事業運営の中で、期待顧客価値(ある顧客が企業にもたらすであろう期待利益)を見極めるのは、これまで困難でした。しかし技術の発展に伴い、現在では顧客ごとに、期待顧客価値をその属性や行動を既存顧客のデータの分析結果を突き合わせることで、それぞれの顧客が持つ期待顧客価値に応じたマーケティングが可能になってきました。
その実際の流れやその活用法・効果などを、中古自動車買取・販売大手 IDOM の取り組みを通してご紹介します。
IDOM では、なぜ顧客分析が必要だったのか?
国内の自動車市場は成熟しており、
この状況下で中古自動車の買取・販売を展開する IDOM としては、単に中古車の販売台数を増やすだけではなく、一台当たりの取引から得られる利益を上げるため単に顧客獲得数を追うだけではなく、高い「期待顧客価値」を持つ顧客の獲得戦略が求められます。
課題となったのは、そうした顧客をどう見極めるかです。中古車買取・販売の成約に至るまでの期間は長く、ネットと実店舗の両方が複雑に関係してきます。オンライン広告経由で申し込みした顧客であっても、見積もり、来店、成約までのオンラインとオフラインデータを一元管理する必要があり、また数年後の買い替えなどもあるため、1 人の顧客データを長いスパンで統合・分析しないと正確な売上、利益への貢献度は分かりません。
そこで同社では、膨大なオフラインとオンラインの顧客データを一元化し、機械学習で属性と行動を分析するインフラを Google Clould Platform(Big Query)を使って数年前から整えてきました(IDOM のデータを最大限活用したマーケティング事例)。今回その一歩先の施策として行ったのが、顧客分析によって期待顧客価値ごとにマーケティング予算を最適化し、結果として売上、利益を最大化する、という取り組みです。
考え方としては下図の通り、これまでの期待顧客価値を無視した一律の投資で発生していた「機会損失」(期待価値が高いため、投資・リーチの拡大余地がある顧客セグメント)と、「過剰投資」(期待価値が低く、現状の投資額では利益貢献が少なく、投資を絞るべき顧客セグメント)への投資を右の通り、期待顧客価値に応じて投資を再配分することで、最適投資を実現しようという考え方です。
図:IDOM の行った期待顧客価値に応じたマーケティング投資の再配分
IDOM の顧客分析で何が見えてきたのか?
IDOM では分析の過程で、地域によって中古自動車の役割は大きく異なるため、顧客属性の中で「地域」と「期待顧客価値」は大きく影響していることを仮説としてもっていましたが、それを検証することができました。
例えば、自動車が必ずしも必要ではない大都市と、必需品でありインフラとも言えるそれ以外の地域では顧客の中古車に対するニーズも異なります。
そうした仮説を過去の販売データから検証し、同社の期待顧客価値算出過程に反映する事で、より正確な期待顧客に応じたマーケティング投資の再配分が可能になりました。
実際にもう少し同社が作った仕組みを具体的に説明すると、下図の通りになります。
- 中古車買取見積もりフォームから入力された地域を含む見込顧客の顧客属性を得る
- 過去の実績に基づいた顧客期待価値の分析結果と照らし合わせる
- 顧客価値に応じたマーケティング投資の予算配分を考える
- 顧客価値に応じた最適な予算内で効果的なマーケティングコミュニケーションを行う
図:期待顧客価値に応じたマーケティング投資を実現するためにIDOMが作った仕組み
また、その過程で、投資をこれまでのコンバージョンという点ごとの最適化から、マーケティング予算全体の線での最適化を実現するために、AdWords 広告(検索連動型・ディスプレイ広告)の運用をこれまでの目標コンバージョン単価制から、目標広告費用対効果(目標とする広告費用対効果を指定し、それに沿った自動入札と最適化をする機能)に変更を行いました。
成果
期待収益に基づいたマーケティングを実施した結果、高収益セグメント顧客からの利益が増大し、
AdWords 広告(検索連動型・ディスプレイ広告)での成果は利益、コンバージョンとも大きく上昇しました。利益は +186.7%、コンバージョン数は +156.3% 増加しました(下図参照)。
利益= AdWords 経由の見積もり請求からの利益 - AdWords 投資額
コンバージョン数= AdWords 経由の見積もり請求数
市場全体としては大きく伸びていない中で、この様に、技術の進化によって顧客分析に基づいてより事業にとって利益をもたらす顧客の属性や行動を理解し、その価値に応じたマーケティング予算を最適化が可能になっています。こうすれば、これまで機会損失していた顧客にコミュニケーションをすることで、まだまだ利益を大きく伸ばすことが可能と考え、取り組んでおります。
以上