検索広告の難しさは、キーワードの範囲を広げてリーチを取るか、範囲をしぼって CVR 向上を目指すか、その兼ね合いにあります。範囲を広げるとより幅広いユーザーに訴求できますが、対象外のユーザーにも広告を表示するため、投資対効果が低くなります。一方で範囲を絞ると成果は出やすくなりますが、リーチできる層が先細りするリスクがあります。
こうしたなか、リアル店舗と融合した買い物体験を提供する ECモール「三井ショッピングパーク&mall(アンドモール)」は、部分一致よりもさらに設定キーワードの検索にのみ広告配信を絞り込んだ「絞り込み部分一致」のマッチタイプを適用することで、リーチを拡大しながら、単価を抑えて CVR を向上させることに成功しました。以下、その取り組みをご紹介します。
ユーザーを取りこぼさず、無駄のない検索広告を展開する
当社が手がける &mall は、リアルなショッピングモールと連携した“リアル店舗共生型” EC モールです。同じく当社が運営する「三井ショッピングパーク ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」「ラゾーナ川崎プラザ」「ダイバーシティ東京プラザ」などに出店しているブランドのアイテムを EC で購入できるサービスで、ブランドの販売機会創出やチャネル拡大を応援するほか、店舗に在庫がなくても EC サイトで購入できるため、購入したいタイミングで欠品なく商品を提供できることが特徴です。
&mall では、検索広告について、「ブランド」と「店舗」に分け、予算もキャンペーンも別々に展開してきました。たとえばスポーツシューズの場合、一ブランドである「adidas」と、店舗の「ABC マート」とは別々に広告施策を行っています。
そうした広告施策のうち、最も獲得効果が高い施策は商品リスト広告(PLA)でした。キーワードの登録をすることなく、商品データフィードに基づき検索結果画面に表示される広告で、ユーザーニーズに合った商品をユーザーに効果的に訴求できるメリットがあります。
そんな &mall が、検索広告での効果向上を目指し、2019 年 6 月から取り入れたのが「絞り込み部分一致」とよばれるマッチタイプでした。
当社ではこれまで、ショップ名などの「完全一致キーワード」のマッチタイプで検索広告を進めていました。完全一致キーワードの場合、コンバージョンにつながらない無駄なワードに引っかかることなく、効率的に訴求できるメリットがあります。反面、拡張できないため、インプレッションの幅を狭めてしまい、ユーザーを取りこぼすリスクもあります。
検索範囲を広げるには、部分一致を使って検索語句をより多く拾い上げることが有効です。ですが部分一致の場合、拾い上げる語句が増えるので、広告投資額効果(ROAS)が低下するリスクもあります。絞り込み部分一致は、キーワードの拡張が抑制されるので、ROAS を損なう確率は低くなります。部分一致には、無駄な検索語句も拾ってしまうリスクがあるため、完全一致と比べると成果が落ちる懸念もありました。
的を絞った検索語句の拡張ができる「絞り込み部分一致」
絞り込み部分一致とは、登録したキーワードから大きく逸脱することなしに検索語句を拡張して拾い上げるため、リーチを増やしながら成果を確保できるという利点があります。
たとえば「 T シャツ 白」というキーワードを使う場合、通常の部分一致ならば、T シャツだけでなく Y シャツの検索結果も含めて表示されたり、白だけでなく青や赤の T シャツまで表示されることがありました。これに対し、絞り込み部分検索では、入稿の際にキーワードの前に「+」をつけて「+ T シャツ 白」と設定すれば、T シャツという範囲は逸脱せずに検索結果を表示します。
&mall はこの機能を活用し、ショップ名を絞り込み部分一致に登録することで、検索ワードやその組み合わせを増やして獲得数の向上を目指しました。1 つでもコンバージョンに至ったクエリは、1 トークン(キーワード、検索語句のこと)で完全一致のマッチタイプ、「ABC マート ランニングシューズ」など 2 トークンにわたるクエリは絞り込み部分一致、3 トークン以上は部分一致というスクリプトを実装し、2019 年 6 月 18 日より運用を開始しました。
同額予算でインプレッションは最大 230% 増、ROAS も 200% 向上
同じ予算額で、絞り込み部分一致の実施前と実施後で成果を比較すると、インプレッションは約 160 〜 230% ほど増加した一方、CPC は約 55 〜 70 %、CVR はどちらも同率という成果でした。つまり、広告量が増えて広くユーザーにリーチ。単価を抑えられたことで、ROAS は 200% 向上しました。また、この施策での効果が認められたため広告費の投下量も増やし、施策実施前と実施後の 3 週間を比較すると、ROAS を許容範囲に収めながら、売上を 360 % 増加させることに成功しました。以前は PLA が獲得のメインでしたが、絞り込み部分一致の実施により、昨年と比較できないほど効果が上がっています。
Google で検索広告を担当するモバイルパフォーマンススペシャリストの野々下智一はこのように話します。
「今回、お客様がビジネスの成長のためにリスクがある可能性があるものの、まずは拡大に向けた一歩を踏み出して頂けたことが結果につながっていると感じています。また、運用パートナー会社様が自動入札や広告文の推奨設定などをしっかりと行い効率的な配信設定を作れていたことも、今回の拡大を後押ししています。
絞り込み部分一致で効果を立証し、そこで終わらず、効率を担保しながら予算を拡大している点は、改めて部分一致の活用の有効性と、効率化配信の設定ができていることの重要性を示していると思います」
一方、三井不動産としても、効率的な運用であることは確認できたため、今後ボリュームを担保していくために部分一致のキーワードを増やしていくことが重要だと気づきました。そのため、キーワードを自動登録する仕組みを構築し、さらなる効率化とボリュームの両面で伸ばしていきたいと考えています。また、キーワード軸に加えて、今後はクリエイティブ軸での効果検証を進める見込みです。