わたしたちの日常には、海外企業が展開する商品やサービスがあふれています。家電やスマートフォンなどの電化製品や日用品はもちろん、多数のオンラインサービスが世界中で利用できます。また、大小を問わず多くの日本企業が国外でもビジネスを展開しています。
これは「インターネットによって企業が世界中の国や地域でビジネスを展開する障壁が低くなっている」こともこの要因の 1 つと言えるでしょう。しかし、国によって言葉も文化も異なる中でのグローバル展開は、簡単ではありません。ある国ではうまく展開できても、ある国では別の工夫が必要になることもあります。
そうした言語や文化を越えた効果的なビジネス展開に必要不可欠なことが、「Localization(ローカライゼーション)」です。
マーケターにとっての「ローカライゼーション」
ビジネスにおけるローカライゼーションとは、自国以外に対してビジネスを展開する際に、その国の言語はもちろん、文化や習慣を考慮して、商品やサービスをその市場に適応させるプロセスを指します。ローカライゼーションの中でも、とりわけ重要な要素は翻訳です。安易な翻訳では、意図したメッセージを適切に届けることはできません。
たとえば、自社の Web サイトを他国に展開する時に、不自然な翻訳をしてしまうとブランドの信頼を損ねてしまうことが懸念されます。また同一の製品やサービスを各国で展開する広告キャンペーンも、その翻訳次第で成否が変わる可能性があります。翻訳はさまざまな結果を左右する要素なのです。
Google におけるローカライゼーションの課題
グローバル展開におけるローカライゼーションについては、私たち Googleにとっても大きな課題の 1 つです。まだまだ課題を抱えながら、改善に取り組まなければいけないと考えています。
Google では、世界や地域を横断して行うプロジェクトと、現地発のプロジェクトの双方が存在しますが、前者の場合、グローバルチームが発案した企画書や計画書が各国に展開され、各国のチームが実行に移す、というのが典型的な流れです。これは多くの企業と同様なのではないでしょうか。このような時、必要な時間をかけずに急いで翻訳をしようとすると、本来伝えようとしていたことが汲み取りきれなかったり抜け落ちてしまったりした結果、意図しない企画が行われてしまうリスクがあります。
しかし、ローカライゼーションは現地の言語と文化に対する高度な理解を要するものであり、その課題意識を説明すること自体も難しいため、各国のチームから企画元のチームに対してフィードバックがなされない、もしくはその伝え方がわからないといった悪循環に陥ってしまうケースもあります。
こうした課題解決に企業やマーケターはどのように向き合えば良いのでしょうか。
ローカライゼーションの 2 つの課題、生活者調査と言葉
日本を対象にしたローカライゼーションに関して、Google のコンシューマー マーケット インサイトチームが株式会社morph transcreation と共同で進めてきたプロジェクトを通して、調査と表現についてそれぞれの課題が見えてきました。
なじみがない単語、一貫性がない翻訳……マーケティングにおける調査で多発する 6 つの問題
マーケティングにおいて、リサーチは企業が生活者の行動や意識を理解する方法の 1 つ。定量的または定性的な手法を通して自社の既存顧客や潜在顧客のもつインサイトを理解し、製品やサービスの開発、ユーザー体験の改善、マーケティング戦略などに活かします。
ビジネスをする上で、まず生活者に向き合うことで正しい顧客のインサイトをつかむことは非常に重要です。しかしこれも、複数国で同じ調査を展開する場合、きちんとローカライズしないまま進めてしまうと、誤った結果を導いてしまうかもしれません。生活者調査でつまずけば、当然その後の製品開発や広告キャンペーンもその誤った調査結果に沿って展開することになってしまいます。
そんな調査のローカライゼーションにおける問題点を次の 6 つに分類しました。6 つそれぞれの頭文字をとり、「LITTER(リター、散らかしたもの)」と表現しています。
- 文脈の考慮が欠けた直訳(Literal translation)
- 対象地域に関連のない項目(Irrelevance to the target market)
- 口調を考慮しない翻訳(Tonally-unaware translation)
- 不正確な専門用語(Technically Inaccuracy)
- 一貫性のない翻訳(Erratic user of words)
- 馴染みのない単語の使用(Rarely used vocabulary)
たとえば 1 に関して言えば、英語の「Personal life」は、通常であれば「私生活」と訳してもまったく違和感はありません。しかし調査の設問の中で用いる場合には、「あなたの普段の生活」と回答者の視点を考慮した翻訳の方がより適切だと言えます。
また 2 の例として、日本で実施する買い物に関する調査の中で、スーパーマーケットの例として米国の Walmart や Target を挙げるのは適さないでしょう。それらを知らない回答者は誤解してしまったり、自分ごと化できなかったりして、誤った回答をしてしまう可能性があります。
生活者調査編の記事では、6 つそれぞれの問題点と対処法を紹介します。
「Thought leadership」「Inclusion」をどう訳す? 表現を考える際に直面する課題
調査と同様、広告表現や社内外の関係者に共有する資料内の表現においても、ローカライゼーションの視点が必要です。
同じ言語でも、人によって理解や解釈が異なる表現は多くあり、100% 正しいニュアンスで伝わらないことがあります。同じ言語間のコミュニケーションでもそういったことが発生しているのですから、言語をまたいだ場合であればなおさらです。
たとえば、外国語では一般的であるものの、まだ日本語にマッチする単語が存在しない新しい概念を伝えたい場合、それをどう表現するかといった問題が挙げられます。
本プロジェクトで取り組んだ表現の 1 つに、“ Thought leadership(ソートリーダーシップ)” という概念があります。これは、社会の潜在的な課題を先見的に見つけ出し、企業のみならず社会的インパクトをもたらす「個人」でも「企業」でもない多様な複数人で民主的に醸成する「行為」や「行動」を指す概念です。
しかし、この考え方を日本で広げていく上で適切な表現はまだ存在していません。新しい概念を伝えるためには、すでに日本にあるさまざまなリーダシップ論と、何が異なり、どう表現すべきなのか。これらを明らかにする必要がありました。
もう 1 つ例として取り上げたのは、近年、社会における多様性の重視とともに話題に上がることも増えてきた “ Inclusion(インクルージョン) ”。直訳すると包含、包括といった意味です。
本来 Inclusion は、「行動を促す」という文脈で使われることが多い言葉ですが、単にカタカナの表現ではその意味が伝わりにくくなります。今後、こうした概念を日本でも広く共有していくには、その意図をしっかり示し、それを読んだ人たち全員が同じ解釈をもって理解できるようにするための工夫が必要になるでしょう。
こうした点を深掘りして分析、検討していくと、チーム同士でも言葉の意味を明確化して、初めてその言葉の本来の意図が相手に伝わることがわかりました。
言葉の意味を明確にすることは業務や社内のコミュニケーションを円滑に進めるために、とても有効な手法です。全員が適切な表現ができるようになりますし、チーム間、部署間、組織間で共通認識をもち、同じ方向を向けるようになるのです。詳細は、言葉編の記事をご覧ください。
こうした、表現やマーケティングにおける調査に関する問題について、それぞれの記事で詳しく Google のコンシューマー マーケット インサイトチームのアプローチを紹介しています。これらの記事が、企業組織内で共通認識をもつことにつながったり、違う言語間でも同じ言語間でも、言語化しづらいニュアンスの可視化につながればうれしく思います。
*記事リリース後、2021/09/30 15:30 記事を更新、再掲載としております。