの最適化を行っていく予定です。
これまで、当社の Web 広告の取り組みは、デジタルチャネルにおける販売拡大の広告に特化されていました。しかし、お客様と当社とのタッチポイントはデジタル、リアル双方でさらに複雑化していきます。店舗に来店したお客様がスマホで情報検索することは当たり前ですし、もっと広い範囲で当社のメッセージをお客様に伝え、もっと広い範囲で CV ポイントを捉える必要があります。
このように、幅広い領域のマーケティングの課題をカバーするため、営業部門に全社的なデジタル変革を担う新部署を創設し、Google とアタラ合同会社の 3 社で、年間の広告プランでコミットし、マーケティング予算の最適配分と、デジタル広告の効果の最大化を目的に、様々な施策を実行していくことも決まりました。
得られた結果、知見から、新たなデジタルの役割を再定義し、新たなビジネスモデルの創出につながるような事例を作っていけたらと考えています。
*この記事は 2019 年 12 月 9 日の Think with Google 編集チームによるインタビューをもとに文章化しました。
Contributor:
株式会社日本旅行 営業企画本部 ICT営業推進部 Web マーケティングチーム 川倉優貴氏