欲しい商品をインターネットで検索し、EC サイトで購入する人は増えています。それに加え、欲しいとまでは興味がなかったとしても検索を通じて商品と出会い、その場で瞬間的に購入まで至るような「パルス消費」型の購買行動もこうした EC 利用の増加を後押ししているでしょう。実際、2018 年の日本国内の消費者向け電子商取引は、前年に比べて 8.96% 拡大、EC 化率(全商取引金額に対する電子商取引市場規模の割合)も、前年の 5.79% から 6.22% へと年々増加しています(*1)。
このような流れの中、Google のショッピング広告は、生活者が探している商品の検索結果にピンポイントで表示できるとして、その利用が広がっています。
ショッピング広告は、人々が広告をクリックする前に、小売のオンライン店舗や実店舗で販売する商品の詳細なデータ(商品名、特徴、写真、価格、店舗名など)を伝えられます。そうすることで、購買する可能性が高い層のクリックを促進できるのです。
一方でショッピング広告では、登録する商品データがそのまま広告クリエイティブの代わりとなります。広告用にテキストを作成するわけではないため、「広告のために改善する」という理解が浸透しておらず、ノウハウも溜まらないことから改善が難しいとされてきました。1 つの商品で複数の広告クリエイティブを準備することもできないため、広告効果の比較が難しく、「商品データ(特にテキスト部分)を改善し成果を改善したいが、どう変えればいいのか」といった声を企業からもらうこともあります。
そこで、商品データの中にある「単語」を効果の高いものに選別し、クリックだけでなくコンバージョンの拡大に成功した 3 社(楽天市場、au PAY マーケット、トイザらス)の事例から、生活者の意図に沿う「効果的な単語をどう見つけるか」を考察します。
生活者の意図に沿う、効果的「単語」を機械学習で発掘:楽天市場
各店舗が出店するマーケットプレイスである楽天市場では、数億点もの商品を幅広いジャンルにわたって掲載しています。そのため、商品によって人々が必要な情報の優劣が異なることはわかっていたものの、楽天市場の全商品のデータに対して仮説、検証、分析を反映することは非常に困難でした。広告掲載可能な商品はすべて商品データに登録し「機会の最大化」を図ってはいたものの、「コンバージョンの最適化」のためにどうすればいいのか考えあぐねていたのです。そこで、ショッピング広告を配信している商品全体を分析して、自動で最適な文言を優先的にタイトル文の前方へ表示できる、そんな手法を求めていました。
最適な施策を検討する中で Google が提案したのが 「Word Mix Modeling ( WMM )」です。WMM とは、過去の広告クリエイティブデータを機械学習にかけて分析し、クリック及びコンバージョンに寄与した「単語」をクリエイティブの中から抽出。寄与度が高い単語をもとに、新しい広告クリエイティブを作成・自動出稿して、継続的に改善も行うツールです。
この WMM を使って、楽天市場の実績データを分析したところ、数字的根拠に基づいた効果的単語を発見。それをもとにタイトルの変更施策を決めていきました。
楽天市場のケースでは、コンバージョンへの貢献度が高い単語はすでにタイトルの中にあったため、その単語の位置をタイトルの先頭に移動するといった「順番の入れ替え」施策を実施しました。
改善前後のショッピング広告のタイトル比較
改善前: 強力防臭抗菌おむつポット ポイテック アドバンス ミントグリーン(1台)【コンビ】
WMMによる選定単語:ポイテック、アドバンス
改善後:
さらに、このタイトル改善の効果を数字で可視化する分析(*2)も進めました。 施策前後の数値を比較すると、インプレッションは 194% 増、クリック数は 132% 増、コンバージョン数(*3)は 196% 増と、すべての項目で効果を確認できました。
従来は商品名が隠れるケースも……タイトルの「順番入れ替え」に効果を確認:au PAY マーケット
au PAY マーケットでは、競合の EC プラットフォームが数多くある中で興味をひくために、広告に表示する商品タイトルを改善すべきという意見が、以前から社内であったと言います。従来登録していたタイトルは、もともと au PAY マーケットのサイトに訪問した人向けに作成したものでした。そのため、ポイントやセールについてタイトルの先頭で訴求しているケースが多く、ショッピング広告上では、文字数の制限から肝心の商品名が表示されないことで CTR が悪化する、といった課題もありました。新たにもっと効果的なタイトルを作るほうがいいとは考えていましたが、どのように改善すべきか、その方向性も見つけられずにいたのです。
そのため、改善の方向性を決める客観的データと、新たな施策をしっかり検証できる仕組みを求めていました。
