企業のマーケティング事例と関連するキーワードを手軽に学べる連載「事例で学ぶキーワード」。今回は、ライオン株式会社による「CausalImpact(コーザルインパクト)」の活用事例を基に紹介します。
事例:ライオンやサントリーのクロスメディア検証 —— テレビと YouTube の重複接触、メディアごとの効果を明らかに
従来、ライオンのオーラルケアブランド「クリニカ」は、テレビ CM を中心としたマーケティングで認知を獲得してきました。
YouTube 広告はテレビ CM の補完としての活用でしたが、生活者のメディア接点の変化を受けて、2022 年に発売した新商品のマーケティングでは、これまでの同社のセオリーを転換。さらなるブランドの成長に向けて、生活の隅々まで浸透している YouTube が態度変容を促せるのか、検証しました。
テレビ CM に加えて、TrueView インストリーム広告と 6 秒のバンパー広告を配信して結果を分析したところ、テレビ CM と YouTube 広告に重複接触した場合、非接触者よりも商品の特長理解が 5 ポイント高いという結果に。これはテレビ CM のみに接触した場合と比べても高い数値でした(*1)。
また YouTube 広告で態度変容を促すために必要な広告への接触回数は 3 回で、この事例に限れば、態度変容コストもテレビ CM の 3 分の 1 に抑えられました(*2)。
この事例で確認できたのは、認知や態度変容にとどまりません。Google が開発した「CausalImpact」という統計分析の手法を用いたところ、売り上げへの貢献も明らかになりました。
都道府県レベルでトレンドが似た 2 つのグループを作成し、一方にはテレビ CM、もう一方にはテレビ CM と YouTube 広告を配信。その結果、YouTube 広告による売り上げへの純増は、全体では 8%、主な顧客層である 30 代 〜 50 代女性に限れば 11% と確認できたのです(*3)。
用語解説:CausalImpact
CausalImpactは、Google が開発した「ある広告施策が時間の経過とともに KPI にどのような影響を与えるかを推定」する手法です。
たとえば広告効果の測定でよく用いられる方法として、広告施策の前後に調査を行ってその回答の差異を分析するプレ/ポスト比較がありますが、これには季節によるトレンドの変化や調査対象者の選定など、さまざまなバイアスが生じる可能性があります。その結果、広告施策による効果なのか、それ以外の要因によるものなのかを切り分けるのが難しく、KPIへの貢献度が不明瞭になるという課題があるのです。
それに対して CausalImpact は、施策の影響を受けていなかった場合の KPI を推定することで、施策の効果を明らかにします。
CausalImpact の手順
- 類似データの準備:施策前の KPI 時系列データと、それに似た波形を持つ時系列データを用意する
- モデル推定:施策前と期間中でトレンドが変わらないという仮定のもと、KPI 時系列データが施策の「影響を受けていなかった場合」を推定する
- 効果の可視化:施策期間中の推定値と実測値の差分を、施策の効果として可視化する
今回取り上げたライオンの他にも、株式会社バンダイナムコエンターテインメントやパーソルキャリア株式会社の事例でも活用されています。