「ビジネスパーソンにとってリサーチ、あるいはマーケティングリサーチとは何か」と聞かれたとき、あなたならどう答えますか?「ビジネスの方向性を考える上で重要なデータ収集の手段だ」と答える人もいれば、「商品を開発する上で大切な消費者の声を聞くチャンスだ」と言う人もいるでしょう。また、「さまざまな接点がデジタル化されているこの時代、もはやマーケティングリサーチは時代遅れだ」と答える人もいるかもしれません。
ではリサーチという言葉には、どのような意味があるのでしょうか?
Research、Survey、Investigation…...すべて「調査」でよい?
そもそも英語の「Research」の意味を調べると、オックスフォード英語辞典では「the systematic investigation into and study of materials and sources in order to establish facts and reach new conclusions」と定義しています。つまり、「事実を明らかにし、新たな結論に到達するために、資料や情報源を体系的に調べ、研究すること」です。他の辞書を参照しても、おおむね同じような定義です。
ここで大切なことは、Research とは、Investigation や Study を含む概念の言葉だということです。Research は、事実を明らかにして新たな結論への到達を目的としたもので、そのための手段の 1 つとして個別の Investigation を体系的に実施するわけです。さらには、その Investigation のために必要に応じて、大規模アンケートなどで知りたい対象全体の状態を測定するための Survey を取り入れることもあります。Research とは、こうした全体を指す概念なのです。
これに対して日本語では、Research と Investigation、さらには Survey も、すべて「調査」と訳されます。英語では意味が異なっているにもかかわらず、現状、それぞれを正確に分けて書き表すのが日本語だと難しいのです。
これを決して小さいことだと思わないでください。私は 20 年以上、マーケティングリサーチャーとして仕事をするなかで、この「表現のズレ」にずっと悩まされてきました。そして、こうした「Research」と「調査」のズレた表現こそが、マーケティングリサーチという言葉の使われ方にも影響を及ぼしてきました。実は日本におけるマーケティングリサーチ、さらにはマーケティングリサーチャーの役割を停滞させ、その責任を曖昧にしてきた原因なのではないか、と考えるに至ったのです。
本質的なマーケティングリサーチとは
デジタルテクノロジーが発展した現在、ビッグデータや機械学習、ニューロサイエンスなど、新しいテクノロジーを活用したデータ解析に、これからの企業経営の活路を見出したいと思う人も、多いかもしれません。
本質的なマーケティングリサーチとは、それらひとつひとつのデータが個別に明らかにする事実の関係性を読み解き、その背景や意味合いを検証した上で、1 つかそれ以上の可能性や方向性を提示するものなのです。そう考えると、実は今、多くの企業が求めているのは「マーケティングリサーチ」という構造を踏まえた機能なのではないでしょうか。
現在、多くの企業では、統計分析やデジタルマーケティングの機能、あるいはマーケティングダッシュボードなどが整っているかもしれません。しかし、そうしたダッシュボードなどが指し示す可能性を読み解き、それに沿った行動を取るのは簡単ではありません。マーケティングリサーチの機能を、本来の意味で十二分に活用するためには何が必要なのでしょうか。
これからの時代に求められるマーケティングリサーチ
以降は連載として、マーケティングリサーチの概念をアップデートすることを目的に、マーケティングリサーチのあるべき姿と、その実現の方法について考えていきたいと思います。
この連載は、いわゆる「リサーチャー」だけを対象としたものではありません。マーケティングはデータドリブンの時代であり、機械的にデータを取得する設計が重要視されます。それらを分析するデータサイエンティスト、そのデータから企業経営方針を決定する人など、関係者も多岐にわたります。
そうした動きに共感し、あるいは急かされて、データ分析の部署や部門に投資しているのに、なぜうまくいかないのかという感覚をもっている人に読んでいただきたいのがこの連載です。ご覧になった読者が何かしらのヒントを得たり、考えたりするきっかけになれば幸いです。
次回は、「マーケティングリサーチに投資する目的」を考えていきます。