2023 年はさまざまな方面で、コロナ禍における制限が緩和された年でした。
制限下で否応なしに変化した時間への向き合い方やその過ごし方は、今どう変化したのでしょうか。2023 年の検索動向を基に考えました。
制限下での生活を経て、「今」への関心が高まる
まず注目したいのは、生活者は「今」に対してより意識を向けるようになったということです。
制限の緩和を経て増加した行動の 1 つに、イベントへの参加が挙げられます。ぴあ総研の調査によると、2023 年のライブ・エンタテインメント市場の規模は過去最高だった 2019 年を上回るとの予測が出ています(*1)。
そこで、「イベント」と時期を表す表現を掛け合わせた検索クエリの増減を確認しました(*2)。
2022 年、日本を含むアジア太平洋地域における検索トレンドの 1 つが「楽しみの発見」でした。不確実な日常の中で、先行きへの不安から我慢をするだけではなく、限られた時間を最大限に活かそうとする意識です。
国土交通省の国土交通白書によると、「今後の理想的な時間の使い方」として、行楽や趣味、学習など個人の活動に時間を使いたい人は、2021 年度から 2023 年度にかけて増加しています(*3)。2023 年に今への関心が強まっていることは、行動が自由になってもなお、制限下で気づいた時間の貴重さを、変わらず感じ続けている、大事にしていることの表れかもしれません。
ここからは具体的な検索動向と共に、生活者が貴重な時間をどのように過ごそうとしているのかを見てみましょう。
以下で取り上げる検索動向は、Googleトレンドの 2022 年と 2023 年のデータを比較したものです(*4)。
満足度の高い時間の使い方を模索
かけがえのない「今」を再確認した人々は、改めて時間の使い方を考えるようになりました。
「今だけ」限定の楽しみに関心を向けたり、時間をさらに有効活用しようとしたり、あるいは人生という長いスパンでの「今」の使い方を模索したりするようになったのです。
また 2023 年は制限緩和に伴い、旅行需要が増加しました。2023 年 7 月 〜 9 月期の国内旅行の消費額は前年同期比 15.7% 増(*5)で、2023 年 10 月の日本人出国者数は前年同期比 168.3% 増(*6)です。
上述した通り、制限が緩和された今も依然として、新しい生活様式での時間との向き合い方が人々の意識に根付いている様子が見て取れます。
また日常の買い物や移動から旅行に至るまで、より満足のいく時間を過ごせるように工夫している様子もわかります。2022 年は時間当たりの成果を重視する「タイパ」の検索増を取り上げましたが、2023 年は効率を求めて時間をやりくりするだけではなく、自分自身を主語として時間を考えるようなクエリが伸びていました。
大切な「今」を充実させようとする前向きな検索動向は、今日における生活者の消費行動にもつながっているのかもしれません。
なお、同様に検索動向の分析からは、人々がアイデンティティを深めようとする様子も見えてきました。以下の記事も合わせて確認してみてください。
「〇〇 わかりやすく」「〇〇 なぜ」の検索増に見える、アイデンティティの深化
Contributor:本多 隆虎(アナリティカル コンサルタント)/ 斎藤 圭右(アナリティカルリード)/ 常 昱(アナリティカル コンサルタント)