デジタルマーケティングの浸透した今だからこそ、広告効果測定における「 記憶バイアス 」「 季節性バイアス 」「 メディア/ 行動バイアス 」 の 3 つのバイアスを理解し、それを意識した調査設計の重要性を考えてみます。
デジタルテクノロジーの浸透によって、より早く、細かな広告効果測定が可能になりました。その結果、過去の投資を評価する成績表としての役割だけではなく、現在進行中もしくは継続的に続く広告投資へのラーニングにも直結させることもできるようになっています。
しかし、落とし穴もあります。効果測定の設計をきちんと組み立てないと「バイアス」(広告効果の結果が実際よりも見かけ上、高くあるいは低く出てしまうこと)が生じてしまう危険性があるのです。
バイアスに気付かず、取得したデータが正確であると思い込み、本当は広告効果がないにもかかわらず効果があったと判断する、あるいは、実際は広告効果があるのに効果がないという判断により、次の意思決定をしてしまうことは、中長期的にブランド価値の毀損を意味します。逆に、このバイアスを理解し、それを取り除く効果測定を設計できれば、真に価値あるデータ素材を手に入れることができるのです。
広告効果測定における3つのバイアス
では、広告効果測定におけるバイアスとは、具体的にどのようなものなのでしょう?
1.その商品やサービスのことを好きな人ほど広告を記憶している「記憶バイアス」
ある広告を見たことを覚えているかをアンケートで確認し、覚えている人といない人でブランド好感度を比較すると、覚えている人のほうが高いスコアを示す傾向があります。しかし、人は自分が関心のある広告(もともと好きなブランドなど)ほど覚えているものです。調査対象となる広告に接触して好感度が上がったと考えるよりも、因果関係はむしろ逆で、そもそも好感度が高い人ほどその広告を記憶しやすい可能性があります。
2.売れる時期に広告を実施する「季節性バイアス」
商戦期に広告キャンペーンを展開し、その前後のアンケートで購入意向を比較すると、キャンペーン後のほうが高いスコアを示すことがあります。しかし、多くの商材には、それぞれ需要が伸びる時期(冬のマスクや掃除用品など)があり、広告は相乗効果を狙って時期を合わせて展開されます。購入意向の高まりは季節需要によるものにすぎず、必ずしも広告による押し上げではない可能性があります。
3.情報感度の高い人に広告を実施する「メディア/行動バイアス」
情報感度の高いユーザーにリーチするメディアプランを作り、そこで広告に接触した人と、そのメディアに訪問せず広告に接触しなかった人とでブランド認知を比較すると、広告に接触した人が高いスコアを示すことがあります。しかし、メディアプランが的確ならば、その広告に接触した人はそもそも情報感度が高いため、広告の有無にかかわらず、高いブランド認知度を示す可能性があります。
デジタルマーケティングの効果測定における落とし穴
実はこれらのバイアスは、非デジタルの広告に比べ、デジタル広告において発生しやすい傾向があるのです。
一般的に、広告コミュニケーションではメッセージを届けるターゲットを絞ります。「誰に」「いつ」メッセージを届けるかが、コミュニケーションを適切に行うためのポイントです。
デジタルでは非デジタルに比べてターゲティングや期間をより精緻に設定できます。これは同時に「もともと関心のありそうな人」、「もともと関心が高まる瞬間」、「関心の高い人が訪れるメディア」にターゲティングができてしまうことを意味します。それぞれ、関心が高く好きな人ほど広告を記憶している「記憶バイアス」、売れる時期に広告をする「季節性バイアス」、情報感度の高い人に広告を実施する「メディア/行動バイアス」が起こる要因になります。
テレビ広告の場合、デジタルほど正確にターゲティングすることはできません。非デジタルでは表面化しなかったバイアスが、デジタルではより顕在化しやすく、バイアスによるミスリードの問題が大きくなりがちです。
より早く細かいデータが取得できるようになったデジタルマーケティングにおいて、それをどう活かすかという課題が注目される中、そのデータが実はより強いバイアスを受けているため、気付かぬうちに間違った判断へと導かれる可能性もあるのです。
バイアスにどう対応するか
では、どうすればミスリーディングのない、バイアスを除去した正確な広告効果測定を実施できるのでしょう?
比較において、見過ごされやすいのがバイアスです。広告効果測定においては、前述した3つのバイアスがあります。広告接触する前から、すでにブランド認知等で差異があるバイアスを広告効果と見なしてしまうことにより、実際には効果がなかったにもかかわらず、誤って効果があったと判断するケースです。
デジタル広告の特徴である、どのような人に、どのような広告を配信するかを細かく設定できる「ターゲティング機能」と、ターゲティングの成果を正確に把握するための「測定機能」の2つが、バイアス除去においても重要な役割を果たします。
記憶バイアス除去には、デジタルの「測定機能」を使います。デジタルでは、広告に接触したかどうかをユーザーの記憶に頼ることなく、行動記録として正確に把握できます。広告キャンペーン期間後に、行動記録ベースで広告接触をしたユーザーにアンケートを取ることで、記憶バイアスのないユーザーの広告コミュニケーションに対する本当の反応が明らかになります。
季節性バイアスやメディア・行動バイアスの除去には、デジタルのターゲティング機能を使います。
最初にユーザーをランダムに2つのグループに分け、1つのグループには自社の広告を配信し、もう1つのグループにはそれとは異なる広告(ダミー広告)を配信します。その際、両グループとも配信時期、配信先のメディア種類、性別年代ターゲティングなどの条件を同じ設定にします。配信時期を揃えることで季節性バイアスを除去し、配信先メディアとターゲティングも同じなのでメディア・行動バイアスが除外できます。
この2つのグループの差異は、自社広告の接触者か、それともダミー広告の接触者かのみです。季節性やメディア特性などそれ以外の差異は全くないのでバイアスはなくなり、広告接触をしたかどうか以外は同質なグループとなります。
もしこの2つのグループの間で、広告コミュニケーションから得られるであろう効果、例えばブランドに対する認知や好意、購入意向などに統計的に有意な違いがあると確認できれば、広告接触による効果と見ることができます。
Lookforwardもできるデジタルだからこそ、次のActionのために大切なこと
従来メディアに対するデジタルの特徴は、タイムリーな効果測定ができることです。つまり、必要な時に、必要な情報が、正しい形で手に入るのです。広告効果測定では、「過去の活動に対する説明責任」だけではなく、「未来の活動へ向けての学び」が実現できるようになりました。
しかし、「未来の活動へ向けての学び」を正しく行なう際の落とし穴が、既に述べたようにデジタルだからこそバイアスが顕在化しやすいという点です。広告効果測定の実施者が設計を正しく扱わなければ、ミスリードから発生するであろう問題がより大きくなる可能性があるのです。
未来に向けて学ぶためには、バイアスを理解し正しい広告効果測定を行うことが大切です。ただし、バイアスだけを理解すれば十分というわけではありません。
物珍しさや話題性に振り回されることなく、そして過去の成功例に執着することもなく、根拠に基づいて意思決定を行う。そのためには、調査結果を鵜呑みにはしない批判精神、たとえ不都合な真実であっても発言する勇気、課題を解決するためのテクノロジーの理解とそれを活用する創造力など、さまざまな力量もまた必要とされるのです。