2023 年の日本における検索動向からは、自分のアイデンティティを深めようとする人々の姿が見えてきました。
これを考察する前に、まずは 2022 年の検索動向を振り返ってみましょう。昨年も、日本を含むアジア太平洋地域における検索トレンドとして「アイデンティティの再考」を取り上げました。
自分はどうありたいのか、自分に何ができるのかを自問し、自分にとっての幸福を追求しようとする姿勢が、検索に表れていました。その一例が「検索の洗練化」です。
2022 年にインドでは「卵型の顔のヘアスタイル 男性」の検索が 330% 以上増加。同じくフィリピンでは「女性用正装」の検索が 110% 以上、オーストラリアでは「〇〇向けのプラスサイズのドレス」の検索が 20% 以上増加しました。
人々は、自己意識を反映したより具体的な検索をするようになっていたのです。
「〇〇 わかりやすく」「〇〇 なぜ」など、トレンドに左右されない掛け合わせクエリが伸びている
さて、2023 年の日本においても同様に、自分が求める情報の解像度を高めようとする姿が見えてきました。
下で挙げたのは、いずれも特定のトピックに影響されにくく、他の単語と掛け合わせて検索されるクエリ群です。これらの検索数は、過去 5 年に当たる 2019 年から伸び続けています(*1)。
ここからは、実際に上記との掛け合わせで 2022 年から 2023 年にかけて伸びた検索クエリを紹介します。
以下で取り上げる検索動向は、Googleトレンドの 2022 年と 2023 年のデータを比較したものです(*2)
掛け合わせクエリを活用することで情報をふるいにかけ、検索結果の中から、自分の疑問や探究心を満たしてくれる情報を手探りで選び取ろうとする傾向が強まっています。
自分らしさの深化が見える
2022 年にインドで伸びた「卵型の顔のヘアスタイル 男性」や、オーストラリアで伸びた「プラスサイズのドレス」などの検索は、自分の身なりや容姿についてのアイデンティティを形作ろうとする検索でした。
今回取り上げた掛け合わせクエリの増加も、背景にあるインサイトは同様だと考えられます。
「育休 なぜ」「育休 違い」といった検索には、アイデンティティにもつながる自分の意見を形作るために多面的に制度の理解を深めようとする意識が、また「控除 簡単に」「控除 なぜ」といった検索には、税金の仕組みや引いては世の中の仕組みを理解して賢く生きたいとする正直な自分らしさが反映されているのではないでしょうか。
「卵型の顔」「プラスサイズ」のように類型化した表現がない分、クエリに現れにくいかもしれませんが、背伸びせずに自分の理解度に合った情報を選び取り、ありたい自分やあるべき自分にとって必要な情報を、検索から得ようとしていると言えそうです。
またこうした傾向からは、人々にとっての検索プラットフォームの位置付けや使い方も見えてきます。SNS が、他者からの目線を意識した「魅せたい自分を主張する場」だとすると、検索は「身の丈に合った情報の探索を通じて自分自身を見つめる場」になってきているのかもしれません。
普遍的なクエリの動きから、飾らない生活者意識を読み取る
あるトピックや商品カテゴリの検索動向において、特定の時点を切り取ると、目立った変化がなく、一見すると新たな需要の起こりが見えないことがあります。
しかし、生活者の関心が明確なニーズに変わるまでに、時間がかかる場合もあります。そうした飾らない生活者意識やニーズをいち早く発見するためには、急上昇の検索クエリで瞬間風速的なトレンドを理解するのと同様に、普遍的な掛け合わせクエリを定点観測することも重要です。
急激な変化ではないかもしれませんが、だからこそ一過性のものではなく、将来的にも着実に育つ生活者の飾らないインサイトを理解するヒントになるでしょう。
なお、同様に検索動向の分析からは、人々が時間との向き合い方を見つめ直そうとする様子がも見られました。以下の記事も合わせて確認してみてください。
2023 年の時間への向き合い方、「やりたいことリスト」「今日 イベント」などの検索が上昇
Contributor:本多 隆虎(アナリティカル コンサルタント)/ 斎藤 圭右(アナリティカルリード)/ 常 昱(アナリティカル コンサルタント)