WMM を使って、au PAY マーケットのデータを分析したところ、楽天市場と同様、コンバージョンへの貢献度が高い単語はすでにタイトルの中にあることがわかりました。そのためここでも、単語の位置をタイトルの先頭に移動する「順番の入れ替え」施策を実施しました。
こうした改善により、インプレッションは 32% 増、クリック数は 49% 増、コンバージョン数は 83% 増と、すべての項目で数値の上昇を確認できました。
5 つの新しい単語をタイトルに追加、コンバージョン数が 182% 増:トイザらス
トイザらスでは、ショッピング広告と連携している商品情報を今まで以上に活用して、インプレッション数やクリック数の最⼤化と、購入につながる施策の必要性を感じていました。
タイトルの改善は検討していましたが、商品タイトル生成におけるシステム上の制限があり、具体的な解決には至っていなかったのです。
分析と検討を重ね、全体のインプレッションを増やすには、効果的な単語を新規に追加することが望ましいとわかったため、その単語を「タイトルに追加」する施策を実施しました。WMM によって選定された単語は、「女の子」「男の子」「お誕生日プレゼント」「お祝い」「ギフトラッピング」 でした。
これにより、インプレッションは 81% 増、クリック数は 151% 増、コンバージョン数は 182% 増と、こちらもすべての項目で数値の上昇を確認できました。
精緻な計測と統計分析で効果を可視化、さらなる精度向上へ
3 社とも生活者の意図に沿った効果的な単語を優先的に表示することで、クリック率やコンバージョン率、広告投資額効果(ROAS)が改善。同予算でもインプレッションの増加が見込めたことで、結果的にクリックやコンバージョンすべての拡大に寄与しました。今回の施策は、各社のこれまでの実績データをもとに機械学習させることで、人々の意図に沿う効果的な単語をしっかり分析できたこと、そして成果の可視化をしたことが重要なポイントです。可視化したデータに課題があれば、それも明確にすることで、さらなる改善策へのヒントにもなるでしょう。
ショッピング広告の施策を実施した 3 社の担当者はそれぞれ次のようにコメントします。
「当社では掲載する商品情報の質と量を最大化するため、継続的に改善を続けています。例えば質については、店舗が作成した情報を基にユーザー便益がある情報を連携し、またそれを数億以上の商品情報に実装するための仕組みづくりに取り組んでいます。今回の施策はその第一歩でしたが、想定以上に⾼い効果で本当に驚きました。効果的な単語は時期によっても異なりますし、全体への適用という点ではいくつか改善点もあったので、今後も Google と共に進化していければと考えています」(楽天株式会社 Rakuten Ichiba Marketing Department Channel Marketing Section Search Engine Marketing Group 住谷誠氏)
「EC モール業界のショッピング広告では、大きく次の 2 つがポイントであると考えています。商品画像の最適化による、Google の審査承認率の改善と、今回の事例のようなタイトル、説明文の最適化です。ここ数年で au PAY マーケットは商品データの承認率を大幅に改善し、承認商品数を 2000 万点以上増やすなど商品画像については一定の最適化をできていましたが、タイトル、説明文の最適化の領域ではまだ道半ばです。今後も Google のサポートを受けながらこの領域を開拓し、ショッピング広告といえば au PAY マーケットという存在になりたいです」(auコマース&ライフ株式会社 事業統括本部マーケティング編成部マーケティング企画グループ 元吉勝也氏)
「トイザらスでは、お客様がオンラインストアと実店舗を意識することなく商品を購入してもらえる購買体験『シームレスリテーリング』の実現に取り組んでいます。オンラインで商品を認知したお客様に商品の大きさや質感など実際に商品を見て確認したい、と関心を持ってもらうことで実店舗への来店にもつながります。そのため、オンラインストアの商品ページに対して特定商品に対する需要が顕在化したお客様のトラフィックを増やすことが極めて重要だと考えているのです。
今回の施策で特に良いと感じた点は、従来の商品タイトルだけではリーチできなかったお客様のトラフィックを獲得することに成功した点です。当社では、お客様により良い購買体験を提供するために、これからも新しい広告手法やデジタルマーケティングを積極的に取り入れていきたいと思います」(日本トイザらス株式会社 eコマース本部 デジタルマーケティング課 マネージャー 三石亮氏)
* 記事で取り上げた事例はいずれも 2020 年 1月中旬までのものです。
** 記事リリース後、2020/07/10 13:00 記事を更新、再掲載としております。