デジタルマーケティングの一般化によって、Web 上のログデータに基づいて広告効果を詳細に計測する「ログベース」での効果測定が主流になっていきました。
しかし次第に Web だけではなくアプリの利用が浸透し、Web とアプリのログとの整合性を取りにくくなってきたこと、また昨今ではプライバシーへの配慮からトラッキングが制限されてきたことなどから、その効果測定の限界も見えてきたのです。
そこでログデータに頼らない効果測定の手法として、企業はインタビューやアンケートを通じた「アスキングベース」での測定も試みています。ただし、依然から指摘されているように生活者の記憶に頼った回答になるため、一定のバイアスが避けられません。
こうした状況下で、プライバシーに配慮しながら媒体別の広告効果の精緻な測定に活用できるのが、Google の「Ads Data Hub(ADH)」です。本記事では、ADH を効果測定からメディアプランニングにまで生かしている、株式会社NTTドコモの事例を紹介します。
“ 効果測定バイアス ” 問題を解決する ADH
NTTドコモは従来、アンケートやインタビューを基に広告を評価していました。しかし前述のような記憶違いによる誤答が避けられず、正確な媒体別の効果を測定できずにいたのです。
同社の検証では、特に「広告想起」に関して推定値よりも高く評価されてしまうというバイアスがあることが判明しました。これは NTTドコモに限らず、業界の中での存在感が強い企業で発生しがちな問題です。
そこで NTTドコモは、ADH を活用したログベースでの測定を試みました。ADH はユーザーのプライバシーに配慮しながら、精緻な広告効果の計測を可能にするソリューションです。
ADH を利用するには、技術的なリソースが欠かせません。自社にない場合にはパートナー企業と組むという選択肢もあるでしょう。NTTドコモは調査会社インテージの協力を得て、インテージが保有するテレビ CM の接触ログデータと調査データ、そして Googe の広告接触のログデータを、プライバシーに配慮した形で ADH の環境下で紐づけました。広告接触者と非接触者それぞれの接触前後のデータを分析することで、バイアスを取り除いた広告効果を測定できるのです。
YouTube 広告とテレビ CM でリフト比較、ADH で正確に分析
今回、効果測定を行ったのは NTTドコモが 2022 年に実施した若者を支援するプロジェクト「docomo future project」の広告です。同社がアーティストとコラボし、公募で選ばれた学生が監督となり、ドコモがサポートし短編映画を制作する取り組みです。
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ADH の環境下で、ファーストパーティデータとインテージが保有するパネルを活用し、計 15 回にわたってブランドリフト調査を実施しました。YouTube 広告とテレビ CM のリーチ規模や単価、それぞれの重複リーチなどを精緻に測定。ブランドリフトと費用対効果(ROAS)を最大化するためのテレビ CM と YouTube 広告の最適なメディア配分を検証しました。
その結果が下図です。
広告自体の認知や興味は、YouTube 広告とテレビ CM のどちらでも優位なブランドリフトが見られました。
また YouTube 広告とテレビ CM のいずれにおいても、今回の NTTドコモによる取り組み自体の認知が大きく向上。加えて YouTube 広告では、同社が若者へのチャレンジの場を提供しているという認識に関するリフトも見られました。YouTube 広告では、今回の広告キャンペーンからさらに踏み込んで、同社のブランドイメージの理解を促すことに成功したと言えそうです。
なお、YouTube 広告のブランドリフトについてに詳しく見ると、世代別では、若年層を中心にリフトが見られました。デバイス別に見ると、YouTube コネクテッドテレビ広告ではキャンペーン認知や興味といった項目が伸びていました。一方でモバイル、タブレット、PC では、好意度のほか、購入意向、NPS のスコアなど、より深い指標でのリフトが見られました。
YouTube 広告とテレビ CM の効率性を見ると、いずれの項目でもYouTube 広告のリフト単価はより安く、またより少ないフリクエンシーで高いブランドリフトを生み出していることがわかりました。例えばテレビ CM の場合、「(NTTドコモが)若者がチャレンジする場所を提供している」というブランドについて9回の接触でブランドリフトが発生しましたが、YouTube 広告の場合、4回の接触でブランドリフトが発生しました。
さらに、テレビ CM と YouTube 広告を両方見た人のブランドリフトは、単独視聴者よりやや高く、重複接触による相乗効果も見て取れます。
精緻な効果測定だけでなく、ダイナミックなメディアプランニングにも
新しい効果測定を取り入れたことで、NTTドコモでは、メディア別の広告効果を詳細に可視化できるようになりました。より正確な効果測定が可能になったことはもちろん、今後のメディアプランニングやメディア投資をダイナミックに変更できるようになったことにも大きな意味があります。
同社では、他サービスへも ADH を活用した広告効果測定を導入していく予定です。また現在は、ADH を活用して、ファーストパーティデータとGoogle 広告のデータを用いてビジネス上の ROI を直接計測する仕組み化に取り組んでいます。さらに ADH のデータを、マーケティングダッシュボード上でのレポートと一元化する仕組みも検討するなど、効果測定のさらなる可視化、自動化も進めています。
NTTドコモのように ADH を活用することで記憶に頼った従来の測定手法よりも正確に、かつトラッキングが難しい中でもプライバシーに配慮した効果測定が可能になるのです。
Contributor:
テレコム・ペイメント業界 統括部長 文省勲
テレコム・ペイメント業界 インダストリーマネージャー 川端栄佑
テレコム・ペイメント業界 アカウントマネージャー 山田晶