モバイルの浸透により、マーケターはこれまで想像もしなかったほど多くの消費者にリーチし、生活の細部にわたって働きかけることができるようになりました。ブランドやビジネスを構築するなら、これほどエキサイティングな時代はないでしょう。さまざまな試みが可能になっています
一方、これまでなかった複雑な課題が増しているのも事実です。この可能性と課題の双方について、第一線のマーケターからもさまざまな意見を耳にします。
- 生活者が生活の中で求める即時性に応えるには?
- メディアが細分化した時代に効果的にブランド ストーリーを伝えるには?
- デバイスやタッチポイントが増える中、マーケティングが与える影響を理解し測定するには?
- 新しい時代に組織を適応させ、できるかぎり単純化するには?
上記の課題に取り組むためにモバイルと AI は非常に役立ちますが、存分に使いこなすには、未来に向けてコミットする姿勢が不可欠です。未来を見据えた組織づくりに必要な取組を、3 つの大切なポイントにまとめました。いずれも Google が力を入れている分野であり、同時にブランド強化やビジネス拡大を目指すすべての企業に当てはまる内容です。この記事では、これらに取り組む企業 3 社をご紹介します。
その 1: 重要な瞬間を見極める
すべてのマーケターが守るべき 3 つのコミットメントの最初は、重要な瞬間を見極めることです。
ここ数年、小売、自動車、金融など多くの業界で、いわゆる「客足」は顕著に減少しています。幸い、これはあくまで表面上に過ぎず、実際はこれまでよりはるかに多くのユーザーがビジネスを「訪問」しているのですが、その場所がオンライン上、特にモバイルへと移っています。この事実は、マーケターはユーザーが店頭を訪れる前に勝負をつけなければならないことを意味します。決め手は重要な瞬間を見極めることであり、そのためのコミットメントを惜しまない広告主が圧倒的な成果を手にしています。
L'Oréal USA の CMO を務める Marie Gulin-Merle 氏による、同社が「重要な瞬間を見極める」ことにコミットする理由は、それ自体が説得力あふれるストーリーです。オンラインへの移行に伴って、同社は製品の効果に対するユーザーの強い関心に気づきました。新しいアイデアや製品を試すためなら、喜んでお風呂にスマートフォンを持ち込むユーザーがたくさんいたのです。
現在 Gulin-Merle 氏は、ユーザーがどういう内容に関心があるのか理解するために、ユーザーが検索する語句や、YouTube で視聴するハウツー動画を観ることに毎日数時間を費やしています。このような活動から得られたインサイトによって、同社のクリエイティブはユーザーを惹きつけているのです。
整髪料ブランド Advanced Hairstyle をアメリカに展開するにあたり、L'Oréal Paris は検索トレンドに着目し、そこから得られた情報をもとに、パーソナライズされた何十種類もの広告クリエイティブを制作しました。ウェーブ、カール、アップ、編み込みなど、気になるヘアスタイルについてユーザーごとに広告を最適化して表示するためです。そして広告から、同社の製品を使ってそのスタイルを再現した動画にリンクしました。
これらの広告は主要な顧客セグメントに対し驚くべき効果を発揮し、動画は合計で 1,000 万回以上も再生されました。実に L'Oréal は、 1,000 万人のユーザーがヘアスタイルのヒントを求めて訪れる場を見極め、役立つ情報を届けることができたのです1。
確認してみましょう: ユーザーが実際に店舗を訪れる瞬間だけでなく、その前から「客足」をつかむべく全力を尽くしていますか?ユーザーが来店する以前に存在する貴重な「瞬間」を理解し、そのタッチポイントにどう関わっているかについて、しっかり把握できていますか?
その 2: 今一度、ユーザーに「届く」ブランド ストーリーとは何か考えてみる
2 つ目のコミットメントは、どのようにユーザーにブランドのストーリーを届けるかについて、改めて問い直すことです。
モバイルが普及したことで、動画の閲覧数は急激に増加しています。ユーザーは日常のあらゆる場面で YouTube を利用しています。もちろん、友だちにシェアするふざけた動画は人気ですが、マーケティングにおいて重要な瞬間のほとんどは、関心のあるテーマの動画をユーザーがのんびり閲覧している時間に生じています。YouTube におけるモバイルでの平均視聴時間は、 40 分にも達しています2。
モバイル ファーストの今、マーケターは膨大なリーチを手にしてはいますが、もしユーザーを退屈させてしまえば、意味がありません。消費者の気持ちを掴み取るには、もっとも適した瞬間めがけて、最適な動画やメッセージを届けなくてはなりません。
ユーザーが受け身でコンテンツを楽しんでいるタイミングに、極めて効果的な手法が 15 秒または 30 秒の CM 動画です。しかし実際には、効果的なビジュアル、サウンド、モーションのすべてを備えた動画を使いこなせば、わずか 6 秒間で、ユーザーの気持ちをつかむには十分です。たった 6 秒のコンテンツをユーザーが気に入れば、もっと詳しく知りたくなります。
さまざまな長さのクリエイティブ動画制作に積極的に取り組んでいるブランドは、想像以上の成果を得ています。L'Oréal Paris は、わずか 6 秒以下の動画で、同社の製品 Root Cover Up Concealer Spray の価値を伝えることができました。
Colgate は、YouTube クリエイターと協力することにより、ブランドストーリーを再構築しました。歯磨きペースト Colgate Optic White Express を市場に投入するにあたり、同社は Andrea Brooks 氏と Blair Fowler 氏の力を借りました。2 人は、合計 500 万人以上のチャンネル登録者と 5 億回を超える視聴数を持っています3。
Brooks 氏と Fowler 氏の動画シリーズ『The Smile Show』は、「あなたの笑顔がより輝く!」という、同製品のメッセージに基づいて制作されました。
Colgate の予想を大きく上回り、「The Smile Show」は 合計 2,400 万回を超える再生数を叩き出しました。トータル視聴時間にして 82 年分です 。
2 人の YouTube クリエイターによる動画クリエイティブを、テレビ媒体や印刷媒体にまで展開させたことも、Colgate の成功要因でした。チームの分析では、 YouTube 発のこの動画はさまざまなブランド指標に影響を与えており、同ブランドへの関心度は 1,116% も上昇しました。これは、アメリカにおける CPG(日用品)平均と比較して 8 倍です4。
確認してみましょう: モバイル ファーストに対応したクリエイティブ戦略が構築できていますか?これまでなかった需要が発生する瞬間にユーザーに届くよう、さまざまな長さの動画コンテンツが揃っていますか?動画の最初の 6 秒は、ユーザーが引きずり込まれるような内容ですか?
