デジタルマーケティングを活用している企業の多くは、すでにさまざまな形で機械学習を活用し、広告効果の最大化や作業の効率化を図っています。自動入札や動的配信などの機能によってマニュアルワークを削減し、その分のリソースをマーケティング施策の改善などに使っていることでしょう。
しかし、それでも人的リソースを割かなくてはいけない作業があるのも事実です。そうした作業を減らせない要因の 1 つに、広告媒体ごとに分かれている広告管理のあり方が挙げられます。
例えば媒体を横断してのパフォーマンス分析や予算配分。媒体ごとの指標を正しく理解、評価して調整したつもりでも、広告施策全体としてはパフォーマンスが悪化してしまうこともあります。
あるいは、非常に多くの商材を扱う企業の場合、媒体に応じたクリエイティブの入稿が必要だったり、メンテナンスにかかる工数も増えたりと、負担が重くなります。
こうした課題に対して、広告をクロスメディアで統合管理できれば、作業の効率化と広告効果の最大化を実現できるはずです。そして削減できた時間をより生産性の高い業務に当てることで、さらなる売上や利益の増大につなげることもできます。また広告の一元管理は、そのままデータの一元管理にもつながり、「資産としてのデータ」の価値も高めます。それを新たなマーケティングに活かすといった、好循環にもつながっていくのです。
検索広告を次のステージへ進めるために必要な視点
「検索広告」というと、すでにさまざまな改善を続けてきた領域かもしれません。しかし、デジタルマーケティングにおいて検索広告をもう一歩先のステージへと進めるためには、すなわち検索広告を真にビジネスの成長へとつなげるには、具体的に 2 つの視点が必要になります。
1 つ目は「媒体間のシグナル共有による効率的なパフォーマンス改善」です。
シグナルとは、コンバージョンなどのアクションを分解し、いつ、どこで、どのように、いくらの売上が上がったかなどを個人を特定しない形でパラメーター化したものです。広告を管理する媒体が変わったとしても、こうしたアクションやそれに紐づくシグナルは変わらないでしょう。媒体の枠を超えてこれらを共有できれば、さらなるパフォーマンス改善につなげられるはずです。
2 つ目は「売上貢献度に基づいた戦略立案」です。
2020 年以降、新型コロナウイルス感染症の影響で、人々のライフスタイルや購買行動は大きく変わりました。それにより売上の減少に直面し、広告費の削減を迫られたケースもあったかもしれません。
こうした状況に対して何より重要なのは、単に広告費を減らす、コンバージョンの効率を改善したりすることではなく、「売上を最大化、効率化」するために何をすべきかという視点です。顧客分析などを踏まえ、どのようなコンバージョンを獲得できれば効率良く売上の拡大につなげられるのか、1 件あたりのコンバージョンのライフタイムバリュー(LTV)なども加味した売上への貢献度を分析する必要があります。それを見極めて戦略を変更できれば、むしろ広告量を維持、または増やすことで、売上拡大にもつなげられます。
もちろんこうした検討を踏まえた上で、戦略的に予算を下げる場合もあるでしょう。そのような時にも、できる限り機械学習による入札戦略に悪影響が出ないように、価値の高いコンバージョンを見極めながら調整を図ることが重要です。
機械学習と人の強みを使い分ける
検索広告の運用にあたって、これまで多くのマーケターは、媒体ごと個別に広告を最適化するための施策を実施してきたと思います。しかし蓋を開けてみれば、アカウントの構造やターゲットキーワードなどがほとんど同じというケースも多かったのではないでしょうか。
「個別管理」ではなく、複数の媒体で検索広告を「統合管理」することで、機械学習の強みを最大限に活かすことができます。それによりマーケターは、媒体ごとの利用者層の違いに応じた調整やクリエイティブの変更など、本来時間を割くべき大切な点に一層注力できます。マーケター業務の最適化はもちろんのこと、前述のシグナルを共有することで学習データのボリュームも増え、機械学習が進み、さらなるパフォーマンス向上にも期待できるのです。
まとめると、検索広告の統合管理によって享受できるメリットは「単純作業の効率化」と「考える時間の創出」です。
まずは単純作業の効率化。これまでの広告運用の課題は、作業工数が多すぎるという一言に尽きます。複数の媒体に出稿するため、その媒体の数だけ管理画面を操作し、キーワード作成や広告文の作成、LP 設定、クエリの追加といった作業が必要でした。
そしてもう 1 つのメリットは、単純作業で費やしていた時間を、マーケターが本当に考えるべきことに割けるようになることです。
例えばこれまでは、媒体ごとに指標の定義が異なるため、媒体をまたいだ数値の比較や、それに基づいた戦略立案は困難でした。統合管理は、こうした工数を大幅に削減すると同時に、データに基づいたより正確な調整を可能にする手段の 1 つと言えます。
そして、このように機械学習に任せるべきことと人が判断すべきことの強みを使い分けるためには、次の 2 点を押さえておくことが重要です。
まずは機械学習の学習データとして、パフォーマンスの良いデータと悪いデータの両方を用意すること。良いデータだけを集めても、その中の差分だけを見たパフォーマンス改善になってしまいます。両方を扱うことではじめて、広告全体のパフォーマンスを最適化することができるのです。
次に、機械学習を前提としつつも、その初期値は人が与えなくてはならないということ。ターゲティングや入札などを設定するにあたり、どのような初期値を与えるかはマーケターの役割です。
これらを念頭に置きながら自動化を進めることで、より一層広告効果の最大化やその先のビジネス目標の達成に向けた戦略に時間を使うことができます。それだけにとどまらず、効率化によって社員の業務改善が進めば、生活の質の向上にもつなげられるはずです。
業務改善で月 95 時間を削減したアスクル
では、実際に検索広告の統合管理によって、業務改善を実現したアスクル株式会社の事例を見てみましょう。実施にあたり、同社では Google の統合管理ツールである「検索広告 360」を活用しました。
取り扱い商品数が 890 万点を超える同社では、商品数に比例して、新たな広告キーワードの発掘や追加、反対にパフォーマンスが悪いキーワードを見直すといった業務に多くの時間が掛かっていました。また、同時に広告運用のインハウス化も目指していたため、一層の業務効率化が急務でした。
そこで次の 4 つのステップを通じて、同社はプロジェクトを推進していったのです。
初期導入には手間と時間がかかりましたが、半永久的に広告配信が自動化できる上に、クオリティコントロールも可能になりました。
この全自動化により、アスクルでは 1 カ月で 95 時間もの作業時間を削減。それに伴い、運用のインハウス化も実現しました。また個々の検索キーワードに適した広告を効果的に配信できたことで、今後のパフォーマンスも改善へとつなげる土台を作ることができました。
さらにこの削減できた時間を活用して、運用結果の分析と検索広告以外の広告などを含めた全体の広告戦略の見直しや最適化を進め、売上の最大化を目指しています。
マーケティングのプラットフォームを活用することと、そこからインサイトを導き出すこと。この両輪をうまく回し、統合管理によって生まれた時間を、さらなる売上の拡大やマーケティング目標、ビジネス目標の達成に活用してもらいたいと考えています。こういった考え方は検索広告に限らず、組織としてもマーケティングのデータ資産を最大限活用することにもつながります。ビジネス上の大きな目標の達成の一助にもなるのではないでしょうか。