企業のマーケティング事例と関連するキーワードを手軽に学べる連載「事例で学ぶキーワード」。今回は、株式会社バンダイナムコエンターテインメントが「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」を活用して、アプリビジネスにおける広告投資を最適化した事例を基に解説します。
事例:ATT 導入など環境が変わっても —— アプリビジネス成長へ多角的な広告の効果測定がカギ、バンダイナムコエンターテインメント
バンダイナムコエンターテインメント(BNEI)は、ゲームアプリの宣伝費の投資対効果を最大化するため、どの広告やプロモーション施策がどの程度ビジネスに貢献しているのかを正確に把握したいと考えていました。特に、獲得向けの広告キャンペーンや認知拡大を目的とした YouTube 広告、テレビ CM など、多岐にわたって展開しているプロモーション施策が、アプリのインストール数にどのように影響しているかを分析する必要があったのです。
しかし、プライバシー保護を強化する動きの中で、データの計測は従来よりも難しくなっています。そこで同社は、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)を独自に開発することを決定しました。MMMとは、広告や売上などのマーケティング関連データを時系列で蓄積し、統計学を用いて分析する手法です。
BNEI では、デジタル広告、オフラインプロモーション、ゲーム内イベントなど、多様な要素が KPI にどのような影響を与えているのかを分析できる独自の MMM モデルを構築しました。この分析結果をもとに、ビジネス目標に対して最も効果的な媒体ごとのコスト比率を算出し、各施策に反映しています。
同社が広告の効果測定に使用したのは MMM だけではありません。たとえば「CausalImpact(コーザルインパクト)」という統計手法を活用し、特定のキャンペーンがアプリのインストールにどのような影響を与えたかを時系列データから推定しました。これにより、認知施策の効果を高精度に推定し、プロモーション戦略の最適化に役立てました。
このように、データに基づいた多角的な広告効果測定が、BNEI のアプリビジネスの成長を支えています。
用語解説:マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)
マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)は、広告やプロモーション活動が売上や市場シェアなどのビジネス成果に与える影響を定量的に分析する手法です。複数のマーケティング施策や外部要因を統計モデルに組み込み、その効果を評価します。
MMM には大きく 3 つの特徴があります。

1:プライバシー保護:分析にあたって、サードパーティ Cookie など個別のユーザーに関する情報は必要ありません。広告出稿量や費用などのマーケティングデータと、申込数や販売数、売り上げなどの自社データがあれば分析できるため、プライバシーに配慮した手法です。
2:外部要因の考慮:競合の動向や季節性、トレンドなどの外部要因を含めた分析が可能です。
3:メディア間の相互作用の評価:デジタル広告やテレビ CM など、複数のメディア間の相互作用を考慮し、各施策の投資効果を可視化できます。
今回取り上げた BNEI の事例でもわかるように、MMM を活用することで、広告効果を俯瞰で評価し、ビジネス成長につなげられる可能性があります。
MMM の活用にあたっては、自社内でのモデル構築だけでなく、外部パートナーとの連携も、ビジネスへの実装を加速させる選択肢になります。博報堂DYグループが公開した「Marketing Mix Modeling Guidebook」、電通グループが公開した「MMMガイドブック」では、それぞれのアプローチによる MMM の構築に役立つ情報をまとめています。また 2025 年 1 月には Google が開発したオープンソースの MMM である「Meridian(メリディアン)」もリリースしました。メリディアンの認定パートナーと連携しながら、自社ビジネスとの適合性を検証し、適切な MMM のモデルを選定、構築しましょう。