その 3: 成長に向けて効果を測定する
ここで、最後のコミットメントである成長志向の効果測定が重要になってきます。
モバイルの出現により、ユーザーのすべてのカスタマー ジャーニーにリーチし、興味を引くことができるようになりました。しかし、ウェブ黎明期の指標を用いて現代のユーザーの行動を測定することは困難です。本来ならリーチ可能な質の高い膨大なオーディエンスを逃さないためには、測定においてもモバイル ファーストのアプローチが必要です。
Fiat Chrysler Automobiles(FCA)の事例は、このコミットメントについて多くの示唆を与えてくれます。
FCA のデジタル マーケティング責任者である Amy Peet McNeil 氏は、ディーラー探しや在庫確認など購買ファネルの下流を重視した従来型のアプローチは、モバイル ファーストのユーザーに効果的でないと気づきました。
重要なことは、ユーザーがディーラーを訪問する以前に勝負を決することでした。現在、平均的なユーザーは、自動車の購入に至るまでにわずか 2 回5しかディーラーに足を運びません。購入プロセスがオンラインに移行しているのです。McNeil 氏らは「ディーラーに足を運ぶ前に勝負する」ことを意識し、ディーラーを訪問するユーザーの数と質を高める戦略に取り組みました。
McNeil 氏のチームは、同社のラム トラック部門におけるマーケティング施策を検討するため Universal McCann および Google と組んで、ユーザーが実際に車を見るためにディーラーを訪れる前に発生している 5 つの「重要な瞬間」を特定しました。中でも特に重視すべきが、ユーザーが「この車が自分に合っているのか」ということを検討している瞬間でした。トラックの購入を考えているユーザーが、牽引能力や燃費などの情報を比較しているタイミングです。
FFCA はこの重要な瞬間にユーザーに役立つよう、測定に用いる KPI を変更し、コンテンツやキャンペーンをアップデートしたのです。結果は目覚ましいものでした。購買ファネルの最終段階であるラストクリックの瞬間を重視したターゲティングや測定方法から脱却し、より早い段階からユーザーに働きかけることで、情報に詳しく質の高い顧客を呼び込むことができたのです6。
確認してみましょう: あなたのマーケティング活動は、時代に乗り遅れた KPI を捨て、ユーザーの意思決定プロセスの変化に対応した KPI に移行できていますか?
チェック ポイント
マーケターは、自社の戦略をモバイル重視型へと促すことができる特別な立ち位置にいます。その実現には、次の 3 つのコミットメントが欠かせません。
1)重要な瞬間を見極める。ユーザーの重要な瞬間に寄り添うことができるよう、役に立ち、的確かつ楽しいコンテンツ(広告ではありません)を用意しましょう。ユーザーに選ばれるコンテンツは、ビジネスにおける具体的な成果に直結します。
2)今一度、ユーザーに「届く」ブランド ストーリーとは何か考えてみる。モバイルが行き渡ったことで、マーケターは巨大なリーチを手にしましたが、生活者を退屈させれば意味がありません。新たな需要が発生する瞬間に適した多様な長さのコンテンツを揃え、ブランドのメッセージが正しく届くようモバイルを優先したクリエイティブ戦略を構築しましょう。重要なことは、最初の 6 秒間で生活者の関心を引きつけて離さないコンテンツを用意したり、熱心なファンを抱える YouTube クリエイターの力を借りることです。
3)成長に向けて効果を測定する。効果的な成果測定という高いハードルをクリアすべく、各チャネルの投資収益率の測定を、成長志向の測定へと切り替えましょう。購買ファネルの下流に重点を置く旧来の KPI から脱却し、モバイル ユーザーの意思決定に寄り添った新しい KPI を採用する必要があります。これにより、質・量とも従来よりはるかに手応えのある集客ができるでしょう。
これら 3 つのコミットメントに率先して取り組むことで、モバイルがもたらす計り知れない可能性をうまく乗りこなし、本当の意味でユーザーに役立つことができるはずです。